孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン 和平に向けたアフガン、パキスタン、米国、中国による初の4者協議開催

2016-01-11 21:52:00 | アフガン・パキスタン

(12月16日、首都カブールで開催された、女性のIT技術への関与を促進するためのイベント 
ガニ大統領の夫人ルーラ・ガニ氏も参加したようですが、彼女はこれまでのイスラム的タブーを破って、公に顔を出す形で公的な活動を積極的に行っています。タリバン支配となれば、こうした試みも水泡に帰します。残念です。
写真は“flickr”より By UNAMA News )

続くタリバンの攻勢
アフガニスタンにおけるイスラム原理主義勢力タリバンの内紛、最近のタリバンの攻勢、アフガニスタン情勢に関する隣国パキスタンの重要性などについては、昨年12月23日ブログ「アフガニスタン 強まるタリバンの攻勢 充分に機能しない政府・軍」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151223)で取り上げたところです。

年末には、アフガニスタンとタリバンに影響力を有するパキスタン、更に両国に影響力を有するアメリカと中国を加えた4か国が、和平交渉進展に向けた会合を開催することが決定されました。

****パキスタン、アフガンとタリバーンの和平交渉再開に合意****
パキスタン軍のトップ、ラヒル・シャリフ陸軍参謀長は27日、アフガニスタンを訪問し、ガニ大統領らと会談した。アフガンの反政府武装勢力タリバーンと政府側の和平交渉を再開させるために動くことで合意した。

パキスタン軍は傘下の情報機関を通じて、1990年代にタリバーンの政権樹立を後押しし、2001年にゲリラ勢力に転じた後も、密接な関係を保っているとみられてきた。

パキスタンの仲介で今年7月、アフガン政府とタリバーンの初の直接協議が実現したが、両国間の相互不信が再燃し、中断していた。

パキスタン軍によると、会談で両者は、米国と中国を含む関係4カ国の会合を来年1月に開き、和平交渉の包括的な工程表を決めることで一致した。

タリバーン内部の和平に前向きな勢力を後押しする一方、反対派には一致して対処することで合意した。和平をめぐり、「踏み絵」を迫る構えだ。

またパキスタン側は自国の反政府勢力がアフガン側に逃げ込み、再び戻ってテロや攻撃を仕掛けているとみており、アフガン側に断固とした対応を求めた。【12月28日 朝日】
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タリバンの攻勢は年が明けても続いています。

****フランス料理店に自爆攻撃、17人死傷 アフガニスタン****
アフガニスタンの首都カブールにある外国人に人気のフランス料理店で1日、旧支配勢力タリバンによる自動車を使った自爆攻撃があり、地元警察当局によると2人が死亡、15人が負傷した。

狙われたのはアフガニスタン人が経営するフランス料理店「ル・ジャルダン」で、大きな爆発音の後、建物は炎上した。薔薇の咲く大きな庭園を擁するこのレストランは、外国人や裕福なアフガニスタン人に人気が高い。

アフガニスタン政府は12月31日、タリバンとの和平交渉を目指してパキスタン、米国、中国との4者会談を今月11日からパキスタンで開催すると発表したばかりだった。タリバンによるとみられる攻撃は、カブールでは1週間で2回目。(後略)【1月2日 AFP】
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****アフガンのインド領事館襲撃、発生から25時間後に終結****
アフガニスタン北部マザリシャリフで起きた武装集団によるインド領事館襲撃事件は、発生から25時間後の4日夜、襲撃犯3人全員が殺害されて終結した。地元当局が明らかにした。

現在も犯行声明は出ていない。事件では、インド領事館が近くの建物に陣取った武装集団の襲撃を受け、治安当局との銃撃戦に発展。少なくとも警官1人が死亡し、11人が負傷した。

一方、首都カブールでは4日、旧支配勢力タリバンが国際空港近くにある外国人の民間請負人らの住宅施設でトラック爆弾を爆発させ、数十人が負傷する事件が発生。さらに同じ地域ではこの数時間前にも、男が自爆する事件が起きていた。

