
(シエラレオネにあるヘイスティング・エボラ治療センターで、エボラ出血熱から回復し、退院した人たちのために式典が行われた。式が終わった後、会場に1人残るモライ・カマラ君は、推定年齢12歳、エボラ出血熱で家族全員を失った。ただひとり生存したものの、胃の痛みが続き、歩行にも困難が残る。さらに治療を続けるため、別の病院へ移された。【2015年2月24日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)
【撤回を繰り返す「終息宣言」】
エボラ出血熱は、2年にわたってリベリア・ギニア・シエラレオネの西アフリカ3カ国を中心に猛威を振るい、疑い例を含む感染者2万8000人以上、死者1万1000人以上を出しました。(一応、過去形で)
WHOが主導した封じ込めについてはいろいろな問題が指摘されてはいますが、とにもかくにも、WHOは昨年11月7日にシエラレオネ、12月29日にはギニアでの「終息宣言」を発表。
残るリベリアは、いったん昨年5月と早い段階で「終息宣言」が出されたものの、その後再発。昨年9月に2回目の「終息宣言」がだされたものの、これも新規患者発生でご破算となっていました。そして3度目の正直で、今年1月14日に3回目の「終息宣言」が出され、西アフリカ全地域での終息が宣言されました。
****<エボラ出血熱>西アフリカで終息 WHO宣言****
◇3カ国で最後のリベリア
世界保健機関(WHO)は14日、西アフリカ・リベリアでのエボラ出血熱感染が終息したと宣言した。
2年にわたって西アフリカ3カ国を中心に猛威を振るい、疑い例を含む感染者2万8000人以上、死者1万1000人以上を出したエボラ熱感染は完全終息となったが、WHOは再発の可能性にも言及し、引き続き警戒するよう呼びかけた。
今回のエボラ熱感染は2013年12月にギニアで始まり、14年3月にエボラ熱と確認、主にギニア、リベリア、シエラレオネで広がった。シエラレオネでは昨年11月、ギニアでは同12月に終息宣言が出されていた。
1976年にスーダン南部(現南スーダン)とザイール(現コンゴ民主共和国)で初めて感染が確認されたエボラ熱は、今回の感染拡大以前は、アフリカ中・東部での流行に限定され、被害の大きいケースでも1度の流行で死者数が300人に満たない規模だった。
西アフリカで広域に拡大した背景には、各国の脆弱(ぜいじゃく)な医療インフラ事情があった。3カ国は医療施設・器具などが不十分なうえ、長期の内戦を経験したリベリア、シエラレオネでは10万人に対し1〜2人程度と医師数も不足。
感染拡大初期の段階で封じ込めに失敗し、計500人以上の医療関係者も犠牲となった。従来は地方での流行だったが、今回は各国の首都にまで拡大した。
感染は終息したものの、課題も多い。エボラ熱に感染後、生き残った「サバイバー」と呼ばれる人の中には、回復後も目などの痛みや体調不良に苦しむケースがあるほか、感染を恐れる地域の人からの差別に悩む人もおり、ケアや融和の促進が必要だ。
また、国連児童基金(ユニセフ)は14日、3カ国で計約2万3000人の子供が保護者をエボラ熱で失ったと公表、子供たちへの継続的な支援を訴えている。【1月14日 毎日】
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WHOは「再発もあり得る」として監視を継続することも併せて発表していましたが、発表翌日の15日にシエラレオネで新たに患者の死亡が確認される事態となっています。
WHOとしては、一定のルールに従って「終息」を宣言している訳ですが、「再発もあり得る」との予防線は張っていたものの、完全終息発表の翌日というのはいかにも間が悪いというしかありません。
ただ、WHOの終息に関する判断基準に関する疑問も提示されています。
なお。1月21日には同じシエラレオネで終息後の2例目も確認されています。1例目の患者の世話をしていた親族とのことです。
****エボラ熱、見えぬ終息 WHO、「宣言」何度も撤回****
西アフリカで大流行したエボラ出血熱が終息しない。世界保健機関(WHO)は14日、最後の感染国とみられていたリベリアで「終息宣言」を出したが、翌15日には隣国シエラレオネで新たに感染が見つかった。各国の市民には、WHOへの不信と深い疲労感が広がる。
