孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾総統選挙  野党・民進党の蔡英文氏が大勝 「一つの中国」をめぐり、これから強まる中国の圧力

2016-01-16 22:15:27 | 東アジア

(選挙戦最終日の夜、98歳の高齢と病弱な体調をおして駆け付けた歴史学者で台湾独立運動の先駆者でもある史明氏の熱い支援に、壇上で涙を浮かべる蔡英文氏 【1月15日 udn.com】)

台湾総統選挙は予想されたように、野党・民進党の蔡英文主席(59)が、与党、国民党の朱立倫主席(54)ら2候補に大差をつけ、当選を確実にしています。しかも朱氏に対しても、ダブルスコアに近い大差となっています。台湾では史上初の女性総統の誕生です。

今回総統選では、国民党の馬英九政権が2期8年の間に進めた中国との融和を図る対中政策の是非が焦点となりましたが、台湾の「現状維持」を訴える蔡氏が、中台協調の継続を掲げる朱氏を終始引き離して選挙戦を進めてきました。

この背景には、馬総統が強引に進めた台中間のサービス分野の市場開放を目指す「サービス貿易協定」に、台湾が中国に飲み込まれてしまう危機感から反対した若者らの「ひまわり運動」(2014年3月)に象徴されるような、台湾人としてのアイデンティティが重視されるようになりつつある台湾社会の現状があります。

****台湾総統選で民進党の「ダブルスコア勝利」が確定、得票率6割近くで国民党を圧倒****
台湾で16日に実施された総統選で、民進党の蔡英文・陳建仁の総統・副総統候補ペアの勝利が確定的になった。日本時間同日午後8時時点で、国民党の朱立倫・王如玄候補者ペアに「ダブルスコア」に近い差をつけている。

台湾総統選挙は、選挙民が総統の立候補者ペアを選択する方式だ。中華民国(台湾)中央選挙委員会によると、開票率が5割を超えた日本時間16日午後8時時点で、民進党の蔡・陳候補ペアは58.2%の得票率。対する国民党の朱・王ペアの29.4%のほぼ2倍の得票を得た。

今後、国民党支持者が比較的多く、大票田でもある台北市や新北市の開票が進むが、台北市でも同時点で民進党ペアへの得票率が52.3%、国民党は37.0%だ。新北市では民進党ペアが56.5%、国民党ペアが31.8%であり、国民党はいずれも民進党に大きく引き離されている。

朱候補は国民党への大逆風が吹いた2014年12月の台湾統一地方選でも、新北市長に当選したが、総統選では新北市の有権者の支持も低調だった。

今回の総統選で最大の争点になったのは、中国との関係のあり方だった。民進党主席(党首)でもある蔡候補は、「現状維持」を主張。中国と敢えて対立することはしないが、急接近もしないと主張した。国民党主席の朱候補は、大陸との良好な関係構築を訴えた。

朱候補にとって、最大の「ハンデ」は現職で国民党所属の馬英九総統が、強引な対中接近で大きな批判を浴びたことだった。2014年には馬政権が進めた大陸とのサービス貿易協定に反対する学生が、立法院(国会)を長期にわたって占拠する「異常事態」も発生した。

馬政権には、政策そのものだけでなく民主制度の運用についても大きな批判が浴びせられた。中国との協定については「外国との条約でない」との台湾特有の「建前」があり、国会における「批准の採択」は必要なかった。国会の「反対が成立しなければ」、総統には協定を成立させる権限がある。

馬政権は国会で十分に審議すると約束していたが、一方的に「協定への反対は成立しなかった。審議終了」と宣言したことで、国民の猛反発が発生した。

朱候補は「馬総統や国民党に怒ってもよい。しかし感情にまかせて投票してよいのか」などと訴えた。支持者を増やしつつあるとのの世論調査もあったが、結局は挽回できなかった。【1月16日 Searchina】
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総統選挙と同時に行われた立法委員選挙で民進党が単独過半数を獲得できるのか、また、「ひまわり運動」を経験した若者世代を代表する「時代力量」がどこまで議席を獲得できるのか・・・そうした点も関心が持たれるところですが、現地報道によれば民進党が過半数を確保したようです。

民進党が立法院で過半数を得るのは初めてのことで、蔡英文氏の政権基盤を担保した形となっています。

蔡英文氏の勝利は予想されていたものですが、問題は今後の中台関係の行方です。台湾の試練はこれから始まります。

民進党・蔡英文氏は、中国側が台湾との交流の前提とする、中台それぞれが「一つの中国」を認め合う「92年コンセンサス」を認めていません。

ただ、台湾経済にとって中国との関係が死活的に重要なのも事実で、蔡氏は「現状維持」を掲げ、自らことを荒立てることはしないとしています。

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テレビ討論会などで蔡氏が中台関係について語る「現状維持」についても、朱氏は「現状が何を指すのか説明があいまいだ。中台関係が不安定化する」と訴える。

