
(左は従来の香港行政長官と習近平国家主席 右は昨年12月23日の会談 随分とわかりやすい中国側の意思表示です。【2015年12月24日 J-News】
【「雨傘運動」後の無力感】
香港で、行政長官「普通選挙」を求めて若者らが幹線道路を占拠した、いわゆる「雨傘運動」が起きたのが一昨年9月でした。
一般市民も加わり、2カ月半にわたり最大20万人以上【2015年9月26日 産経】が香港中心部を占拠しましたが、中国や香港当局から何ら譲歩を得られぬまま、昨年末に強制排除されました。
その後、学生団体などは抗議行動の強化を訴える急進派と、中国側との対話を継続すべきだとする穏健派に分裂、若者らの政治への関心も薄れていると言われています。
****漂う無力感、薄れる関心=道路占拠から1年―香港****
香港で行政長官の選挙制度民主化を求めるデモ隊が中心部の幹線道路占拠を始めてから28日で1年。中国の決定に基づく選挙制度改革案は立法会(議会)で否決され、香港政府、民主派ともにこう着状態が続く。
市民の関心が薄れる中、当時の参加者の間には「何の成果も得られなかった」との無力感が漂っている。
道路占拠運動は、行政長官「普通選挙」から民主派を事実上締め出す中国の決定に反発する学生団体などを中心に始まった。一時は約10万人にまで膨れ上がったものの、「真の普通選挙」を求めるデモ隊の要求は受け入れられず、昨年12月15日、警察の強制排除で終結した。
香港政府は選挙制度改革案を立法会に提出したが、立法会は今年6月に改革案を否決。2017年の次回長官選はこれまでと同様、各界代表による間接選挙で行われる。間接選挙では親中派の当選が確実視される。
79日間の道路占拠でも中国や香港政府の譲歩を全く引き出せなかったことに対し、市民の間では「運動は失敗だった」(20代の女性大学職員)との見方が強い。
「社会に深刻な亀裂が生じた」(30代の男性会社員)、「社会が分断された」(50代の女性会計士)など、道路占拠を機に深まった住民間の溝を懸念する声も聞かれた。
1997年の香港返還に当たって中国が確約した「一国二制度」に対する信頼も揺らいでいる。デモに参加した元小学校教員の丘紹光氏(72)は「中国による締め付けが厳しくなった。一国二制度は既に形骸化していたが、それが表面化した」と中国への警戒感を隠さない。
一方、長官選をめぐる市民の関心は低下傾向にある。20代の男性会社員は「政府への期待や要求は全くない」と言い切る。香港大学が6月下旬〜7月上旬に行った世論調査では、政治問題に対する関心度は占拠前の水準に戻った。【2015年09月27日 時事】
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【形骸化が進む「一国二制度」】
中国政府には「一国二制度」の形骸化を進める動きも見られます。
****香港の三権分立否定=中国出先トップが発言****
中国政府の香港出先機関である連絡弁公室の張暁明主任は12日、香港政府トップの行政長官の地位について「中央政府の下にあり、(香港の)三権の上にある」と述べ、香港の三権分立を否定した。民主派を中心に反発の声が上がっている。
地元の報道によると、張主任は香港基本法(憲法に相当)に関する討論会で「香港は中国返還に当たり、中央政府直轄の下で行政長官を中核とする行政主導の政治体制になった」と指摘。「行政長官の権力は、行政・立法・司法の各機関の上で特殊な法的地位を持っている」と主張した。
民主派はこれに強く反発。民主党は「一国二制度」や「高度な自治」の原則に反するのはもちろん「基本法に違反している」と批判した。張主任に発言の即時撤回を求めている。【2015年9月12日 時事】
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「一国二制度」とは言え、「一国」が「二制度」に優先するというのが中国側の考えです。
香港が中国と言う主権国家の枠内に置かれている以上、中国の主張は当然とも言えるものがあり、「一国二制度」によって中国の影響を排除できると考えるのは幻想に近いものがあるようにも思えます。
なお、「一国二制度」については以下のように説明されています。
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1997年のイギリスから中華人民共和国への返還の際、中華人民共和国当局は「香港返還後50年間政治体制を変更しない」ことを確約した(一国二制度)。
