
【1月26日号 Newsweek日本版】
【イラン:改革派候補者の99%が事前資格審査で失格】
イランでは2月26日に国会議員選挙が行われます。
穏健派ロウハニ大統領のもとで、欧米との核開発問題合意、経済疲弊・市民生活困窮を余儀なくしてしていた経済制裁解除という成果を出したことで、保守強硬派が牛耳る議会において、いわゆる改革派が勢力を伸ばすことができるか注目されています。
その結果は、イラン国内の民主化と同時に、シリアやイエメンなどで重要な位置をしめるイランの外交姿勢にも影響してきます。
最高指導者が大きな決定権を有するなど、イランはイスラム教シーア派の宗教独裁のイメージが強い国ですが、制度としては民意を問う選挙制度が一応存在していますので、徹底した王政のアメリカ同盟国サウジアラビアよりも民意が政治に反映しやすい体制ではないでしょうか(少なくとも大統領選挙などにおいては)。
ただ問題は、1月3日ブログ「シーア派指導者死刑執行で先鋭化するサウジアラビア・イランの対立」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160103でも触れたように、恣意的・不明瞭な事前の資格審査によって、体制側に不都合な候補者は立候補できないという仕組みがあり、多くの改革派候補が選挙に参加できないことです。
“改革派グループの幹部はNHKの取材に対し、ロウハニ政権は国際社会との対話によって経済再建への希望をもたらしたと分析したうえで、これを追い風として政権の支持派が勝利することに自信を示しました。
また、資格審査で多数の改革派の候補者が失格となった過去の選挙を教訓として、今回は届け出る人の数を大幅に増やす措置を取ったことを明らかにしました。”【1月3日 NHK】とのことでしたが、“ロハニ大統領を支持する改革派は、擁立した3千人の99%が失格”となったと報じられています。
****イラン国会議員立候補、7300人失格 融和批判の勢力、改革派排除か****
イランで2月26日に投票がある国会議員選(定数290)で、立候補を届け出た約1万2千人のうち、約7300人が19日までに事前審査で失格になった。イランメディアが伝えた。
ロハニ大統領を支持する改革派は、擁立した3千人の99%が失格となり、30人しか立候補の資格を得られていないと主張。審査の見直しを求めている。
イランでは、米欧の経済制裁の解除をなしとげたロハニ政権への評価が高まっているが、選挙はイスラム法学者らでつくる「護憲評議会」が候補者を審査。これまでも、より自由な社会を求める改革派が排除されてきた。
イラン内務省によると、約1万2千人という立候補の届け出数は1979年のイスラム革命以降で最多。ロハニ政権をみて政治に興味を持った人が多いとみられ、ロハニ氏に近い改革派、穏健派が議席を増やすと予想されていた。【1月20日 朝日】
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資格審査に関しては異議申し立て・再審査申請が認められる制度にもなっていますが、「3千人の99%が失格となり、30人しか立候補の資格を得られていない」というのが、途中段階の数字なのか、最終決定なのか・・・そこらはよくわかりません。
いずれにしても、今回も保守派の強い締め付けによって、形だけの選挙に終わることが強く懸念されます。
【アメリカ:「怒りの候補」トランプ氏が民主党支持者にも浸透】
一方、民主主義の守護者を自任するアメリカの大統領選挙も、予備選挙の初戦となる中西部アイオワ州の党員集会が2月1日に迫っています。
共和党側は、「イスラム教徒の入国を全面的に止めるべきだ」などと放言を繰り返すトランプ氏が、“そのうち失速する”との大方の予測を裏切って、このまま逃げ切りそうな勢いです。
トランプ氏を追うのは保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会)」の支持を受けるテッド・クルーズ上院議員ですが、「ティーパーティー」に人気があるサラ・ペイリン元アラスカ州知事が19日にトランプ氏支持を表明、ますますアイオワに向けて加速しています。
まあ、テッド・クルーズ上院議員も、2013年9月、オバマケア(医療保険制度改革法)を含む暫定予算案の成立を阻止するためほぼ無人の上院本会議場で演説開始、そのまま翌日の昼まで21時間以上演説を続ける伝説級の議事妨害を行った人物で、本来ならかなり“異色・風変わりな”存在ですが・・・。
トップを走る「不動産王」、トランプ氏については、共和党本流からは批判もありますが、有権者の既成政治に対する「怒り」を代弁する存在になっているようです。
****(2016米大統領選)トランプ氏、あおる「米の怒り」 移民攻撃、支持者は歓迎****
11月の米大統領選に向けて共和党の指名候補争いでトップを走る「不動産王」、ドナルド・トランプ氏(69)の勢いが止まらない。