シエラレオネでの新たな感染が発表された15日、リベリアの首都モンロビアにあるエボラ出血熱の治療施設では、防護服に身を包んだ医療従事者が、新たな感染者がいつ運び込まれてもいいように勤務を続けた。
リベリアでは前日14日に「終息宣言」が出された。ただ、これは昨年5月と9月に続く3回目だ。前2回は、再び感染者が見つかった。責任者のマイク・タルケ氏(41)は「完全な封じ込めまで数年かかるかもしれない」と話した。
リベリアの医療態勢はエボラで大きな犠牲を出し、立ち直れないままだ。(中略)
■装備手薄、医療者200人死亡
同国は感染拡大の前から医療態勢が極めて貧弱で、人口10万人に対し医師が1人か2人しかいなかった。現場の装備も貧弱だった。
医療従事者協会のジョージ・ウィリアムズ事務局長(45)は「当初は約8割の医療従事者がマスクや手袋なしで治療にあたった。商店のポリ袋を手袋代わりにして手術に臨んだ医師や看護師が多くいた」と話す。
同協会によると、所属する約1万人の医療従事者のうち約200人が死亡。ウィリアムズ氏は「感染した医療従事者が現場を離れたことに加え、感染患者の治療にあたる特別手当などが支払われなくなったことで、医療従事者が病院を去り、感染拡大を阻止できなくなった」という。
一方、街では最初の終息宣言の後、エボラ出血熱の予防対策などを示す看板のほとんどが取り外された。飲食店やバス停に置かれていた手洗い用の消毒液も多くが撤去されている。地元記者アロイシャス・デビッドさん(34)は「何度も終息宣言が繰り返され、市民は疲れ果てている。緊張感も途切れた」と危惧する。
市民には、何度も「終息宣言」を出しながら撤回せざるを得なかったWHOへの不満が募っている。
■楽観視、拡大招く
14日のリベリアの「終息宣言」の際、WHOでエボラ出血熱対策を統括するエイルワード事務局長補は「再発を予期しており、それらに備えなくてはならない」と述べていた。一日で、それが現実になった。(中略)
WHOは楽観的な見通しを示し続け、感染拡大を食い止められなかった。
西アフリカでエボラ出血熱の流行が公式に確認されたのは2014年3月。同年4月8日、対策を担当していたフクダ事務局長補は封じ込めの見通しについて「4カ月」とした。
だが感染の勢いは増し、国際医療NGO「国境なき医師団」は「制御不能」と警告を出した。フクダ氏の発言からちょうど4カ月後の8月8日、WHOは「国際的な緊急事態」の宣言に追い込まれた。
感染症の封じ込めには、感染経路の追跡調査や、住民への感染防止策の周知が重要だ。しかし流行の初期には、感染者に不用意に触れたり、葬儀の際に参列者が遺体に触れたりして感染する事例が多発した。
WHOや地元保健当局は、接触相手の追跡や衛生的な埋葬の普及に力を入れたが、流行国は貧しい国々で、資金や人手が足りなかったという。
世界各国や国際機関、援助団体の協力で、15年になってようやく感染者数が減ってきた。だが今も、封じ込めはできていない。
切り札となる治療薬やワクチンも完成していない。背景には、インフルエンザなどと比べて感染者が少ないために市場規模が小さく、民間主導で開発が進みにくいという現実がある。あるWHO幹部は、研究や開発は軍事関連がほとんどだと指摘した。
さらに昨年10月には、新たなリスクが表面化した。感染後に回復した男性の精液内で、ウイルスが数カ月以上も残存していたと、医学誌で発表されたのだ。
終息宣言は、最後の感染者の血液からウイルスが消えた後、もしくは埋葬後に、潜伏期間の目安とされる21日間の2倍、42日間を経るのが基準とされてきた。この基準が正しいのか、疑問が浮上している。
人類とエボラ出血熱の闘いは、終わりが見えない。【1月19日 朝日】
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【ウイルス残存期間に関する問題】
“精液内で、ウイルスが数カ月以上も残存”という件については、以下のように報じられています。
****エボラウイルス、感染9か月後に検出 一部生存者精液から****
エボラ出血熱の最初の感染から9か月が経過した後でも一部男性の精液にはウイルスが残っている可能性があるとの研究結果が14日、発表された。当初考えられていたよりも、はるかに長い期間ウイルスが生存できることを示唆する結果だ。
