孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア・NATOのミサイル防衛・核兵器をめぐるせめぎあい 冷戦時代より米ロ核戦争の危険増大?

2016-01-02 22:29:35 | ロシア

(拡大するNATO 赤色は当初の参加国 黄褐色はその後加盟した国々 【1月2日 CNN】)

【「NATOでロシアの包囲網を作ろうとしている」】
ロシア・プーチン大統領がNATOの拡大に極めて強い警戒心を持っており、ウクライナ問題などロシアの行動の根底にNATOへの対抗ということがあることは、これまでも折に触れ取り上げてきたところです。

従って、下記のロシアの「新たな安全保障戦略」も、これまでの路線の踏襲にも思え、“今更”の感もあります。

****NATO拡大は「脅威」 プーチン大統領が新戦略を承認****
ロシアのプーチン大統領は2日までに、北大西洋条約機構(NATO)の拡大を自国にとっての脅威と位置づける新たな安全保障戦略を承認した。

この文書は、ロシアの国益と戦略面での優先順位について概括したもので、プーチン氏は12月31日に大統領令に署名。2014年に始まったウクライナ危機以来、ロシアとの関係が悪化していたNATOに対し、新たな姿勢を打ち出した。

ロシアのタス通信によれば、この戦略ではNATOの軍備増強について言及。「NATOのロシア国境への接近」はロシアの安全保障にとって脅威だとしたほか、NATOは違法に勢力を拡大しているとも述べた。

ロシアの国内外での行動が、米国をはじめとするNATO各国からの「対抗的な動き」を誘発したとも指摘。「ロシアが独自に行っている国内外での政策が、世界情勢における覇権の維持を狙う米国やその同盟国の対抗的な動きを引き起こした」としている。

NATOの当局者はCNNに対し、今回の戦略を精査すると述べる一方、NATOとその方針がロシアに安全保障上の脅威を与えているとの主張については完全に否定。

「NATOの拡大は、いかなる国への対抗ではない。各主権国はあらゆる条約や同盟に加わることを自ら選ぶ権利を持っている。これはロシアも同意してきた欧州安全保障の根本的な原則で、ロシアはこれを尊重しなければならない」と述べた。

NATOは1949年に12カ国の参加によって誕生。現在の加盟国は28カ国。最近では2009年にアルバニアとクロアチアが新たに加盟していた。【1月2日 CNN】
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プーチン大統領は、信頼する森元首相にNATOへの不信感・警戒心を自ら語ったことがあります。

****プーチンの実像)第1部・KGBの影:5 「なぜ包囲網敷く」漏らした不信感****
プーチンはソ連崩壊まで16年間に及ぶKGB時代、北大西洋条約機構(NATO)を「主たる敵」とする仕事をしてきた。

それから約9年後の2000年9月、プーチンはロシア大統領として、日本を公式訪問した。当時首相だった森喜朗は、元赤坂の迎賓館で朝食を共にしながらプーチンから聞かされた話を今でもはっきりと覚えている。

この年、森がプーチンとじっくり話す機会はすでに3回目。4月にはロシアのサンクトペテルブルクを訪ね、大統領就任直前のプーチンと丸一日共に過ごした。

7月には主要8カ国(G8)首脳会議の議長として沖縄でプーチンを迎えた。二人の間には打ち解けた雰囲気ができていた。

「いいか、ヨシ」と、プーチンは語りかけた。
「ロシアは、自由と民主主義、法の支配という価値観を米国や日本と同じにした。これは決して簡単なことではなかったんだ」

「ところが欧州はどうだ」と、プーチンは顔を曇らせた。「相も変わらずNATOでロシアの包囲網を作ろうとしている」
「ソ連は冷戦が終わってロシアに変わったときに、ソ連の中の共和国を全部解放した。東欧の国々もみな解放した。彼らは自由になった。それは、良かったと思う。彼らはEU(欧州連合)に入るという。それも構わない。経済は大事なことだろう」