また、パキスタンとの国境に近いインド北部パンジャブ)州ではこれに先立つ2日、イスラム過激派とみられる武装グループが空軍基地を襲撃。14時間に及ぶ銃撃戦で兵士7人が死亡した。【1月5日 AFP】
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攻撃は米軍特殊部隊にも及んでいます。

****<アフガニスタン>タリバン攻撃受け米軍特殊部隊3人死傷****
米国防総省のクック報道官は5日の記者会見で、アフガニスタン南部のヘルマンド州でアフガン治安部隊の訓練や支援任務中の米軍特殊部隊が攻撃を受け、1人が死亡し、2人が負傷したと明らかにした。

アフガン兵も負傷したという。同州は旧支配勢力タリバンの活動が活発で「アフガンの中でも、戦闘が続いている危険な地域の一つ」という。(後略)【1月6日 毎日】
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4者協議開催も、憂慮されるアフガニスタン政府・軍の腐敗
こうしたなかで、前出の4者協議が11日、パキスタンの首都イスラマバードで行われました。

****アフガンでも「幽霊兵士」 和平目指し4者協議もタリバンは不参加****
アフガニスタン和平に向けたアフガン、パキスタン、米国、中国による初の4者協議が11日、パキスタンの首都イスラマバードで行われた。

アフガン政府とイスラム原理主義勢力タリバンの公式和平協議再開を目指すことを強調したが、タリバンは交渉の席に戻る意思を示していないばかりか、アフガン政府側でも実在しない「幽霊兵士」の存在が明らかになり、治安維持能力の不足を露呈した。和平実現への道筋がみえない状態が続いている。

ロイター通信によれば、協議にはパキスタンのアジズ首相顧問(安全保障、外交担当)▽アフガンのカルザイ外務副大臣▽米国のオルソン・アフガンパキスタン特別代表▽中国の●(=登におおざと)錫軍アフガン問題特使らが出席した。

アジズ氏は「(和平と和解には)政治交渉による合意がもっとも実行可能な選択肢だ。4者は密接に、アフガン政府とタリバンの和解行程を調整すべきだ」と述べ、「和解行程の主要な目的は、タリバンを交渉のテーブルにつかせ、政治的な目標達成のための道具として暴力を使わぬよう、タリバン内の集団を説得することができる誘因を提供することだ」と強調した。

一方、AP通信が10日、アフガン南部ヘルマンド州議会の関係者の話として伝えたところによると、同州には実際には存在しないのに、給料だけが支払われている「幽霊兵士」が多数存在するという。

名前だけを登録して実際には働いていなかったり、死亡した兵士や警官の名前が名簿から削除されず、給料が上司のポケットに収まっていたりするケースがある。州議会関係者は「登録された治安部隊要員の40%は存在しない」とし、「要員不足がタリバンにヘルマンド州の65%を支配させている」と批判した。

アフガン国防省はこの報道についてコメントしていない。
アフガン議員の1人は「戦場に100人いるといえば、現実には30〜40人しかいないということだ」とし、「大規模な腐敗」だと批判している。【1月11日 産経】
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今回の会合では和平協議に前向きなタリバン傘下の組織とそうでない組織を分類し、選別的に協議を進めることを確認し、和平に向けたロードマップ(行程表)を作成するのが目的とされています。

現段階でタリバン側の交渉参加の意思が示されていないのはやむを得ないところではありますが、「幽霊兵士」に見られるようなアフガニスタン政府の腐敗ぶりを見ると、今後にはあまり期待できません。

ベトナム戦争のなかで自壊していった南ベトナム政府を見るような感があります。

タリバン「影の政府」の「統治」実態
一方のタリバン側がどのような統治を意図しているのかは判然としませんが、現在支配下においている地域での「統治」について、下記のようにも報じられています。

****統治」進めるタリバーン NATO戦闘部隊、アフガン撤退1年****
アフガニスタンで米軍主導の北大西洋条約機構(NATO)軍が戦闘任務を終えて、昨年末で1年がたった。
かつて政権の座にあった反政府勢力タリバーンが力の空白を突き、支配地域を再び広げている。三つの村の住民に首都カブールで支配の実情を聞いた。

