孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  東西勢力の対立が続き、民兵組織による無法状態も 様々な利害を求めて関与する外国勢力

2024-07-05 22:58:51 | 北アフリカ

(リビア西部では、著名な民兵が国家公認の活動を行っている。【5月15日 ARAB NEWS】)

【昨年9月の大洪水被害拡大も東西の政治勢力が分裂するという国の混乱がもたらした人災】
カダフィ政権崩壊後、13年にわたり東西に分裂(トリポリの国連承認政府と東部のハフタル政権)して争うリビアですが、ここ2,3年、リビアに関する情報はほとんど目にしません。

例外的に多くのメディアが取り上げたのが昨年9月東部デルナで起きた大洪水。
暴風雨「ダニエル」の直撃を受け、2つのダムが決壊し大洪水が発生、死者は3985人、行方不明9000人以上とされています。

自然災害ではありますが、東西の政治勢力が分裂するという国の混乱によりインフラ整備が進んでいないとする人災の面も指摘されています。そうした状況への住民の不満も報じられていました。

****リビア大洪水から1週間 行政の責任問う大規模デモ 市長宅に放火も****
およそ4000人の犠牲者が出ている大洪水の発生から1週間、リビア東部では当局に対して被害の責任を問う大規模な抗議デモが行われました。

ロイター通信などによりますと、リビア東部のデルナで18日、洪水のきっかけとなったとされるダムの決壊は事前の警告を放置した行政の怠慢だとして、市民らが抗議デモを行いました。

市民らはリビア東部を拠点とする「東部政府」の議会議長の解任などを求めています。 また、デモの参加者の一部は暴徒化し、市長の自宅が放火される事態に発展したということです。

国連機関の発表ではデルナを中心に少なくとも3958人が死亡し、9000人以上が行方不明となっています。【2023年9月20日 テレ朝news】
*********************

“市民らはリビア東部を拠点とする「東部政府」の議会議長の解任などを求めています”・・・・純粋に住民の怒りのあらわれなのか、背後に東西分裂の政治情勢、何らかの工作があるのかは知りません。

【“匙を投げた”国連】
いずれにしても「東西分裂」状態はその後も続き、国連も“匙を投げた”形にもなっています。

東西分裂状態のリビアで和平協議を仲介する国連リビア支援団(UNSMIL)のバシリー事務総長特別代表は今年4月6日、「リビア指導者らの政治的意思の欠如」で協力が得られず和平の進展が期待できないとして、仲介を断念したと説明、辞意を表明しています。

****国連リビア特別代表が辞意 和平見通せず、仲介断念****
東西分裂状態のリビアで和平協議を仲介する国連リビア支援団(UNSMIL)のバシリー事務総長特別代表は16日、ニューヨークの国連本部で記者団に対して辞意を表明した。「リビア指導者らの政治的意思の欠如」で協力が得られず、和平の進展が期待できないとして、仲介を断念したと説明した。後任は未定。

バシリー氏は2022年9月から同代表。内戦状態のリビアを外国勢力が代理戦争に利用していると指摘し「状況は悪化している」と訴えた。

リビアでは40年以上統治したカダフィ独裁政権が、11年に北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入を受けて崩壊した。【4月17日 共同】
*********************

【多くの民兵組織が恣意的な支配を続ける無法状態】
単に東西間で争っているだけでなく、その内部には多くの独立性を持った民兵組織があって、それぞれが争っている状況でもあり、“リビアは無法状態と制度崩壊に耐え続け、破綻国家に近いものとなっている”というのが現況です。

****カダフィ政権崩壊から13年、武装集団がいまだリビアを支配する理由****
2011年10月20日、ムアンマル・カダフィが故郷のシルテ近郊で反政府武装勢力に拘束され殺害されたが、同年初めに大規模な抗議デモが発生した際にリビア国民が望んでいた安定と民主主義の時代を迎えることはできなかった。

それどころか、国連リビア支援ミッションの懸命な努力にもかかわらず、リビアは依然として深く不安定な状態にあり、2つの対立する政権によって分断され、多数の武装グループが支配権を争っている。

ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院のフォーリン・ポリシー・インスティテュートで北アフリカ・イニシアティブのエグゼクティブ・ディレクターを務めるハフェド・アル=グエル氏は、アラブニュースへの寄稿で次のように述べた。

