孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  ジャカルタ中心部で爆破テロ イスラム原理主義台頭の土壌も

2016-01-14 22:38:30 | 東南アジア

【1月14日 AFP】

パリ同時テロ、イスタンブールに続いて、ジャカルタでも
12日にはトルコ最大都市イスタンブール中心部で自爆テロが起き、ドイツ人観光客ら10人が犠牲となりました。トルコ政府は、シリアから難民として入国した過激派組織「イスラム国」(IS)戦闘員による犯行と断定しています。ただ、首相は「ISは仲介組織として使われた」とも述べ、背後に別のテロ組織が存在する可能性も示唆しています。

そして14日には、インドネシア首都ジャカルタで。

****ジャカルタで爆発、20人超死傷 IS支持者のテロか****
インドネシアの首都ジャカルタ中心部で14日午前、男数人が爆弾を爆破させ、警察と銃撃戦になった。

インドネシア警察によると、巻き込まれたカナダ人男性1人とインドネシア人男性1人が死亡し、20人が負傷した。実行犯とみられる5人も死亡した。警察は、過激派組織「イスラム国」(IS)の支持者によるテロの可能性があるとみて捜査している。

現場はジャカルタ中心部のタムリン通り沿いにあるサリナ・ショッピングセンター前。ビジネスマンや買い物客でにぎわう場所で、日系企業の事務所も多い。

警察によると、実行犯の男5人のうち2人は、ショッピングセンター前にある警察の駐在所と、通りを挟んだ隣のオフィスビル1階にあるカフェ「スターバックス」前で手投げ弾2発を爆発させた後に死亡した。自爆した可能性がある。別の3人は駆けつけた警察との銃撃戦で射殺された。【1月14日 朝日】
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経済面での手腕が期待されているジョコ大統領にとって、成長の前提となる治安が揺らぐことは大きな打撃となります。

世界最大の約2億人ものイスラム教徒人口を抱えるイスラム国家インドネシアですが、イスラム過激派が伸長する背景として、世俗主義的な現体制への不満も指摘されています。

****<ジャカルタ爆発>ジョコ大統領「治安不安定へのテロ行為*****
 ◇経済の発展に、欠かせぬ治安の安定
インドネシアのジャカルタで14日起きた爆破テロは近年、過激派の取り締まりが進み、安全と思われていた首都にも危険が迫っていることをまざまざと見せつけた。

経済の発展に治安の安定は欠かせず、2014年10月に就任したジョコ大統領の政権運営にも痛手となりそうだ。

「明らかに治安を不安定にするテロ行為だ。警察の捜査が進展するまで臆測で語るのは控えてほしい」。事件直後、記者に囲まれたジョコ大統領はこう語り、厳しい表情でいらだちを隠さなかった。

インドネシアでは軍隊出身のユドヨノ前大統領が14年までの2期10年で過激派の取り締まりを強化。東南アジアでのイスラム国家樹立を主張し、バリ島やジャカルタで自爆テロを実行したイスラム過激派「ジェマ・イスラミア」(JI)の幹部らを逮捕するなどした。

同時に治安の安定をバックに年率6%前後の経済成長を実現。実業家出身で「経済」が看板のジョコ大統領にとっても、治安の維持が大前提である。

インドネシアのテロ対策専門家、マルディグ・ウォウイク氏は「今回は治安機関が未然に防げなかった上に、テロ発生直後の避難誘導も不十分だった。もっと努力が必要だ」と厳しい。

ジョコ大統領が治安対策で重点的に取り組むのが、スラウェシ島で今も武装闘争を続ける「東インドネシアのムジャヒディン」(MIT)の指導者、サントソ容疑者の逮捕だ。

しかし、度々軍隊を投入しても成果は上がっていない。サントソ容疑者は14年に過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓い、昨年11月にはインターネット上にビデオ声明を公表し、大統領宮殿やジャカルタ警視庁の襲撃を呼びかけるなど挑発を続ける。

今回の事件の背後関係は不明だが、警察官詰め所を狙った手口から、サントソ容疑者の関与を指摘する見方もある。

一方、インドネシアでイスラム過激派が伸長する背景にあるのは、現体制への不満だ。

インドネシアは人口の9割がイスラム教徒だが、1945年の独立以降、政治や法律に宗教を持ち込まない「世俗主義」を国是としている。1万3000以上の島々で構成される多民族国家で、イスラム教を優先すれば国の統一を保つのが難しいためだ。