 ■志願兵を高給で勧誘/肉・米・小麦の価格統制
アフガン北東部タカール州は大河アムダリアを挟んでタジキスタンと国境を接する。同州ダルカッド地区は川の中州状の島にある。肥沃(ひよく)な農地と森があり、約2千世帯が住む。

昨年10月末、農家のアブドル・ハリムさん(40)はモスクで早朝礼拝をしていた。祈りが終わると、一人の男が話し始めた。「われらの兄弟、ムジャヒディン(イスラム戦士)がやって来る」

地区には国家警察と、地元民で作る自警団的な地方警察の計約70人が駐留していた。ボートで川を渡ってきたタリバーンが地方警察の8人を殺害すると、政府側は地区の外へ撤退。地区の役場も占拠された。

2日後、モスクにタリバーンが来て「今の学校はイスラム教に反する英語を教えている。新しいカリキュラムが決まるまで閉鎖する」と宣言した。

政府関係者の処分も発表。軍人だった者には、軍が支給した自動小銃の提出と10万円ほどの罰金、政府職員には辞表と保証人5人の署名の提出を求めた。最前線に立ってきた自警団には「何があっても許さない」とした。

タリバーンは50人ほどの地元出身者を案内役に、ウズベク人やチェチェン人などを含む1千人以上。昨年9月末に北部の要衝クンドゥズを制圧したが、政府軍に奪還され、移ってきた。

一帯は以前、クンドゥズのドイツ軍がパトロールに来ていた。空からの偵察もあり、治安は安定していたが、2013年にドイツ軍は撤退。ハリムさんは「外国軍がいなくなり、守りに適したこの地区を狙っていたのだろう」と話す。

外国兵は森を占拠し、テントを張った。まき集めの場所だった森は、立ち入り禁止に。タリバーンは肉や米、小麦など約10品目の価格表をモスクに貼り出した。肉などタリバーンにとって必要度が高い品目ほど価格を抑え込んだ。

志願兵の勧誘も始めた。月給は普通の若者なら6万円ほど。村の有力者なら16万円程度。警察官が月給2万円ほどだから、信じられない厚遇だ。ハリムさんの集落では10人ほどが名乗りを上げたが、長老らが「彼らはよそ者。いなくなって政府が戻ってきたらどうする」と諭され、数人が怖くなってイランへ逃げた。

政府は奪還を目指すが、急流に阻まれ、軍部隊の大量投入は容易ではない。空爆もしたが、住民が巻き添えになり、中断した。

ハリムさんの集落約300世帯のうち80世帯ほどが地区外へ逃げた。タリバーンは食料を供給し、「人間の盾」にもなる住民らがいなくなる事態を恐れ、脱出を制限するようになった。

 ■武力を背景、判決下す
中部ガズニ州ワガズ地区では、州都ガズニの駐留米軍が、民家に潜むタリバーンをしらみつぶしに捜索する夜襲作戦を繰り返してきた。だが、「14年末の米軍撤退後に作戦はなくなり、あっという間にタリバーンの活動が公然化した」。自宅を捜索されたことがある電気技師アブドル・ガファールさん(38)が話す。
 
米軍が去った2日後、小さな村のモスクにタリバーンが村々から長老たちを集めた。協力して道路を直すこと。カレーズ(灌漑〈かんがい〉用の地下水路)を直すNGOには協力すること。安全は保証する、との内容だった。
 
ガファールさんの村でもカレーズの水くみ場が男女別々につくり直された。一方、タリバーンは政府の事業は学校建設であれ、道路整備であれ、妨害した。
 
タリバーンは地区内を移動。毎日どこかの村のモスクを拠点と定め、そこを行政窓口にしている。
 
最も重要な役割は、土地を巡る村人同士のトラブルなどの仲裁だ。政府機関や裁判所は訴えても賄賂を要求されたり、放置されたりする。タリバーンは当事者を呼びつけ、1週間ほどで判決を出す。カネを要求せず、武力で当事者に決定を守らせる力がある。
 
ガファールさんは「米軍がいたころと比べ、治安は良くなった」という。タリバーンは役場をむやみに攻撃しない。政府が大量の部隊を送れば、太刀打ちできないと考えているようだ。
 