「だが、なぜNATOに入るのか。米国と一体になって包囲網を敷く。軍事同盟じゃないか。そんなことのために自由にしたわけじゃないんだ」

そこまで言い切った後、プーチンははっと気づいたように言葉を継いだという。
「という連中が、我が国には多いんだよ」

欧米のロシア「包囲網」へのプーチンの不信感は、今のウクライナ問題につながっている。森は当時を振り返ってそう感じている。【2015年4月3日 朝日】
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MD配備に関して「ロシアは核抑止力を強化する必要な対抗措置を講じる」】
具体的な戦術配備の問題としては、アメリカ主導で進む欧州のミサイル防衛計画にロシアは自国を標的にしたものとして一貫して激しく反発しています。

NATOは2010年のリスボン首脳会議で、アメリカのMD(ミサイル防衛)を欧州に展開する形で弾道ミサイル防衛網を確立することで合意。

2011年に“トルコ、オランダにレーダー施設建設、ルーマニア、ポーランドに迎撃ミサイル設備建設、米イージス艦4隻のスペインの母港化”が決まり、2012年にはドイツに指令施設が設置され、初期運営能力の獲得宣言がなされています。

北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルへの対処やロシアの反発もあって、2013年3月にはMD計画の第4段階が凍結されましたが、2013年10月にはルーマニアでのミサイル施設建設が着工されています。

アメリカは欧州MDシステムについては、イランの中距離弾道ミサイルへの対抗策であり、ロシアの大陸間弾道ミサイル(ICBM)を想定したシステムではないと強調しています。

ロシアは、イランの核開発問題が解決されれば、「NATOは欧州にミサイル防衛(MD)システムをつくる理由がなくなる」(2013年12月 ラブロフ外相)と主張しています。

2014年4月からは海上発射型SM-3ブロック1Bを搭載したイージス艦が配備されています。

2015年3月には、ロシアの駐デンマーク大使が、デンマークがNATOのミサイル防衛(MD)計画に加われば、デンマークの海軍艦船がロシアの核ミサイルの標的となる可能性があるとの考えを明らかにして物議を醸したこともあります。

****米MDに対抗措置=イラン・北朝鮮の脅威は「口実」―ロシア大統領****
ロシアのプーチン大統領は10日、米国が進めるミサイル防衛(MD)配備に関して「ロシアは核抑止力を強化する必要な対抗措置を講じる」と警告した。

その上で、米国が強調する「イランや北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威」は、ロシアの核抑止力を無力化する口実にすぎないと主張した。

軍需産業に関する会議の発言として、インタファクス通信が伝えた。大統領は過激派組織「イスラム国」掃討名目のシリア空爆や巡航ミサイル攻撃の成果を受け、ロシアの軍事力に自信を一層深めているとみられる。

プーチン大統領は、米国主導のMDに言及する中で「ロシアは自らの迎撃態勢はもちろん、第一に相手のあらゆるミサイル防衛を突破する攻撃態勢を整える」と宣言。

該当する兵器は既に配備が始まっていると述べた。欧米が警戒する新型巡航ミサイル発射システム「イスカンデルK」を指している可能性がある。【2015年11月11日 時事】 
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【「ウクライナ危機で核兵器を準備した」】
ロシア・プーチン大統領はNATOと対峙する姿勢をとるなかで、NATOとの対決の最前線と位置付けるウクライナ問題に関し、昨年3月には「ウクライナ危機で核兵器を準備した」と発言して世界を驚かせました。

****<ロシア>露大統領「ウクライナ危機で核兵器を準備した」****
ロシアのプーチン大統領は15日に国営テレビで放映された特別番組で、1年前のウクライナ危機の際、ウクライナを支援する北大西洋条約機構(NATO)との全面対決という事態に備え、「核兵器を準備していた」と語った。

昨年2月にウクライナで親露派のヤヌコビッチ政権が親欧米派の抗議行動で崩壊すると、プーチン氏は「欧米の仕業」と判断。

ロシア黒海艦隊の基地があり、ロシア系住民が多いクリミアの奪取を直ちに指示し、現地に軍を投入した。プーチン氏は、「私が個人的に決断した」と述べ、トップダウンでクリミアの編入を進めたことを明らかにした。

その際、「核の準備態勢」を取っていたことも明かした。「我々は(核戦争の危機に)突き進もうと考えていたのではなく、そうせざるを得なかった」と述べ、NATO側に原因があったとの考えを示した。【2015年3月15日 毎日】
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****核拡散リスク高まる懸念****
・・・・「使える核」としてロシアが保有しているのが、推定約2千発とされる戦術核だ。射程500キロ以下の核ミサイルや核爆弾などで、大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの戦略核が「抑止力」と位置づけられるのと違い、実際に戦場で使うことが想定されている。