それにより、特別行政区が設置され、ミニ憲法である香港特別行政区基本法の下、高度な自治権を有する。死刑制度も存在しない。
ただし、外交と軍事は中央政府の管轄であり、外交部駐香港専員公署と人民解放軍駐香港部隊が設置・派遣されている。香港には中国共産党の組織は表向き存在しないことになっている。【ウィキペディア】
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「雨傘運動」後の無力感、民主派の分裂などから、民主派の退潮も懸念された昨年11月の区議会選挙でしたが、なんとか民主派が踏みとどまる結果となりました。
****香港、デモ参加の若者ら当選 区議選で民主派盛り返す****
香港の地方選にあたる区議会選挙が22日投開票され、23日に結果が確定した。中国側が示した行政長官の選挙制度改革案に反対した昨年秋の大規模な民主化デモ後、香港全域での選挙は初めて。
過去2回続けて大敗していた民主派が議席を盛り返し、退潮傾向に歯止めがかかった。
主要紙・明報によると、親政府、親中国政府の「建制派」は198議席を獲得し、引き続き優勢を保ったものの、民主派は前回の85議席から21増の106議席に拡大。
「雨傘運動」と呼ばれたデモに参加し、「傘兵」と名付けられた若者ら55人も立候補し、8人が当選した。
区議選は4年に1度、18ある区の議会議員を選ぶ直接選挙で、431議席のうち無投票をのぞく363議席を867人で争った。投票率は過去最高の47%に達し、民主化デモを受けて政治への関心が高まっていることを示した。
選挙制度改革法案は立法会(議会)で民主派が反対し、今年6月にいったん廃案となった。今後は来年秋に予定される立法会選挙で、民主派が勢力をさらに伸ばせるかが焦点になりそうだ。【2015年11月23日 朝日】
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しかし、「雨傘運動」に懲りたと思われる中国側の姿勢は頑なさを強めています。
中国側の意図を象徴的に示したのが、昨年末に行われた習近平国家主席と香港トップの梁振英行政長官との会談における「席」の配置でした。
****中国 習主席と香港長官との会談で形式格下げ****
中国の習近平国家主席は23日、香港トップの梁振英行政長官と会談しましたが、これまで首脳会談に準じていた会談の形式が格下げされ、香港はあくまでも中国の一部だとして民主派をけん制したものとみられています。
中国の習近平国家主席は23日、恒例の職務報告のため北京を訪問した香港トップの梁振英行政長官と会談しました。
この中で習主席は、「ここ数年、香港の『1国2制度』に新たな状況が生じている。中央政府は『1国2制度』を揺るがせないことと、元の形を失わせないことの2点を強調したい」と述べました。
両者の会談は、これまで首脳会談に準じて、横に並んで座るか長いテーブルをはさんで向かい合って座る形で行われていましたが、23日の会談では習主席が上座につき、梁長官の席は中国側の陪席者と並ぶ形で格下げされました。
これについて国営の通信社は、中国政府当局者の話として「席の配置がえによって、憲法や香港基本法で定めている中央政府と香港の関係がよりよく体現された」と伝えました。
香港では去年、民主的な選挙を求める学生などが2か月余りにわたって中心部の幹線道路に座り込んで抗議活動を行うという事態が起きており、習主席の発言と会談の形式の格下げは、香港はあくまでも中国の一部だとして民主派をけん制したものとみられています。【2015年12月24日 NHK】
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【中国共産党に批判的な本を取り扱う書店の関係者が相次ぎ行方不明】
また、昨年10月以降、香港で中国政府に批判的な本を扱う書店の関係者が滞在先のタイや広東省で相次いで行方不明となっており、中国当局に拘束されたとの見方が出ています。
****香港の書店関係者5人、相次ぎ失踪 中国批判が影響か****
香港で中国政府に批判的な本を扱う書店の関係者が相次いで行方不明になり、警察が捜査に乗り出している。一部で中国当局に拘束されたとの見方が出ており、抗議デモも起きている。
