仏像に心をよせる

　古寺巡りが好きで、仏さま大好き人間だと何時か書きました。最近ある人達と、様々な仏像について話し合う機会がありました。真っ先に一番大好きな仏像についての話になりました。勿論私は、奈良の中宮寺の弥勒菩薩像です。あの優しいほほ笑みに包まれると、心身が陶然とした気分に満たされていくのが不思議です。機会ある毎に訪れています。もう長い間私の一番好きな仏像です。
　友人は、興福寺の阿修羅像だと言いました。私も大好きな仏像の一つです。ずっと以前は、弥勒菩薩と共に、自分の部屋に可成り大きな写真を額に入れて、長く飾っていたくらいです。仏法の守護神と言われていますが、三面六臂の姿、その腕の長さ、微妙に異なる三つの顔が、怒っているのか、泣いているのか、はたまた悲しんでおられるのか、僅かに眉根を寄せた顔立ちは、けがれのない神々しさとも言うべき感じを、見る人に与えます。現物は一層神々しいです。
　他のもう一人は、奈良の聖林寺の十一面観音像だと言いました。私は、この観音像の実物は、まだ見たことがありません。遠くに住んでいる友人もやはり好きだといいますから、一度は見に行きたいと思いつつ、今だに行けないでいます。
　好きな仏像も、年と共に感じ方が変わっていくようです。一般に如来とか、菩薩といった仏像は、ややうつむき加減の目をしておられるので、何時も心静かに眺めて、穏やかな一時を頂きます。　私のような仏像に関する知識の無い人間は、その表情や姿態全体から感じ取られるものと、自分の心のどこかが響き合うときに、取り分け美しいと感じるように思います。その眼から何かを感じることは難しいですし、大方はうつむき加減で、何を見て居られるのかは伺えませんし、目がしっかり見開かれていている仏さまも、遠い表情をしておられます。
　ところが憤怒の形相をした仁王となると、また違います。眼をしっかり見開き、こちらを睨みつけておられます。仁王と言われる像の中で、最も心が引かれるのは、東大寺の南大門の金剛力士像です。その目が私に何を語りかけているのか、年と共に考えるようになりました。以前は、その迫力の美しさ、筋肉一つ、開いた手のありようから体の傾け方まで、全てに神経が行き届き、全く無駄のない美しさにほれぼれとしたのです。でも今は、まるで私の心を見透かすように、じっと見つめられていると、心の底から自分の生き方がこれで良いのかと、つい考えてしまっているのです。
　この仁王は鎌倉時代に出来ていますから、８００年を越えて、大仏を守って来ている訳ですが、南大門を通って行き来した多くの人々を見つめてこられていて、「あなたは、人間本来の心をどこかに忘れて来てしまっていませんか」と問いかけられているように思えるのです。そうするとその恐ろしいお顔が、どこか哀しみを湛えているようにも見えてくるのです。
　仏像は、作られた時から、長い時間をそこにじっと居られると思っていましたが、実は年齢によって、感じ方が違うとしたら、仏さまは見る人の年齢に合わせて、生きておられるようでもあります。
　おかしな話になって来てしまいましたが、私が行った寺院を奈良と京都だけに限って、簡単に指折り数えてみましたら、ざっと８０くらいになりました。ですから、心に残った寺院も仏像も数多く、浄瑠璃寺、室生寺、法隆寺、新薬師寺、白豪寺・・・などと数え上げたら際限もありません。それぞれに旅の想い出のある寺院であり、仏像であります。
　このような旅の時間が持てたことに、今はとても感謝しています。この先もう行けなさそうだからでもあります。
　奈良や京都の博物館で行われた仏像展などの場合でさえ、思わず手を合わせてしまったことがあります。かれこれ３０年近く巡っているわけですが、どんなに眺めても飽きないのが、私には仏像なのです。仏像を静かに眺めながら、心を通わせることは至上の喜びです。