国民の不安や怒りをあおるかのような過激な発言は、同じ共和党の政治家からも批判されているが、支持者はむしろ、こうした発言を歓迎しているようだ。
「私は、この国の統治がひどいから怒っている」
14日の共和党の討論会で、トランプ氏は自分が「怒りの候補」になっていると認めた。
直前にあった一般教書演説で、オバマ大統領が「最も極端な声のみが注目を集める時、我々の社会は弱くなる」と名指しは避けながらもトランプ氏の政治姿勢を批判。
共和党を代表してオバマ氏の演説に対する「答弁演説」をしたサウスカロライナ州のニッキー・ヘイリー州知事も「最も怒っている声からの誘惑を絶つべきだ」と、トランプ氏の影響力に危機感を表した。
しかし、トランプ氏は意に介さず、各地で開く集会で「この国には怒りがある」と強調している。特に移民をめぐる発言でその傾向が顕著だ。
5日にニューハンプシャー州クレアモントであった共和党の集会に参加したダン・ワードさん(51)は「移民について、ありのままのことを言ってくれる。現状に不満を持っている人が多い」と力を込めた。
一方、「米国内の恐怖をあおっているのが怖い」と話したキャサリン・ジョンソンさん(56)のように、嫌う人もいる。(中略)
同じ共和党の候補からも、トランプ氏の行きすぎを懸念する声は上がっているが、16日に公表されたNBCなどの世論調査では支持率が33%と、同調査での最高を記録。2位のテッド・クルーズ上院議員が追い上げているものの、なお13ポイントの差をつけた。
各種の世論調査で支持層も浮かび上がってきた。CNNが昨年12月に実施した調査では、共和党員の39%から支持を集めたが、特に(1)男性(42%)(2)大学を卒業していない人(46%)(3)年収が5万ドル(約590万円)以下の人(42%)――で支持する人が多かった。【1月20日 朝日】
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これまでは、ひょっとしてトランプ氏が共和党の候補者になるのでは、共和党はそれでいいの?・・・という懸念でしたが、今では、ひょっとしてトランプ氏が大統領になるのでは、アメリカはそれでいいの?・・・という懸念になってきています。アメリカだけでなく世界にとっても、“それでいいの?”といったところです。
****民主党支持者の票をも奪い始めたトランプ候補****
米大統領選の共和党候補に手を挙げるドナルド・トランプ氏が次期大統領になることはあるのか―。
今年11月8日に行われる本選挙で「トランプ大統領」が誕生する可能性がでている。民主党寄りの有権者でさえもトランプ支持に回るのがイマの米国である。いったい何が起きているのか。(中略)
トランプ氏は不法移民やイスラム教徒に対する差別的発言を繰り返しても、その支持率が落ちなかった。というより、逆に、暴言や失言を前に進むエネルギーに変えてしまうほどの勢いがある。
民主党支持者の支持も集め始めた
連邦議会の動向を主に報じる新聞「ロール・コール」の記者ジョナサン・アレン氏は、トランプ支持者は今も増えていると米テレビ番組の中で述べている。「トランプ氏の支持率はいずれ落ちると、いまだに考えている人がいます。その一方で、民主党員の中にもトランプ氏に魅了される人が増えてきています」。(中略)
首都ワシントンにあるマーキュリー・アナリティクスが行った最新世論調査で、民主党支持者の20%が「間違いなくトランプ氏に投票する」と答えたのだ。
しかも予備選の幕を切る最初の2州(アイオワとニューハンプシャーの両州)で1月4日から放映し始めたトランプ氏の30秒のテレビ広告に対して、民主党支持者の25%が「完全に賛同します」と答えてさえいる。この広告は、イスラム国(IS)を殲滅し、メキシコ国境に壁を建設するという内容だ。
同社のロン・ハワードCEO(最高経営責任者)は現状を次のように分析する。「(昨年6月に)トランプ氏が出馬した直後、民主党や無党派の有権者は彼の主張に無関心でした。しかし今は違う。問題を解決する能力、誰からも影で操られない存在、成功し続けたビジネスマンという実績が、彼の傲慢な性格や暴言も帳消しにするだけの魅力になっているのです」。
カネにしばられない
トランプ氏が躍進している理由はいくつか考えられる。
(1)利益団体から選挙資金を受け取らない。ロビイストや企業・団体などから一切選挙資金を受け取っていない。カネにからんだ政治的影響を、誰からも受けない点が好感度を高めている。
(2)ビジネスマンとして数々の成功を収めた。4度の破産を経験しながらも、個人資産約1兆円を築いた実績が買われている。
(3)既存の政治家とは異なり、本音を語る。遊説先では10歳児にも理解できる英語表現を使って、思いの丈をのべている。
(4)行動力への期待。中東和平も「私に半年くれればまとめられる」と豪語する。数々の交渉をまとめてきた人物だけに、有権者の期待は高まる。(中略)
