電脳筆写『 心超臨界 』

人生は歎き悲しむよりも
笑いとばすほうが人には合っている
( セネカ )

◆硫黄島で栗林中将が禁じた二つのこと

2024-07-28 | 05-真相・背景・経緯

§3 日米戦争によってアメリカは日本を侵略した
◆硫黄島で栗林中将が禁じた二つのこと


爆撃の目的はもはや本土で女と子供(こども)を殺すことだ。女と子供を殺す、すなわち民族を根絶(ねだ)やしにされると日本に恐れさせて降伏(こうふく)に導(みちび)くのが、アメリカ軍が硫黄島を取る本当の理由である。だから今から穴を掘ろう、穴を掘って立てこもって、やがて、みな死ぬ。みな死に、故郷には帰れない、家族にはあえない。しかし穴を掘って立てこもったら一日戦いを引き延(の)ばせるかもしれない、最後は負けても、一日引き延ばしたら爆撃が一日、遅れて一日分、本土で女と子供が生き延びる、二日延ばしたら二日分、本土で女と子供が生き残る。そこから祖国は甦る。だから穴を掘ろう。


『ぼくらの祖国』
(青山繁晴、扶桑社 (2011/12/28)、p196 )

硫黄島の戦いのまえに、島には、帝国陸軍の栗林忠道中将が赴任した。そのとき、栗林中将は、すべての将校に分かりやすく戦陣訓(せんじんくん)を伝えていった。それらのことは、アメリカ人、クリント・イーストウッド監督が「日本人の視点」でつくった映画には出てこない。

栗林中将の豊(ゆた)かな、丁寧(ていねい)な戦陣訓のなかでも、二つのことを禁じたことが大切だった。

2万1千の将兵に向かって、二つのことを禁じられた。一つ、自決をしてはならぬ。一つ、万歳突撃(ばんざいとつげき)をしてはならぬ。

それを聞いた将兵の中からは反乱の動きがあったという。

みな、帰れない、ここで死ぬ、家族に会えない。それはわかっているけれども、最後は手榴弾(しゅりゅうだん)を胸に抱え込んで自決するか、あるいは無防備な万歳突撃をして敵(てき)に殺されて、いわば楽に死ねるか。

まったく楽ではないけれども、最後はそのように死ねると、それだけを楽しみにむしろ戦っているのに、それを禁じるというのはどういうことだと反乱の動きまで起きた。

すると帝国陸軍の中将でありながら二等兵のところまで一人づつ回っていき、栗林中将は話をされた。どう話されたのだろうか。

硫黄が噴き出る凄まじい匂(にお)いのただなかで、立ち尽くしていると、頭の中に栗林中将の声が聞こえる気がした。

中将の声はしらない。しかし声なき声が、伝わってくる。幻聴(げんちょう)というのではない。不可思議(ふかしぎ)さはない。栗林中将のお考えが、ただ真(ま)っ直(す)ぐに、声なき声として伝わってくる。

おまえたち、アメリカ軍がなぜ硫黄島を取ると思うか。大本営(だいほんえい)は日本の港や工場を爆撃したいからと言っているけれども、アメリカは本当はもう日本の港や工場に関心は薄(うす)いぞ。

そうではなく、爆撃の目的はもはや本土で女と子供(こども)を殺すことだ。女と子供を殺す、すなわち民族を根絶(ねだ)やしにされると日本に恐れさせて降伏(こうふく)に導(みちび)くのが、アメリカ軍が硫黄島を取る本当の理由である。

だから今から穴を掘ろう、穴を掘って立てこもって、やがて、みな死ぬ。

みな死に、故郷には帰れない、家族にはあえない。

しかし穴を掘って立てこもったら一日戦いを引き延(の)ばせるかもしれない、最後は負けても、一日引き延ばしたら爆撃が一日、遅れて一日分、本土で女と子供が生き延びる、二日延ばしたら二日分、本土で女と子供が生き残る。そこから祖国は甦る。

だから穴を掘ろう。

栗林中将は実際、それまでの日本軍がサイパンやガダルカナルという南の島で戦うとき、海辺ですぐアメリカ軍を迎え撃ち、万歳突撃をして玉砕していたことを根こそぎ変えてしまった。

水際では戦わず、島の奥へ引き、地下壕を掘って立て籠(こ)もる作戦を決めた。栗林中将より先に赴任していた将兵からは、海軍を中心に強い反対が出た。しかし栗林中将の説得と、揺(ゆ)るがぬ信念をみて、やがて2万1千人が心を一つにして穴を掘り始めた。

( 中略 ⇒ p203 )

ひとり残らず、ただ人のために、公のために、子々孫々のために、祖国のために、それだけが目的で掘ったんですね。

そしてこの掘った人たちを、私たち戦後ずっと日本兵というひと固まりで呼んできました。ほんとうは大半が普通の庶民(しょみん)なんです。

戦争末期ですから職業軍人はもうあまり残っていなくて、ほとんどの方が記録を見るとパン屋さんだったり、それから魚屋さんだったり、学校の先生だったり、あるいは会社の勤(つと)め人だったり、そういう普通の働き盛りの、お子たちがいて家族もいる普通のぼくたちと同じ市民がそこで戦って、そうやって掘ったのに、本来は素人(しろうと)が掘ったのに、完璧(かんぺき)な地下壕がそこにある。

これを見て、あの戦争は悲惨だったという話だけをぼくたちは六十年間してきたけれど、それで済(す)むのか。

あの映画の主演の渡辺謙さんもテレビに出て「戦争は悲惨だと改(あらた)めて思いました」と言っていらっしゃった。それも大切だけれども、それだけで済むのか。

ここにいらっしゃる、間違いなくこの部屋にいらっしゃる、この英霊のかたがたが本当に聞きたいのは戦争は悲惨でしたという話だけではなくて、今、自分たちが助けた女性と子供を手がかりにして甦っていった日本民族が、祖国をどんなよい国にしているのか、その話を聞きたいんだ。

ぼくたちが、今、何をしているか。それを聞きたいんだ。

その英霊のかたがたにぼくらは、日本はこんな国になりましたといえるんですか。

経済は繁栄(はんえい)したけれども、いまだ国軍すらないから隣国(りんこく)に国民を拉致されて、されたまま救(すく)えず、憲法(けんぽう)はアメリカが原案を英語でつくったまま、そして子が親をあやめ、親が子をあやめ、さらにいじめられた子が自殺する。

そういう国に成り果ててしまいましたと、この英霊に言えるのか。

ぼくたちの一番の責任はそこでしょう。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ◆「海軍が善玉で、陸軍が悪玉... | トップ | ◆国と沖縄を救うために必死の... »
最新の画像もっと見る

05-真相・背景・経緯」カテゴリの最新記事