「憲法と選挙の枠組みに関するコンセンサスの欠如による永続的な膠着状態が続いており、地元と国際的な利害関係者が現状維持に固執することで深まっている」

リビアは、トリポリを拠点とするアブドルハミド・ドゥバイバ首相の国連承認による国民合意政府と、ベンガジを拠点とするハリファ・ハフタル将軍の国民安定政府の間で分裂している。

この溝を埋めようとする最新の努力は、下院と国民統合政府寄りの高等評議会による合同委員会の設立に結実し、国政選挙への道を開くことを目指した。しかし、これはまだ実施されていない。

3月にカイロで開かれたアラブ連盟主催の会合や、2月初旬に国民和解会議を開催しようとしたアフリカ連合の努力も、UNSMILが選挙と国民和解を実現させるのにほとんど役立たなかった。

「革命後のリビアを安定させる必要性から、根深い政治的分裂や外部からの干渉に対処する必要性へと急速に発展した(国連の)任務は、リビアの複雑な状況に適していないことが一貫して証明されている」

「ポスト・カダフィのリビアで民主的な統治を復活させるための組織的な試みではなく、単に失敗を管理することに堕している」

「調停と政治的対話に重点を置いているが、それは崇高なものでありながら、停戦を完全に実施し、統治への移行を管理し、利己的な外部の干渉者による武器や傭兵の流入を抑制するために必要な影響を行使できていない」

4月16日、セネガルの外交官アブドゥライ・バティリー氏は、国連のリビア特使を辞任した。
「この状況では、国連がうまく機能するはずがない。将来的に解決する余地はない」とバティリー氏は当時声明で述べ、当初4月28日に予定されていた国民和解会議の延期を発表した。

「リビア国民を犠牲にして遅延戦術や策略によって現状を維持しようとする現指導者たちの利己的な決意は止めなければならない」

リビアの財政は、競合する外国勢力の支援を受ける2つの政権間で分裂しており、リビア国民や国際社会から見た両政権の正統性の問題は依然として残っている。

リビアが統一的で安定した政権を確立できない主な理由は、間違いなく外国の関与である。専門家によれば、紛争で自分たちが好む側を後援することで、外部アクターは定期的に火に油を注いできたという。

実際、専門家たちは、リビアは、石油、武器契約、戦略的影響力といった戦利品を奪い合う、外国の利害を争うプレイグランドに過ぎなくなっていると考えている。

こうした目的を推進するために、外部のさまざまな利害関係者がリビア国内の民兵を後援しており、それによって国の安全保障機構の分断が複雑化し、長期化している。

ハフタル将軍は、リビア国軍としても知られるリビア・アラブ武装軍を指揮している。ハフタル氏の旗の下には複数の武装集団が所属しているが、その多くは独自の指揮系統の下で活動し、リビア東部全域で独自の襲撃やパトロールを行っている。

一方、リビア西部では、安定支援部隊、ミスラタ対テロ部隊、特別抑止部隊(ラダアとして知られる)、444旅団、111旅団、ナワシ旅団、統合作戦部隊といった著名な民兵組織が、国家公認の独自の活動に従事している。情報収集や監視、街頭パトロール、国境警備、移民キャンプの監督などである。

「今日のリビアでは、武装集団が権力を誇示し、領土支配を維持できる唯一の存在である」と、英国を拠点とする英国王立サービス研究所のアソシエートフェロー、ジャレル・ハルチャウイ氏はアラブニュースに語った。

「これらのグループには明確な指揮系統がなく、必ずしも中央国家の権威に従ったり、明確で組織的な方法で人員を管理したりしていない。彼らは本質的に非公式で、しばしば欠陥があり、機能不全に陥っている」「その欠点にもかかわらず、彼らは領土を支配し、武力を行使することに関しては強力である」

これらの武装集団は、国全体の治安状況を改善する任務を負っているが、しばしば互いに衝突している。統一政府と治安機構を確立するための国際的な努力にもかかわらず、この暴力はほとんど収まる気配がない。

2023年8月、トリポリでラダアと444旅団が街頭で交戦し、55人が死亡した。今年2月には、SSA(安定支援部隊)のメンバーを含む少なくとも10人が市内で射殺された。