香港で先月30日、中国政府を批判する内容の本を販売することで知られる書店の大株主である男性(65)の行方が分からなくなったと警察に通報があった。同書店やその親会社である出版社の関係者が行方不明となるのはこの男性で5人目だ。
男性の妻がCNNの系列局に語ったところによると、男性は行方不明になった後、妻に短い電話をかけていた。その際の電話番号は香港に隣接する中国本土の深センのもののようだったという。
香港で民主派の政治家として活動するアルバート・ホー氏はCNNに対し、上記の出版社が中国の習近平(シーチンピン)国家主席の過去の「女性関係」に関する書籍の出版を計画していたと説明。今回失踪した男性は強制的に中国本土に連れ去られたのではないかとの見方を示す。
今回の失踪事件を受け、香港では域内の法の支配に対する懸念が高まりつつある。3日には香港にある中国政府の出先機関の前で抗議デモが行われた。
香港自治政府トップの梁振英行政長官は4日までに、失踪者らが中国本土へ連れ去られたことを示す形跡はないと明言。香港における法的権限は、同地域の法執行機関にのみ帰属するとも強調した。
一方、中国外務省の報道官は、定例記者会見で、事件についていかなる情報も持っていないと述べた。【1月4日 CNN】
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行方がわからない5人のうち1人が英国パスポート所有者であることから、イギリスもこの問題に関心を表明しています。
****書店関係者不明 英外相「香港で裁くべき」****
・・・・この問題に関連して、北京を訪れているイギリスのハモンド外相は5日、王毅外相と会談したあと、「関係者が何かの罪に問われるのならば香港の中で裁かれることを望む」と述べ、香港で問題があれば、中国本土ではなく香港の司法制度の下で裁くべきだという立場を示しました。
また北京のイギリス大使館も会談に合わせて、「中国当局が香港の出版業界の環境を保障するよう努力することを望む」とする声明を発表しました。
これに対し王外相は、中国当局が拘束したかどうかは言及しなかったものの、「関係者は第1に中国国民だ。無意味な推測をする必要はない」と述べ、イギリスがこの問題に干渉しないようけん制しました。【1月6日 NHK】
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香港でも市民による抗議が行われています。
****批判的な本扱う書店の関係者不明 数千人が抗議 香港****
香港で、中国共産党に批判的な本を取り扱う書店の関係者が行方不明になったことを受けて10日、数千人の市民が、中国当局に拘束されていると主張して抗議活動を行いました。
これは中国共産党に批判的な本を数多く取り扱う書店の店長や親会社の社長ら5人が、去年10月から相次いで行方不明になっているもので、香港メディアは中国当局が関与しているのではないかと大きく報じています。
こうしたなか香港では10日、主催団体の発表でおよそ6000人の市民が「香港の言論の自由を守れ」などと叫びながら、中国政府の出先機関の建物まで抗議のデモ行進を行いました。
デモの参加者は、5人は中国当局に拘束されていると主張して即時の釈放を求め、参加した男子学生は「中国政府がこのようなやり方で香港での本の出版を禁じようというのは、不合理、不公正で、憤りを覚える」と話していました。
地元のメディアによりますと、書店の親会社の株主の男性は先月30日に香港で行方が分からなくなり、その後、妻に対し香港に隣接する広東省の電話番号で「調査に協力する必要がある」とする電話があったということです。
この問題について、中国の王毅外相は「無意味な推測をする必要はない」と述べているほか、香港政府の問い合わせに対して中国政府からの回答はないということですが、1国2制度の下言論の自由がある香港で起きただけに、真相を求める声が広がっています。【1月10日 NHK】
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中国がウイグル、チベットなど国内で統制管理を強め、国際的にもその存在を誇示することが顕著になった昨今の中国の言動を考えれば、今後、中国による香港管理は強まることはあっても緩和されることはなさそうです。
残念ながら、中国の習近平国家主席の過去の「女性関係」に関する書籍の出版が、「一国二制度」によって許されるなどと考えるのは幻想でしょう。