米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル(New England Journal of Medicine)」に掲載された研究は、同様のものとしては初めて長期間にわたり実施されたもので、エボラウイルスが体内で長期間残存し、数か月~数年にわたって健康を害する可能性があることを示す新たな証拠となった
今回の発見は、2013年後半以降西アフリカで大流行したエボラ出血熱生存者の健康問題をめぐる新たな懸念事項となった。
今回の大流行は、エボラウイルスが1976年に初めて確認されて以降最多となる1万1000人以上の死者を出した。
研究では、シエラレオネの男性計93人の精液サンプルを用いて、ウイルスの遺伝物質の有無を調べた。その結果、エボラ感染後7~9か月の時点でウイルスが検出された被験者は全体の26%に上った。
ウイルスの断片は一部の男性のみに残っていたが、その理由は分かっていない。また、検出されたレベルのウイルスで、パートナーへの感染が心配されるのかも不明だという。
米疾病対策センター(CDC)は、これら精液サンプルに、感染力のある生きたウイルスが含まれているかを確認するため、さらなる検査を実施している。
米カリフォルニア大学リバーサイド校のイルヘム・メソーディ準教授(生物医科学)は、「エボラウイルスが血液中に存在していなくても、免疫学的特権部位に隠れている可能性がある。これは、新たな感染拡大の原因となる可能性もあるため、注意が必要」と述べている。【10月15日 AFP】
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この問題は、封じ込めをを難しくする可能性があるというだけでなく、エボラ熱に感染後、生き残った人々が地域社会において差別的な環境に置かれている現状を更に悪化させる危険もはらんでいます。
【2017年末にはエボラワクチン実用化?】
“インフルエンザなどと比べて感染者が少ないために市場規模が小さく、民間主導で開発が進みにくい”というのは、熱帯地域に特有の多くの感染症と同じです。
製薬会社は、基本的には儲けにつながらない薬は開発しません。
そうしたなかで、「ワクチン開発に成功した」との報道も目にすることがあります。
****「効果100%」のエボラワクチン開発か WHO発表****
世界保健機関(WHO)は7月31日、カナダ政府機関などが開発したエボラ出血熱のワクチン「VSV―EBOV」の臨床試験の中間結果で「100%の効果」が確認されたことを明らかにした。エボラ出血熱対策で一大転換点となる可能性がある。この臨床試験の結果は、英医学誌ランセットに投稿された。
WHOの発表によると、臨床試験はエボラ出血熱の流行が続くギニアで行われ、患者と接触した4千人以上が参加した。
ただし、最終的な結論を得るには、さらなる臨床試験や研究が必要だという。また、大量生産の体制も整えなくてはならない。
WHOのチャン事務局長は、「効果の高いワクチンは現在および将来のエボラ出血熱の流行に対処するための、さらなるとても重要な手段になるだろう」との声明を出した。【2015年7月31日 朝日】
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“(ワクチンを開発したカナダ公衆衛生機関からライセンスを付与された)メルク・アンド・カンパニーが、現在世界で最もエボラワクチンの開発に対する資金提供を積極的に行っている組織である「GAVIアライアンス」と、2017年末までの実用化を目指してエボラワクチンの開発に取り組む契約を結んだことをBloomberg Businessが報じています。
GAVIアライアンスは、政府や企業、国連機関、さらにはビル&メリンダ・ゲイツ財団のような慈善団体からエボラワクチン開発のための費用として合計500万ドル(約5億8000万円)を集めており、この資金を使ってメルク・アンド・カンパニーがワクチンの開発に取り組む模様。”【1月21日 Gigazine】
もうひとつはロシア・プーチン大統領から。