今年のイード・アル・フィトルの祝典中、首都でSSAとラダア民兵の衝突が発生した。この直近の暴力事件では死傷者は出なかったものの、リビアの危険な治安状況について新たな懸念が生じた。

リビアの人道的状況は、2020年10月の国連主導による停戦合意以降、いくぶん改善されたとはいえ、一般市民は政治的・経済的不安定の矢面に立たされ続けている。

民兵の小競り合いにより、約13万5000人が国内避難民となっている。2022年の国連報告によれば、さらに30万人が人道支援を必要としている。

悲惨な人道的状況は、昨年9月にリビア沿岸部を襲った壊滅的な嵐によってさらに悪化した。ダニエル嵐は東部の都市デルナの2つのダムを決壊させ、その結果、水の奔流が行く手すべてを平らにした。米国国際開発庁によると、この暴風雨で少なくとも5,900人が死亡し、44,000人以上が避難した。

「リビアの安定を達成するには、何年もかかる長期的な戦略が必要であり、主要な諸外国からの多大なコミットメントが必要である」

SSAとRaadaは、リビアの内務省や国防省の直接の権限下にあるわけではない。とはいえ、彼らは公的資金を受け、2021年に首相と大統領評議会から与えられた特別な地位の下で独立して活動している。

リビアの武装集団は、国連や人権団体から、戦争犯罪を平気で犯していると非難されることが多い。国連が昨年発表した報告書によると、これらの民兵は殺人、レイプ、恣意的逮捕、奴隷制に関与していた。

アムネスティ・インターナショナルの2023年の報告書でも、SSA、LAAF、その他いくつかのグループが性的暴力、拉致、公開処刑を行い、表現の自由を制限していることがわかった。

リビアの市民は、これらの集団、特に国家によって支援され、合法化された集団の責任を追及する力を持っていない。

ハルチャウイ氏は、安定を達成するための第一歩は、武装集団が政府機関に浸透し、リビア国家の不可欠な一部となり、「汚職や違法行為にますます関与していることを認識することだ」と考えている。

彼は言う: 「したがって、汚職に取り組むことが最初の焦点となる。そうすれば、政府行政、金融、石油、富の採取など、物理的な安全保障以外の分野への武装集団の拡大を遅らせることができるからです」「汚職が解決されれば、さらなる対策を検討することができる」

しかし、リビア軍が国内の多くの武装集団を抑制できない背景には、複数の要因がある。
その最たるものが、リビアの「政治指導者、経済機関、そして外国が、日々の活動のために武装集団の保護を必要としている」ことだ。「この保護は、石油生産、外交、契約締結、対テロ情報収集などの活動に必要なのです」

このような活動によって、これらのグループはより強固で強力な存在となり、ひいてはその影響力を削ぐことがより難しくなるのだ、と彼は言う。

「この逆説は、日常的な活動をこれらのグループに依存し続けることは、彼らを強化するだけであり、将来いつの日か正式な勢力に取って代わるという究極の目標を妨げることを意味する」

2023年7月、対立する2つの政権がリビアの多額の石油収入の分配を監督する委員会の設置に合意し、変化の兆しが見えた。

国連安全保障理事会(UNSMIL)は当時の声明で、「公的資金の支出の透明性と資源の公正な分配という基本的な問題に対処するため、高等財政監視委員会を設置するという大統領評議会の決定を歓迎する」と述べた。

とはいえ、カダフィ時代からの開放性、経済成長、国際社会との生産的な関わりからほど遠く、リビアは無法状態と制度崩壊に耐え続け、破綻国家に近いものとなっている。【5月15日 ARAB NEWS】
***********************

カダフィは間違いなく独裁者であり、国際的にも厄介な存在ではありましたが、彼を排除した結果は、民主化ではく、民兵間、東西間で争う混乱状態でした。

【石油、武器契約、戦略的影響力といった戦利品を求めて混乱リビアをプレイグランドとする外国勢力】
“リビアが統一的で安定した政権を確立できない主な理由は、間違いなく外国の関与である”・・・脆弱なリビアに対しては中東、ロシア、欧州など様々な国が独自の思惑から軍事介入を行ってきました。

