「生命の設計図」であるゲノム(全遺伝子情報)をすべて読むという構想が1980年代に浮上した時、多くの科学者は懐疑的だった。30億文字の読み取りは膨大な時間と費用がかかる。1文字当たり10ドルで総費用300億ドル、数十年かかると見積もられた。読みとり作業は単調な繰り返しで「一人前の科学者のする仕事ではない」との意見もあった。 . . . 本文を読む
足利紫山(しざん)師(安政6年生まれ、昭和34年101歳にて示寂)に相見したのは、老師93歳のときであった。そして「夢」という墨跡をいただいたのは、老師97歳のおん時であった。それ以来この一字を床に掲げて礼拝してきたわたしの瞼に、何かと浮かんでくる、夢のような美しい思い出のいくつかがある。 . . . 本文を読む
人が、禅とはいかなるものかと問えば、自分は禅とは夜盗の術をまなぶに似たるものと答えるであろう。ある夜盗の息子が自分の父の年老いたのを見て思った。「親父が商売をやれぬとすれば、この己より外に自家(うち)の稼ぎ手はないわけだ。己が商売をおぼえねばなるまい」。彼はこの考えを父親にひそかにもらし、父親もこれを承知した。 . . . 本文を読む
名人の誉れ高い古今亭志ん生さんですが、一方で大酒飲み、貧乏のどん底の経験者として数々の逸話を残している噺家でもあります。多くは本になっていたりするのでご存じの方も多いでしょう。しかし、村上さんは、志ん生さんほど、心優しく、いつでも茶目っ気を忘れない人は他に知らないとおっしゃいました。 . . . 本文を読む
日経新聞「やさしい経済学」で日本の企業家を特集しています。一人8回のシリーズで、作家や大学教授が紹介文を担当します。今回の企業家は鮎川義介。紹介者は東京大学教授の岡崎哲二さん。以下に、8回シリーズのダイジェストを記します。 . . . 本文を読む
旧帝大を卒業し、自ら会社を創業し、その会社を成長させて株式を証券市場に公開した人は、船井社長、あなたで三人目です。一人目は堀場雅夫さんです。堀場製作所の創業者ですね。1971年(昭和46年)に上場されました。二人目は京葉産業(現代名ケーヨー)の永井幸喜さんです。1984年(昭和59年)の上場です。そして三人目が船井幸雄さんです。面白いことに、三人とも京大の卒業生なのですよ。 . . . 本文を読む
これは要するに、科学の唯物論的前提にはそろそろ見切りをつけよう、自然界は盲目的な機械的要因だけでは説明が不可能で、「デザイン」すなわち思想、目的、計画といった要因が働いていることを科学として認めようではないか、という運動である。 . . . 本文を読む
2000年4月には、大統領選挙に当選した直後のプーチン大統領代行兼首相(大統領への正式就任は同年5月)とはじめて会見することになった。プーチンは、原則として外国の国家元首としか会わない。しかし、鈴木氏は例外で、いつでもプーチンと面会できる稀有な外国人政治家になった。 . . . 本文を読む
2002年5月14日午後、外交史料館3階の応接室で筆者は逮捕された。逮捕容疑は、2000年4月、イスラエルのテルアビブで行われたテルアビブ大学主催のロシア問題に関する国際学会に袴田茂樹青山学院大学教授、田中明彦東京大学大学院教授らを派遣する際の費用を外務省関連の国際機関「支援委員会」から拠出したことが背任にあたるというものだった。 . . . 本文を読む
ボルシェヴィキ運動はユダヤ人の運動だったが、ユダヤ民族全体の運動ではなかった。ほとんどのユダヤ人は、その運動と全く無関係だった。実際、多くのユダヤ人は、そしてもっとも典型的なユダヤ人たちは、それを毛嫌いしているのだ。多くの人々は積極的にその運動と戦ってもいる。その運動の罪悪をユダヤ人全体のせいにするのは、深刻な不正行為であり、思想的混乱から生まれるものである。少なくとも私にはそのような混乱はない。 . . . 本文を読む
竹内好は、現代シナ文学の研究者として虚名を売ることには見事に成功しました。もともとシナの古典を研究せず、シナの歴史も勉強しないで無学そのものの人でしたから、シナ学における肝心カナメのことが一向にわかっていませんでした。すなわち、長い伝統につちかわれたシナの国民性、平たく言えば、シナ人の根性についての理解です。そのため、多少とも本筋にシナを研究したほどの人なら一笑に附したであろうような頓珍漢を、平気で公言したものです。 . . . 本文を読む
日本人が自国の旧軍隊の悲劇だけを犯罪と言い立てるのはなにかの政治的下心でなければ、自分を虐げ苛むことで道徳的に自分を美化できると信じる集団ヒステリー的病理である。自ら謝罪と償いを必要とすると自分だけを責める日本人の心理状態が少し狂っているのではないかとつねづね考えている私は、ドイツの「常識」を尊重している。人間性の罪業の深さを知り、歴史に対する断念の美学を弁えているヨーロッパ社会の健全さに敬意を表している。 . . . 本文を読む
義満は、甚だしく公家化したのであるが、その次の将軍足利義持(よしもち)は、その反対のことをした。義満の望んでいた大上法皇(だいじょうほうおう)の尊号が、朝廷よりわざわざ下されたとき、義持はそれを辞退し、義満夫人(後小松(ごこまつ)天皇の准母(じゅんぼ))の葬式も簡略にし、義満自慢の北山第(きたやまてい)も、大部分、取り壊したことはすでに述べたとおりである。つまり、武士の棟梁(とうりょう)としての足利将軍に戻(もど)ろうとしたわけである。 . . . 本文を読む
男女のことほどありふれたものはなく、それが盛んなだけでは、お話にならない。しかし『伊勢物語』は、それが美しいものでありうる姿を示している。そして、この物語が日本の重要な古典であり、昔から教養書として読み継がれてきたのである。それは『ファニー・ヒル』の男性版ではないのだ。『感情教育』なのである。 . . . 本文を読む
自尊心に発する批判衝動の攻撃本能が、最後に行き着くところ、それは自分が生を享(う)け育てられ守られている祖国、現に国民の一人として生活の日常を保護されている国家の、つまり自分が国籍を有する祖国の先祖であり同朋(どうほう)である国民の全員に対する、血の通っている人間とは思えない冷酷な侮蔑となる。
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