タリバーンは1996年から01年に政権の座にあった頃、「イスラム教に反する」と主張して、ひげそりや音楽、女性の外出禁止など極端な統治をした。今はそれほど厳しく強制しなくなったとも感じる。

ただ、村人の支持には必ずしもつながっていない。
「タリバーンと話しただけで政府側からにらまれるかもしれない。政府と接触すれば、タリバーンに狙われる。人々は戦いにうんざりし、ただ恐れている」

 ■収穫後に徴税、偽申告に刑罰
東部パクティア州ズルマット地区のサルダル・ムハマドさん(34)は、農業と日雇いの仕事で生計を立てている。タリバーンは01年末に政権を追われた後も、「この辺りからいなくなったことはない」と話す。

タリバーンは山間部に潜伏し、村々へバイクでやって来る。遠くで空砲を鳴らすのが、来訪の合図だ。昨秋、畑の収穫が終わった頃、住民をモスクに集めた。世帯ごとに自己申告した収穫量の1割程度を現物か現金で徴収する。申告がうそだとわかれば、むち打ちや射殺もいとわない。
 
裕福な家には押しかけ、「食事をくれ」と叫ぶ。商店主や勤め人も徴収の対象で、知人の男性は月2万5千円ほどの「税金」の要求を断ると、息子を誘拐された。約350万円の身代金を払い、村から逃げたという。
 
治安が悪く仕事が見つかりにくいため、男子の多くは軍や警察に入るか、タリバーンに入るかを選ぶ。ムハマドさんの弟は軍に入ったが、誰かがタリバーンに密告し、村に戻れなくなった。

 ■自信深める「影の政府」 7地区「完全支配」
タリバーンは昨年9月、北部クンドゥズを全国34の州都で初めて一時陥落させた。国防省によると、全国に368ある地区のうち、ダルカッドなど7地区を軍や警察が入り込めない完全支配下に置く。
 
それ以外の地区でも勢力を広げており、ワガズとズルマットの両地区では「政府が支配するのは地区役場から200~300メートル程度の範囲」(ムハマドさん)。外側ではタリバーンが影の政府として振る舞う。
 
01年から地方都市に駐留してきた外国軍部隊は、14年末までにほとんど撤退した。北部3州で知事を務めたアクラムディン・マフスミ下院議員は「撤退が直接、治安悪化に結びついた」と指摘する。
 
タリバーンは昨年、最高指導者の死が発覚し、後継選びで内紛が起きたが、草の根レベルでは浸透に成功している。
 
下院は昨年6月で5年の任期が切れたが、選挙ができない。タリバーンは過去に選挙妨害のテロを繰り返しており、「少なくとも国土の3割で投票は無理」(マフスミ氏)という。

米国は昨年10月、16年末に米軍が完全撤退する方針を撤回。訓練などをする部隊を5500人規模で維持する方針だが、情勢を変える特効薬にはなりそうにない。
 
米中が後見役となり、パキスタンの仲介で政府とタリバーンの和平交渉を再開させる試みは続く。統治に自信を深めるタリバーンの説得がカギになる。【1月5日 朝日】
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「影の政府」の「統治」内容については、以前は否定していた女子教育に前向きに取り組んでいる地域もあることなどが報じられたこともありますが、地域によってかなり差があると思われます。

かつての旧政権時代のような、音楽も娯楽も女性外出も禁じる「恐怖政治」に比べれば若干は穏やかになってはいるようですが、「力」による支配には変わりありません。

しかし、アフガニスタン政府の腐敗ぶり、無策ぶりに比べると、「力」の政治によって治安が改善され、「安定」がえ得られる側面もあって、そのことがタリバンの浸透を促すことになります。

アメリカ撤退後においてアフガニスタン政府が実権を維持できるか、はなはだ危ういところではありますが、今回4者協議を受けて、呼びかけがなされるであろうタリバン穏健派との和平交渉が注目されます。

いずれにせよ、今後のアフガニスタンがどうなるのかについては、アフガニスタン政府・軍がまともに機能するかどうかが最大の問題です。
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