リビアから遠く離れた中国も、その中に加わっているようです。

****イタリアでリビア向けの中国製ドローンを押収、UAEなどを通じて途上国中に拡散する実態****
<「風力タービンの部品」と偽った貨物は、重さ3トン超、翼幅20メートルにもなる軍用ドローンだった>

イタリア南部の税関・専売庁(ADM)は、アメリカの情報協力を得て1週間前から行ってきたおとり捜査により、リビアに送られる予定だった未申告の貨物を押収したと発表した。貨物の中身は「軍事ドローン」だった。

イタリア南端にあるカラブリア州の当局は7月2日、中国からジョイア・タウロ港に到着した6つのコンテナを調べたところ、「軍事目的で使われるドローンの胴体と翼」を発見したと明らかにした。

税関当局の声明によれば、「風力タービンの部品」と偽って送られてきたこれらの部品は実際にはドローンで、組み立てると1機あたりの重量は3トン超、全長が約9.75メートル、翼幅約20メートルになる巨大なものだった。当局が公開した写真から、これらの部品は中国製の軍用ドローン「翼竜」のものであり、中国からアラブ首長国連邦(UAE)を経由してイタリアに到着した。

(イタリアでの押収の現場)
本誌はこの件について中国外務省にコメントを求めたが、これまでに返答はない。

中国は過去10年で軍用ドローンの開発・輸出を大幅に拡大してきた。世界各地で取引されている中国製ドローンは「翼竜」のほかに「彩虹」や「WJ」もよく知られており、購入国リストにはアルジェリア、エチオピア、インドネシア、イラク、ヨルダン、カザフスタン、モロッコ、ミャンマー、ナイジェリア、パキスタン、セルビア、トルクメニスタンやウズベキスタンなど途上国が並ぶ。

リビアへの武器禁輸も無視
エジプト、サウジアラビアやUAEも「翼竜」を購入しており、これらのドローンがリビア東部の軍事組織「リビア国民軍」のハリファ・ハフタル司令官の手に渡ったと報じられている。ハフタルはリビア東部と南部の一部を支配し、2020年から首都トリポリで国連が承認するリビア政府と対立を続けている。

リビアは2011年にNATOの支援を受けた反体制派が最高指導者ムアマル・カダフィ政権を転覆させて以降、10年以上にわたって内戦状態が続いている。国連の禁輸措置により、地中海に面するリビアの港への(およびリビアの港からの)武器および軍装備品の移送は禁止されている。

(中略)英タイムズ紙は6月30日、イタリア当局が週末に3つの疑わしいコンテナの出荷を阻止する準備を進めていると報道した。カナダが4月にリビアへの軍装備品売却を阻止したことをきっかけに始まった長期的な調査の一環として行われたものだ。

カナダでは4月に元国連職員2人が、リビアに中国製のドローンなどを売却する計画に関与したとして逮捕された。問題の計画ではその後、ハフタルが支配するリビア国内の油田から採掘された原油が中国に輸出されることになっていた。

ハフタルはロシアのウラジーミル・プーチン大統領の盟友で、過去にはプーチンの私兵と呼ばれたロシアの民間軍事会社「ワグネル」の支援も受けていた。プーチンは2023年9月、ハフタルをクレムリンに迎えている。

ロシア軍は地中海を挟んだ反対側のナポリに司令部を置く米海軍第6艦隊に対抗すべく、リビア東部のトブルク港へのアクセスを拡大したいと考えており、プーチンがハフタルとの会談を行った背景にはそうした狙いがあるとみられる。

米国務省は6月、ロシアの国有企業ゴズナクにも、10億ドル超相当のリビアの「偽札」を印刷して「リビアの経済問題をさらに悪化させた」として、ゴズナクに制裁を科した。【7月4日 Newsweek】
*******************

“リビアは、石油、武器契約、戦略的影響力といった戦利品を奪い合う、外国の利害を争うプレイグランドに過ぎなくなっている”

“リビアの「政治指導者、経済機関、そして外国が、日々の活動のために武装集団の保護を必要としている」”

かくして、内部で武装民兵組織が互いに争い、恣意的な支配を行い、外国勢力が関与して混乱の火に油を注ぐ・・・無法状態リビアの混乱がおさまる兆しはありません。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ベネズエラ大統領選挙  野... | トップ | イラン  改革派ペゼシュキ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

北アフリカ」カテゴリの最新記事