しかし、イスラム強硬派にはそれが「堕落」と映る。イスラム法に基づく統治を掲げる中東のISが魅力的な存在に映り、これまでに800人が中東に渡り「参戦」しているとの推計もある。

既にインドネシアに帰国している戦闘員もおり、治安当局は中東で実戦経験を積んだテロリストの「逆輸入」に警戒を強めている。【1月14日 毎日】
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【「同様の事件は東南アジアでも起こり得る。テロに免疫のある国はない」】
インドネシアとISとのかかわりについては、昨年11月時点で以下のように報じられ、その問題が指摘されていました。

****インドネシアから「イスラム国」へ700人****
インドネシアのルフット・パンジャイタン政治・法務・治安調整相は20日、マレーシアで読売新聞と会見し、インドネシアから約700人がイスラム過激派組織「イスラム国」の戦闘員として中東に渡ったと明かした。

パンジャイタン氏は政府のテロ対策の責任者。パリ同時テロを受け、「同様の事件は東南アジアでも起こり得る。テロに免疫のある国はない」と述べ、「イスラム国」の脅威に国際社会が一致して対応する必要性を訴えた。

インドネシアは世界最大の約2億人のイスラム人口を抱え、過激派対策が課題となっている。

パンジャイタン氏は「『イスラム国』は宗教を道具にしている。我々共通の敵だ」と批判。「イスラム国」に連動したテロに備え、東南アジア諸国連合(ASEAN)の情報共有強化が必要と指摘した。【2015年11月22日 読売】
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また、年末年始のテロ計画も報じられていますが、昨年8月のタイ・バンコクの爆弾テロとの関連も指摘されています。

****テロ計画、ウイグル族ら逮捕=ISの関連捜査―インドネシア*****
インドネシア警察幹部は25日、年末年始に自爆テロを計画したとして中国の少数民族ウイグル族とみられる男を含む2人を逮捕したことを明らかにした。警察は過激派組織「イスラム国」(IS)との関係についても調べている。

ウイグル族とみられる男がいた西ジャワ州の拠点からは爆弾の材料や自爆用のベストなどが押収された。

英字メディア、ジャカルタ・グローブは警察関係者の話として、男が今年8月に起きたタイの首都バンコクの爆弾テロに関与した可能性についても捜査していると伝えた。【2015年12月25日 時事】 
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【「ジェマ・イスラミア」は弱体化したものの、小規模テロが拡散】
インドネシアのテロ事件と言えば、世界有数の観光地・バリ島南部の繁華街クタで、路上に止めてあった自動車爆弾が爆発、向かいのディスコなど多くの建物が吹き飛んで炎上し、外国人観光客を含む202名が死亡した「2002年バリ島爆弾テロ事件」、一連の爆弾テロを実行したとされるイスラム過激派「ジェマ・イスラミア」がすぐに連想されます。

2013年1月24日ブログ“インドネシア ポスト中国「東南アジアの時代」をリード 労働争議、イスラム主義などの問題も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130124でも取り上げたように、「ジェマ・イスラミア」は厳しい掃討作戦で弱体化したものの、その分派・残党による小規模テロが拡散しています。

****インドネシア:小規模テロ頻発 警察やキリスト教会標的に*****
10年前のバリ島爆弾テロ事件以来、毎年のように大規模無差別テロが続いたインドネシアで、イスラム武装組織による小規模テロが頻発している。

標的は警察やキリスト教会で、テロ事件を専門とする弁護士は「復讐(ふくしゅう)が新たな目的」と指摘する。過去にイスラム教徒とキリスト教徒の衝突が起きた地域では宗教紛争を再燃させようという動きもある。

90年代末にイスラム教徒とキリスト教徒の大規模な武力衝突が起きた中スラウェシ州ポソでは9月以降、警官襲撃や教会放火が相次ぎ、7日には警察がテロ組織の訓練基地と見られる施設を摘発。15日には地元警察署長の自宅が銃撃を受けた。(中略)