欧州では、米国が、ドイツやベルギーなど、北大西洋条約機構(NATO)加盟国内に計約200発の戦術核を配備しているとされる。一方、これに対するロシアの戦術核は約2千発。圧倒的な優位にある。

ウクライナとの対立は、正規軍の大規模衝突ではなかった。その段階ですでに、核を「臨戦態勢に置く用意があった」と最高指導者が口にすることは、核使用への障壁を格段に下げかねない。(後略)【2015年3月17日 朝日】
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さすがにプチーン大統領も、核兵器を振りかざすような姿勢については修正しています。

****<ロシア>プーチン大統領「核のこん棒振り回すつもりない****
ロシアのプーチン大統領は20日放送された国営テレビのインタビュー番組で自国の核兵器について「安全保障の要素として改良し続けるが、『核のこん棒』を振り回すつもりはない」と述べ、抑制的な姿勢を示した。

昨年3月の一方的なクリミア編入後、核の力を誇示する発言を続けていたが、若干トーンを落ち着かせた形だ。【2015年12月20日 毎日】
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ミスによって核戦争に発展する可能性
米ロ指導者が「熟慮」したうえで核のボタンを押すような事態は先ず考えにくいところですが、米ロ核戦争の危険は冷戦時代より高まっているとの指摘があります。

核兵器が「最先端」ではなくなり、核戦争が非現実的と思われるようになった結果、設備も人的資源も「二線級」に委ねらるような状況になっており、「ミス」によって核戦争が始まる危険性が逆に増しているとの指摘です。

****にわかに危険度の増す米ロ核戦争、発端は間違い****
先端技術でなくなり、二線級に任されている核管理

米国とロシアによる偶発的な核戦争の可能性が捨てきれない――。
年末になって、とんでもない言説が核兵器の米専門家から出されている。米ロによる冷戦時代が終わってからすでに25年以上が経っている。それなのに、なぜいま両大国による核戦争というフレーズが使われるのか。

しかも「可能性はある」と聞き捨てならない表現である。言説は偏執的な軍事専門家から出されたものではなく、著名な米大学の研究者によるものである。
1人はマサチューセッツ工科大学(MIT)で物理学と国際安全保障問題を研究するセオドア・ポストル教授だ。

冷戦時より高い危険度
原子物理学の専門家で、アルゴン国立研究所や国防総省(ペンタゴン)での勤務経験もあるミサイル防衛(MD)問題の第一人者である。筆者も以前、MITの研究室でインタビューしたことがある。

もう1人はプリンストン大学にある世界安全保障研究所のブルース・ブレア所長。
米空軍で大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射管理を担当していた経験もある研究者で、米ロの安全保障問題の専門家だ。同所長はウクライナ紛争以降、ロシアが核兵器への依存度を高めており、冷戦中にも見られなかった核兵器による威嚇を注視している。

両氏が米ロによる核戦争の可能性は捨てきれないと発言しているのだ。
ブレア所長は「冷戦時代よりも今の方が危険」とさえ言う。核兵器管理の現状を把握している両氏だけに、現状を煽っているわけではない。

むしろ、むやみに危機感を増幅させるべきではないとの立場だ。しかし、政治判断や人為的なミスによって核戦争に発展する可能性があると警鐘を鳴らしている。

ポストル教授は米メディアとのインタビューで、米ロの判断次第では危機的な状況に陥ることもあると述べている。
「両国は核の抑止力を十分過ぎるほど理解しています。それでも核戦争につながる可能性はあるのです。その1つが内的な要因です。両国のトップに届く情報が不正確だと、危険度の高い政治判断が下される場合があります。情報はいつも正確とは限りませんから」

それだけではない。もっと深刻な問題は核弾頭を管理する優秀な人材が不足していることだという。
冷戦時代に核開発や管理をしていた専門家の多くは退職の年代に達している。さらに旧ソ連が瓦解した時点で、核戦争というものが過去の幻想のような存在になり、優秀な若者は核開発や管理の分野に興味を示さなくなった。