だが、蔡氏は合意について「異なる意見がある」「唯一の選択肢ではない」とかわし、あいまい戦略を貫いている。

民進党の陳水扁政権(2000〜08年)時代は中台関係が緊張し、経済低迷を招いた。経済界には蔡政権が誕生したら再び中台関係が悪化するのではとの不安があるため、蔡氏は、中台関係を安定的に維持させる姿勢を示して懸念の払拭(ふっしょく)に努めている。【1月10日 毎日】
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台湾の「独立志向」を警戒する中国は、当然に「一つの中国」を認めることを迫ってくるでしょう。

****台湾・総統選】中国、台湾と外交関係の奪い合い再開へ、民進党次期政権に圧力、「独立志向」を警戒****
中国国務院(政府)台湾事務弁公室は16日、「(国民党の馬英九政権が誕生した)2008年から『台湾独立』への反対と『92年コンセンサス』の堅持を政治的な基礎に両岸(中台)は平和的発展の新局面を切り開いた」との声明を発表した。民進党への強硬姿勢は避けながらも「一つの中国」を改めて認めるよう迫った形だ。

00年から08年までの前回の民進党政権時代に台頭した「台湾独立」志向の再燃を警戒する中国は、中台それぞれが「一つの中国」を認め合う「92年コンセンサス」で台湾を縛り続けたい考え。しかし、民進党がこれを受け入れる可能性が低いことを念頭に、今後は外交圧力を強める方針に転換する。

関係筋によると、蔡英文次期政権の政策や台湾の世論を見極めながらも、中国は「馬政権時代に封印してきた台湾との“外交戦”を再開する」という。台湾が外交関係をもつ中米・太平洋・アフリカ諸国など20カ国以上に、チャイナマネーをチラつかせて台湾と断交させ、中国と国交樹立するよう求める外交圧力だ。

かつて中台は、それぞれが「中国を代表する唯一の政権」を主張して、外交関係を結ぶ国の奪い合いを繰り広げた経緯があるが、対中融和策に転じた馬政権時代に入ってから、中国は取引材料として台湾との外交戦を“休戦”していた。

さらに、台湾との貿易や観光客の訪台、中台間の直行便で新たな規制を設けるなど、経済面からも圧力をかけるものとみられる。【1月16日 産経】
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今回選挙戦では、16歳の台湾出身アイドルの言動が“中国の圧力”として注目を集めました。

****台湾・総統選】韓国アイドルグループ「TWICE」の台湾出身ツウィに“台湾の旗を振った”と批判殺到 中国での活動休止にビデオで謝罪 総統選への影響も****
韓国のアイドルグループ「TWICE」で活躍する台湾出身のツウィ(周子瑜)さん(16)が16日までに、「台湾独立派」との批判に対してビデオで謝罪し、「中国はただ1つ。海峡の両岸は一体だ。私は中国人であることを誇りに感じている」と訴えた。

台湾はもとより、中国本土でも中国の「圧力」を疑う声が挙がるなど、16日投開票の台湾総統選の票の行方にも影響を与えた可能性が指摘されている。
◇  
台湾メディアなどによると、周さんは昨年11月、韓国のテレビ番組で、台湾出身であることをアピールするために、韓国国旗とともに台湾の旗「青天白日旗」を振った。(中略)

事務所の指示のまま旗を振った周さんにかみついたのが、「新鴛鴦蝴蝶夢」のヒット曲で知られる台湾出身の歌手、黄安氏。中国版ツイッターの「微博」に、台湾の旗を持つ周さんの写真を掲載し、中国本土のテレビ番組への出演への反対を訴えた。

黄氏は、香港の俳優、王喜氏がインターネット上で中国の周恩来元首相を“侮辱”したと告発し、中国本土における芸能活動禁止に追い込んだ人物だ。

黄氏の告発をきっかけに、中国本土で「台湾独立を支持しながら中国で金を稼ぐ」などと、周さんに対する批判が噴出。周さんはビデオで謝罪する事態に追い込まれた。

黒い服を着て、灰色の壁の前に立つ周さんは1分26秒のビデオの中で、深々と頭を下げて、謝罪文を読み上げた。

「みなさんこんにちは。私は周子瑜です。ごめんなさい。もっと早く出てきて謝るべきでした。
現在の状況にどう対処すればよいのか分からなくて、ずっとみなさんと直面する勇気がありませんでした。それでやっと今になりました。

