もしも中心人物にすぐれた人が出てくりゃ、小説や戯曲があまりに平和すぎて、事件がなくなっちまうわ。涙にむせんだり、血を流したりするようなことがなくなるよ。だから、小説家は、なるべくひん曲がった人間を主人公にして、テーマを豊富につくりあげることが秘訣だと思ってる。 . . . 本文を読む
由来他力依存ということでは、前掲の箴言に表示する通り、いかに価値ある高遠な理想も、その片鱗さえも具象化させることもできず、畢竟は空念仏に終わることを余儀なくされるに決まっている。というのは多くいうまでもなく、自分が抱く理想や希望を実現する者は、自己のみでしかないからである。 . . . 本文を読む
おそらく、ねばり強さにかけてはアブラハム・リンカーンの右に出る者はいないだろう。また、リンカーンは決してあきらめなかった人の代表としてもうってうつけの人物である。貧しい家に生まれ、その生涯は挫折の連続だった。選挙に8回破れ、商売は2回失敗し、神経衰弱にもかかった。 . . . 本文を読む
文庫の子供のお父さんが、青い帽子をかぶり、毎月紙芝居をしてくださったことがあります。ご自分ががんと知らされ、子供たちに語りの楽しみを伝えようととしたのでした。「青帽さんの話、面白かったね」と、他界された今も子供たちの口から聞かれます。肉声の力と重みを感じます。 . . . 本文を読む
二年生のとき、化学実験室で私は大変な失敗をしでかした。二種類の溶液をビーカーに入れ攪拌(かくはん)していたとき、その反応にあまり夢中になりすぎて、そばでバーナーの火がぼうぼうと燃えているのに気付かなかったのだ。火はいつのまにか私の髪の毛に燃え移った。周囲の生
徒たちが騒ぎ出し、それを聞きつけた先生が猛スピードで私のところに走ってきて、手で火を消してくださった。私の眉毛も睫毛(まつげ)も額の毛も焦げていたが、幸い目は無事だった。 . . . 本文を読む
まず世の中には、自分のことをツイていると信じている人と、ツイていないと思っている人がいますね。これは、先ほど申し上げた脳の二層目の大脳辺縁系の中に「扁桃核(へんとうかく)」という、好き嫌い、快不快を判断している脳があって、そこにツイているとかツイていないという記憶データが入っているかどうかの違いだと私は考えています。この扁桃核は人間だけでなく、犬や猫などの哺乳(ほにゅう)類も持っていまして、そこに猫が嫌いという記憶データが入っていると、猫の扁桃核も反応して逃げるんですね。同じように、そこにいる人は、上司に嫌われるのです。喜怒哀楽、快不快の脳ですから理屈ではないんです。 . . . 本文を読む
ビールびんを右手で握ってみて下さい。胴回りの半分以上に指がかかり、しっかりと持てることがわかるでしょう。そのままコップに中身を注ぐため傾けても、びんは手から滑り落ちない。ビールびんの直径は二寸五分(約7センチ5ミリ)。幕末期の三号徳利や、湯呑み茶碗と同寸だ。
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人生の最大幸福は職業の道楽化にある。富も、名誉も、美衣美食も、職業道楽の愉快さには比すべくもない。道楽化をいい換えて、芸術化、趣味化、娯楽化、遊戯化、スポーツ化、もしくは享楽化等々、それは何と呼んでもよろしい。すべての人が、おのおのその職業、その仕事に、全身全力を打ち込んでかかり、日々のつとめが面白くてたまらぬというところまでくれば、それが立派な職業の道楽化である。
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舎利子は、当時有名なある懐疑派の哲学者の門に入り、生来の聡明と雄弁で、たちまち一流の懐疑論者となりました。ある日、彼は路上で、はからずも釈尊の弟子アッサジに出会います。アッサジは、釈尊の青年時代からの友人で、苦行林(くぎょうりん)で他の4人とともに苦行に励んだ仲間の一人です。 . . . 本文を読む
8世紀のころ、中国の龐居士(ほうこじ)という偉大な禅者が、当時の禅の高僧薬山(やくさん)和尚を訪ねて帰ろうとする。薬山は弟子たちに居士を門まで送らせる(門送という)。おりしも雪が舞いはじめた。居士は雪空を仰いで、「好雪片々別処に落ちず――きれいな雪が降るが、ほかへも落ちないが、同じところへも落ちない。さて、どこに落ちるか」と公案(禅の命題)を提出する。 . . . 本文を読む
1944年、アメリカがニュー・メキシコの砂漠の中で最初の原爆実験を行った。ホワイト・ハウスの記者会見で、その発表が行われた。「その実験は何処で?」。記者団はいっせいに質問した。「うむ」とルーズベルト大統領はつまってしまった。何しろ、戦争中のことである。当然、軍事機密に属する。 . . . 本文を読む
見かけはまことに弱そうに見えながら、何かやらせると非常に精力的な不屈不撓の人もおります。これは顕在エネルギーは貧弱であるけれども、氷山みたいに潜在エネルギーが旺盛なのです。どうも人間は自然の物質よりも複雑で、どちらかというと、見てくれのいい人よりも、見てくれのさほどでない人に潜在エネルギーの旺盛な人が多いものであります。 . . . 本文を読む
ニューヨークのブロードウェイのある事務所で、「何か自分にできる仕事はないかな」といつも目を光らせている一人の給仕がいた。会計係が現金の勘定をしていると、この少年は駆けてきて、「僕に手伝わせてください」といった。また会計係から伝票を持って来いといわれると、大急ぎで持って来るだけではなくて、「ついでに計算も手伝わせてください」と、なんでも手伝いたがった。 . . . 本文を読む