古いコンピューターで核を管理
ポストル教授はそこに大きな問題が潜んでいると指摘する。
「冷戦が終わったことで、米国の核兵器研究は大きな転機を迎えたのです。かつては時代の先端を行く学問でしたが、いまや有能な学生は目を向けない分野になりました。同分野の若い研究者たちから強い学究的な意欲を感じることは稀ですし、能力という点からも疑問符がつきます」

さらにペンタゴン内で、核弾頭を管理するシステムが近代化されていないという。
核兵器の管理は重視されず、多額の予算も割かれないため、古いコンピューターがそのまま使われている。いくつかのミスが重なることで、偶発的に核ミサイルが発射されることが起こりうるというのだ。

ブルース・ブレア所長も人為的なミスによる事故を憂慮する。特にウラジーミル・プーチン大統領が核兵器への依存度を強めている点に着目している。

特にウクライナ紛争以降、米国を含めた北太平洋条約機構(NATO)とロシア軍との軍事力の差が明らかになり、プーチン大統領は通常兵器では敵わないと判断するやいなや、核兵器を警戒態勢の中に組み込んできたという。

軍事演習の中に核戦力を加えたほどで、ロシア政府は今後5年で地上配備型の核弾頭搭載弾道ミサイルを一新すると発表した。

ブレア所長はさらに危険な点を米「ポリティコ」誌で指摘している。
「信じられないかもしれませんが、核ミサイル発射の決定から実行までの時間が冷戦時代よりも格段に短縮されています。しかも、ロシア軍の核ミサイル担当司令官の命令だけで核ミサイルを発射できるのです。リモートコントロールされたミサイルを発射するのに、今や20秒しかかかりません」

冷戦時代であれば、核ミサイルを発射するためにはいくつものロックを解除する必要があった。だがミサイル発射は容易に、短時間で進められる。同教授は1つのシミュレーションを紹介する。

「仮想敵国が米国に向けてミサイルを発射したという警告(不正確なものも含む)があると、米軍は3分間での状況分析を迫られます。本物のミサイルと判断されると、米大統領は30秒間で内容説明を受け、直後に政治判断を迫られます。時間にすると3分から6分。複数の選択肢が与えられ、その中から選ばなくはいけません」

もしどこかの国が発射ボタンを押せば・・・
実は不正確なミサイル発射の警告は頻繁にレーダーで察知されている。これまではすべてニセ警告だったが、人為的ミスや事故により、本物の核ミサイルが他国に発射される可能性は捨てきれない。

最前線を知る2人の専門家が述べるのだから現実味がある。ポステル教授は「仮に」という条件をつけたうえで、米ロ両国どちらかが核兵器発射のボタンを押してしまうと、約30分で両国は破滅的な結果を招くと言う。

同教授は日本の立場についても言及する。
「核兵器はどの国が所有するかで大きく違ってきます。もし私が日本人ならば核兵器は所有しません。日本は今でも米国の『核の傘』の下にあるため、必要ないからです。もし核武装をしてしまうと、中国の核兵器の標的になるばかりか、韓国を刺激して東アジアの安全保障バランスが崩れてしまいます」

オバマ大統領は2009年4月、チェコのプラハで核兵器廃絶宣言をした。その宣言が起因して同大統領はノーベル平和賞を受賞したが、ロシアとの戦略兵器削減交渉(新START)は2011年2月に発効したものの、新たな削減交渉は停滞したままだ。

冷戦が終わったことで、多くの方は核戦争の危険は去ったと思われているかもしれない。だが、実際は目に見えないところで核ミサイル発射のスイッチが押される危険性があることだけは心に留めておくべきだろう。

2016年は福島の原発事故が起きて5年目を迎える。原発事故だけでなく、核ミサイルの人為的なミスが起こらないことを祈りたい。【2016年1月1日 堀田 佳男氏 JB Press】
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正月早々、物騒な話ではありますが、何事につけ人為的なミスは起きます。核兵器絡みの事故もこれまでも起きています。

最先端ではなくなり、危機感も薄れている状況で、ミスによって・・・というのは、なかなか説得的です。

これまで大事に至らなかったのは「幸運」だっただけであり、今後も「幸運」が続く保証はない・・・と考えるべきなのでしょう。
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