我が存在無視するが如阿修羅像に取り込まれゆく夫（つま）の魂

慈光寺の憤怒の仁王の眼（まなこ）さへ白く晒され哀しく老ゆる
（全て某紙・誌に掲載）

健康と美しさ

　我が子が心身共に健康に育ってくれることを、祈らぬ親はいないと思うのですが、親によって育てられ、親の背中を見て育つ子供たちからすると、全くそうとばかりは言えなさそうに思います。
　私自身も親として、立派であったとは思っていません。しかし、最近は痩せ願望の親（特に女性）が多く、痩せることが美人の条件のように考えて、痩せる為にスポーツジムに通ったり、自宅でマシンで運動するとか、痩せるサプリメントを買う、はては薬まがいのものを飲用する女性もいるそうです。それを助長するマスメディアに乗せられて、自分のしていることが、やがて我が子の健康に害を及ぼすとは、気が付いていないようです。
　現在ではテレビに出て来るタレントと呼ばれている人やアナウンサーも、とても痩せています。痩せていることが他の何より、 美しい女性の必須条件のようになって来たのは何故でしょうか。
　テレビに出て来るこういう人達は、多くは栄養失調なのです。このまま痩せた状態で若い時代を過ごしたら、年を取るに従って、骨密度の低下から簡単に骨折しやすくなり、運悪く股関節骨折などすれば、そのまま寝たきりになってしまいます。痩せすぎは骨密度を低下させ、その結果骨粗鬆症となり、骨折しやすくなるところまでは、誰しも知っています。問題はその程度では済まない事にあります。
　痩せた人は妊娠しにくくなったり、低体重の子供が生まれやすくなるそうです。低体重児は、２００６年の調査で、９．６％（約１０人に１人）ということです。低体重の子供が何故いけないかというと、成人してから糖尿病になりやすかったり、心臓疾患に罹り易くなるのだと、たまたま読んだ医学書に書いてありました。
　BMIの平均値を日本・韓国・米国で年代別に比べたグラフを見ましたが、断然日本が低いのです。現在の日本女性の２０代は、３人に１人が低体重者（BMI１８．５未満）だといいます。これは実に大変なことです。欧米諸国では、痩せすぎているモデルのファッションショーの出演を禁じていると以前も書きましたが、諸外国ではすでに痩せすぎが危険なことを教育しているのです。
　痩せ願望をあおっているのは、これでもかと言うほどのダイエットの広告、美容雑誌、女性週刊誌など、マスメディアです。将来を担う人の健康を蝕む恐れがあることを隠して、売れれば良いというやり方には、騙されないようにしましょう。
　テレビに出て来る女性キャスターも、ガリガリという言葉が当てはまるような人がいます。テレビでは、実際よりも太って見えるそうで、実際はもっと痩せているのでしょう。この女性達は、将来子供を産もうと思わず、骨粗鬆症になっても良いと考えているとは思えません。しかし、恐らく将来は、そうなるでしょう。こういう人を見ている若い人達が、「あんな風にスマートになりたい」と思わないように、学校や家庭で正しい教育をして欲しいものです。
　そういった美意識を持つ親から生まれて来る子供は悲劇です。生まれながらにして、病気に罹りやすい体質を持っているからです。ただでさえ出生率が減って来ていると言われていますのに、これでは更に拍車がかかり、また、生まれてくる子供の健康を考えると、暗澹とした気持ちになります。
　また、最近の美白に関する宣伝も行き過ぎではないでしょうか。今やウオーキングをしている女性は、UVカットの長袖、帽子・化粧品など、みな紫外線に当たることを極端に恐れているようです。紫外線に当たることによって、皮膚ガンに罹りやすいというのは誤りだそうです。メラニン色素を持っている日本人は、日常の紫外線くらいで、皮膚ガンにはならず、むしろビタミンDを活性化して、カルシウムの吸収を良くする紫外線に適度に当たり、骨を丈夫にすることが、健康のためには大切なのだそうです。
　美白の化粧水などに含まれる成分から、皮膚がかえって弱くなり、あれやすくなったりするとも聞いています。心して選ぶようにしたいものです。
　私達は、日常の食事の中で、出来るだけ野菜を多く取り、肉類より魚を多くして、バランスの取れた正しい食生活をすれば、補助食品やサプリメントに頼らなくても大丈夫なのです。宣伝に踊らせられないような注意も必要です。
　丁度今オリンピックの最中です。スポーツ選手の輝くような笑顔は誰もが美しいと感じると思いますが、美人がスポーツをしているのではなく、スポーツによって、体や運動機能が鍛えられるばかりでなく、目的に向かって一途に進む、素直な心が育つからだと私は思っています。背の高さも、体重も関係なく、ましてや日焼けの具合なども関係ありません。逞しい肉体と精神が放つ美しさだからこそ、輝いて見えるのではないでしょうか。
　せめて次代を担う子供たちには、正しい教育を心がけ、健やかに育てたいものです。そのためには若い人達や、これから子供を産み育てたいと考えて居る人々には、大いに気を付けていただきたいと願ってやみません。