ケーブルニュース局MSNBCのクリス・マシュー氏は「80年代、レーガン候補(共和党)に投票した民主党員が大勢いたように、今回もトランプ氏に一票を入れる民主党員がいる」と読み、トランプ氏有利とみる。
トランプ氏が示す行動力のある政治スタイルが党を越えて支持され、「トランプ大統領」誕生という流れになるのか。世界中が注目している。【1月20日 堀田 佳男氏 日経ビジネスオンライン】
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【“民主社会主義者”サンダース氏の追い上げに焦るクリントン前国務長官】
一方の民主党も、大本命クリントン前国務長官が、自ら民主社会主義者であると名乗るアメリカ上院初の社会主義者の左翼系無所属議員でもあるサンダース上院議員の追い上げにあっています。
****サンダース氏肉薄、焦るクリントン氏 民主指名争い、重要州で支持率差縮む 米大統領選****
米大統領選の民主党候補者指名争いに向け、テレビ討論会が17日、サウスカロライナ州であった。
本命視されるヒラリー・クリントン前国務長官(68)は全米で最初に党員集会・予備選がある重要州で苦戦する可能性が浮上し、勢いづくライバルのバーニー・サンダース上院議員(74)を厳しく追及した。
「サンダース議員がNRA(全米ライフル協会)や銃の圧力団体側に何度も投票した記録があることをはっきりさせたい」。クリントン氏は討論会で、銃規制強化法案に反対したサンダース氏の過去を批判した。
これまで共和党を意識したCMが目立ったクリントン氏だが、先週から銃規制に関するCMを放映。「どちらの側につくのか決める時だ。銃の圧力団体を支持するか、それとも(オバマ)大統領と共に彼らに立ち向かうのか」と訴えた。
サンダース氏との違いを強調する戦術に転換した背景には焦りがある。全米規模の世論調査ではクリントン氏がサンダース氏を10ポイント前後リードするが、2月1日に初戦が行われるアイオワ州ではサンダース氏が2ポイント差に迫り、ニューハンプシャー州では10ポイント以上、同氏が上回っている。
党員集会・予備選の先駆けとなる両州で敗れ、党の指名を獲得して大統領になったのは史上、1992年のクリントン氏の夫の1人だけ。また、2008年の大統領選で優位とされたクリントン氏はアイオワ州でオバマ氏に敗れた苦い経験がある。
対するサンダース氏は「富裕層が政治を操っている」と批判を展開。クリントン氏が米金融大手ゴールドマン・サックスから年間60万ドル(約7千万円)の講演料を受け取っていたと指摘し、反論を試みる。
サンダース氏は最低賃金引き上げや大学授業料無償化など、社会的弱者や中間層に焦点を当てた政策を訴え、若者やリベラル層で人気が高い。「政治革命を起こさない限り、何も変わらない」と変化を訴えた。【1月19日 朝日】
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クリントン前国務長官も、アイオワ、ニューハンプシャーの初戦で躓くと、2008年の悪夢がよみがえってきます。
アイオワ州の地元紙デモイン・レジスターの世論調査によると、党員集会の参加予定者の43%が自らを「社会主義者」と答え、38%の「資本主義者」を上回ったとか。【1月18日 時事より】
“社会主義”嫌いのアメリカとは思えない数字です。
****銃規制めぐり激論=民主が第4回討論会―米大統領選****
(サンダース氏追い上げの)要因の一つは、格差是正を前面に掲げ、公立大学の授業料無料化などを唱えるサンダース氏の訴えが、若者に響いていることだ。
米ニューヨーク・タイムズ紙らが今月上旬に行った世論調査によると、45歳以下の有権者に限るとサンダース氏の支持率はクリントン氏の約2倍。
金融危機に伴う就職難や重い学生ローンに直面し、経済格差を実感している若年層がサンダース氏の支持層の中心とみられる。【1月18日 時事】
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“国際援助団体オックスファムは18日公表の報告書「1%のための経済」で、世界で最も裕福な62人の資産の総額が、世界の人口の半数を占める最貧層36億人分の総資産と同額に達していると独自の推計を公表した。オックスファムは「驚くべき富の集中だ」と批判。貧富の差解消に向け行動するよう各国指導者に呼び掛けた。”【1月18日 時事】という世相を反映したものとも思えます。
共和党のトランプ氏にしても、民主党のサンダース上院議員にしても、既成政治の枠外にあって、非常に単純化した極端な主張が多くの有権者に受け入れられていると言う点で、欧州におけるイタリアの五つ星運動、ギリシャの急進左派連合(SYRIZA)、フランスの国民戦線、スペインの左派新政党「ポデモス」などと共通した現象にも思えます。
民主主義のひとつの流れでしょうか。
ひょっとするとアメリカ大統領選挙は、トランプ氏対サンダース上院議員という、1年前には想像できなかった組み合わせになる可能性も。