中国はただ1つだけです。(台湾)海峡の両岸は一体です。わたしは終始、自分が中国人であることに誇りを感じています。

1人の中国人として外国で活動しているとき、行いの間違いによって、両岸(中台)のネットユーザーの感情を傷つけました。とってもとっても申し訳ないと感じています。そして恥じ、やましさを感じています。

私は中国での一切の活動を休止することを決めました。真剣に反省しています。もう一度、もう一度みなさんに謝ります。ごめんなさい…」

か細い声でこう話し終えた周さんは、最後にもう一度、画面から顔が切れるほど深々とお辞儀をして、許しを請うた。

所属事務所のJYPエンターテインメントも16日までに、声明を発表し、「子瑜は16歳の未成年者で、政治的な考えを持っているわけではない」と釈明した。

所属事務所は、周さんの中国本土での活動休止について、「騒動で同社の中国大陸での業務などに影響が生じているため」と説明しているが、台湾では謝罪ビデオを含め、中国の圧力を疑う声が高まっている。

周さんに対する同情が広がる中、総統選の候補者も周さんを擁護する姿勢を発信し、支持につなげようとした。
国民党の朱立倫主席は自身のフェイスブック上で「国旗を守り、中華民国を支持し、子瑜を力強く応援する」と表明した。

民進党の蔡英文主席も報道陣の取材に対し、「中華民国の国民が国旗を持ち、自国への思いを表すのは国民の権利だ。その気持ちを押し潰すべきではない」と述べたという。(中略)

一方、中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報は15日夜、微博の公式アカウント上で、謝罪ビデオについて論評している。

「周子瑜よ。あなたがそのように話して、嬉しくてホッとしている。まだ人形遊びをするような年齢で、理想を追い求めるためにふるさとを離れ、もっとも過酷なオーディションを受け、才能の花を咲かせた。

しかし、卑劣な連中はあたなを使い捨ての砲弾として使った。13億同胞を心の底から怒らせた。こうしたレベルの低い連中は、あなたの心の中の“中国”を憎んでいる。奴らを恐れるな。勇気をもって、光り輝く中華の光となれ!」(後略)【1月16日 産経】
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「台湾独立を支持しながら中国で金を稼ぐ」云々は、周子瑜さんだけでなく、今後は中国側から台湾の経済活動全体に向けられてくるでしょう。

「一つの中国」の“踏み絵”を迫ることも。
経済界からは中国との関係を重視する声が高まるでしょう。

「現状維持」を掲げる蔡英文新総統が、こうした中国側の攻勢にどのように対応するのか・・・相当に難しい課題です。

なお、学者出身の蔡英文氏の控えめな人となりについては、以下のように紹介されています。

****台湾・総統選】「(味のない)さ湯」 内向的で控えめ 非典型的な政治家 蔡英文氏はこんな人****  
「(味のない)さ湯」「非典型的な政治人物」−。蔡英文氏を評する言葉に共通するのは、巧みな演説で有権者を感化する伝統的な台湾の政治家像とはかけ離れた姿だ。自伝では「内向的、控えめで、人の注意を引きたくない学者だった」と振り返っている。

台北で客家系本省人の裕福な家庭に生まれた。台湾大法学部を卒業後、米コーネル大で修士号、英ロンドン大経済政治学院(LSE)で博士号を取得。国際貿易と緊急輸入制限(セーフガード)を研究したことが縁で1986年、世界貿易機関(WTO)の加盟交渉に加わった。公の場で感情を表に出さない癖は、この時に身に付いたといわれている。

中台同時加盟となったWTO交渉の経歴を買われ、中国国民党の李登輝政権で総統の諮問機関「国家安全会議」の事務方に加わり、中台を「特殊な国と国の関係」とする「二国論」の起草に関与。民主進歩党の陳水扁政権で対中政策を主管する閣僚に抜擢(ばってき)され、半年間で中台の一部直接往来「小三通」を実現した。

民進党への入党は2004年で、民主化を求める反体制運動に身を投じてきた結党世代とは政治的背景も党歴も異なる。比例区の立法委員(国会議員に相当)、行政院副院長(副首相)を経て08年の野党転落後の党主席に就任し、党の再建に尽力。10年の新北市長選で国民党の朱立倫氏、12年の総統選で馬英九総統に敗れ、3度目の“選挙”で雪辱を果たした。

総統選では「できないことは言わない。言ったことはする」(メディア戦略責任者)と決め、演説で徹底して原稿を読む慎重な姿勢は指摘を受けても変えなかった。未婚。手料理でスタッフを慰労することも。飼い猫2匹と暮らしている。【1月16日 産経】
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