****ロシア、エボラワクチン開発に成功か プーチン大統領発表****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は13日、西アフリカで1万人以上の死者を出したエボラウイルスのワクチン開発に同国が成功したと発表した。
だが、注目を集める発表の仕方に長けていることで有名なプーチン大統領は、開発されたワクチンの名称を明らかにしなかった上、作用の仕組みや開発者、臨床試験の詳細などについても一切触れなかった。
国営ロシア通信は、プーチン大統領の言葉を次のように伝えている。
「良い知らせがある。わが国は、エボラに有効な薬剤を登録した。登録に伴う試験の結果、有効性が極めて高いことが判明している。これまでに世界中で使用されている薬剤より有効性が高い」
現在のところ、エボラに対して承認されたワクチンや治療法は存在しない。国連(UN)の世界保健機関(WHO)は、新薬開発手続きの迅速化を認可している。
ロシアのベロニカ・スクボルツォワ保健相は、プーチン大統領とともに出席した政府会議で、同国が「独自の、世界に類のない」ワクチンを開発したと述べた。
スクボルツォワ保健相は2014年10月、ロシアが向こう半年以内にエボラワクチン3種類を製造する見通しで、うち1種類はすでに臨床試験の準備が完了していることを明らかにしていた。(後略)【1月14日 AFP】
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こちらの信憑性はなかなか・・・・。
仮に本当とすれば、「ロシアがワクチン開発に乗り出したのは、エボラ出血熱を生物兵器として使うつもりがあるからでは・・・」なんて勘ぐりも。
本当に「良い知らせ」であれば、何よりです。
【感染が終息しても続く「エボラ孤児」問題】
エボラ出血熱については、治療法・予防法開発の問題、回復した人々の社会復帰の問題のほか、親をエボラで失った「エボラ孤児」の問題もあります。
****傷の癒えないエボラ孤児、社会復帰を支援 西アフリカ****
西アフリカ・ギニアの首都コナクリに住む高校生のサー・マティアス・レノーさん(18)は「どうやったら笑えるか、少しずつ、思い出している」と語る。レノーさんは、西アフリカで猛威を振るったエボラ出血熱で親を亡くした大勢の孤児の一人だ。
国連(UN)によると、ギニア、シエラレオネ、リベリアで特に甚大な被害をもたらしたエボラ出血熱に感染した人は約2万9000人、命を落とした人は1万1315人。そして、2万2000人以上の子どもたちが少なくとも両親のどちらかを亡くした。
「子供たちの苦しみは本当に最初から始まる。家族に感染者がいると分かった瞬間から、彼らは心に傷を負う」と、国際人道支援団体プラン・インターナショナルのヤヤ・ディアロ氏は言う。感染者がいる家の子供たちは、近所の人々から敬遠されたり、汚名を着せられたりした。
リベリアでは、12歳の少女が亡くなった母親と一緒に家に閉じ込められて隔離されるという恐ろしい事件も起きた。パニックを起こした村人は森に逃げ込み、少女は水も食事も与えられないまま何日も泣き続け、一人で息を引き取ったという。
「両親がエボラで亡くなったために孤児となった子供について、現時点では統計がない」とディアロ氏は言う。プラン・インターナショナルでは、食料の配給やカウンセリングを行い、そうした子供たちと受け入れ先の家族を支援している。
それでも、多くの子供たちの傷は癒えていない。両親ときょうだいの一人を亡くしたレノーさんは「生きているのが辛い」と言う。「幸い、学校では誰も僕がエボラ出血熱の犠牲者の家族だということを知らない。本当に信用できる校長先生にだけ打ち明けた。先生はいつも僕を励ましたり、慰めたりしてくれる」。
しかし、兄のエマニュエルさんは大学を中退して働くことを余儀なくされた。2014年10月の「1週間のうちに父も母も失った。僕はもう勉強はできない。自分が働かないと残された弟たちが勉強を続けられなくなる」
コナクリの公立大学に所属する医師、ジーン・ペ・コリー氏は、エボラ孤児たちを支援するプログラムがないことを嘆く。「国からは、こうした子供たちを社会に復帰させるプロジェクトを立ち上げるための支援も資金提供もない。エボラ熱を生き延びた人々への支援はあるが、孤児たちには何もない」【1月26日 AFP】
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財政基盤の弱い当事国だけに任せることはできませんので、国際社会の継続的な支援が必要とされます。