02年以降の一連の大規模テロを主導したイスラム地下組織ジェマ・イスラミア(JI)は、イスラム国家建設という理想を掲げ、アフガニスタンやパレスチナでイスラム教徒を弾圧したと主張し、米国や豪州を激しく憎悪した。その結果、米系高級ホテルや豪州大使館、外国人が集まるバリ島の歓楽街を爆弾テロの標的とした。

だが、JIはその後、治安当局による掃討作戦で弱体化。過去10年間に逮捕されたメンバーは800人を超え、約60人が殺害されたとされる。09年7月にジャカルタの米系高級ホテルで起きた爆弾テロ以降、大規模テロにかわって、警察を狙った小規模のテロが続発する。

バリ島爆弾テロの主犯格や、最近の警官襲撃事件の実行犯など100人以上のテロ犯の弁護を担当したアヒヤル弁護士は「聖戦を続けるイスラム過激派の主目標が、警察への復讐と宗教紛争への準備に変わった」と話す。

AP通信も「10年に複数のイスラム過激派の宗教指導者が(テロ対象を)西洋人から国内の標的に変えるよう呼びかけた」と報じており、テロの形態が変化していると見られる。

アヒヤル弁護士は新たな組織の特徴について、JIやその分派組織の残党らが各地で結成▽規模は5人前後の少人数▽自前で爆弾を製造し独自に活動−−と分析。また、JIに近いテロリストが、ポソやアンボンでの宗教紛争に備えて軍事訓練をしていたという。【2012年11月23日 毎日】
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【「不寛容」の拡大
こうしたイスラム過激派によるテロが絶えない背景として、インドネシアにおける大きな流れとしてのイスラム原理主義の拡大があることは、2012年10月1日ブログ「インドネシア パプアの分離独立運動 広がる宗教的不寛容」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121001でも取り上げたところです。

****インドネシア、宗派対立激化 原理主義台頭 薄れる寛容性****
2002年のバリ島爆弾テロから来月で10年となるインドネシアでは、テロの頻発に加え、多数派のイスラム教スンニ派住民による少数派住民への襲撃が相次いでいる。

政府は、世界最大のイスラム教徒を抱える穏健な世俗国家で、宗教の多様性に比較的寛容なこの国に、「原理主義と不寛容」が急速に台頭していると危機感を強めている。

「事件は遺憾だ。宗教に対する寛容性における汚点だ」。ユドヨノ大統領が苦渋の表情で言及した「事件」とは、東ジャワ州マドゥラ島中部のサンパン県で8月26日、暴徒化した500人のスンニ派住民が、少数派のシーア派住民を襲撃した出来事を指す。シーア派住民の2人が死亡、数十人が重軽傷を負い、35軒の家屋が放火されたのだ。

事の発端は、シーア派の生徒数十人が、スンニ派住民に登校を妨害され、小競り合いとなったこと。
だが、根は深そうだ。シーア派団体は、イスラム団体を統括するイスラム指導者会議(MUI)が1月に、シーア派を「異端」とするファトワ(宗教裁定)を出し、これがシーア派への差別を助長させ襲撃の要因になった、と非難している。

ユドヨノ大統領は、あるシーア派指導者の兄と、その弟のスンニ派指導者との「兄弟対立」に起因しているという見解を示した。

だが、標的はシーア派にとどまらない。西ジャワ州ボゴールでは7月、アハマディア派が襲われた。
インドネシアの人口(約2億4千万人)の88%を占めるイスラム教徒のうち、スンニ派は99%と圧倒的で、シーア派は100万~300万人、アハマディア派は50万人ともされる。

ある専門家は「宗教上の寛容性が低下している要因として、宗教の多様性と寛容性を脅威だとみなして拒絶し、正統性を認めない原理主義の高まりにあると指摘できる」と説明する。

一方、テロの企ては枚挙にいとまがない。ミャンマー西部ラカイン州における仏教徒とイスラム教徒との衝突事件にからみ、インドネシア国内の仏教徒を標的にテロを計画した容疑者が逮捕された。

ジャカルタの議会を狙ったテロも発覚し、中ジャワ州ソロを拠点とする若いテロリストが逮捕されている。

こうした動向は、「民主主義の進展に対する反動としての原理主義の台頭」(専門家)という側面が指摘されている。政府は、原理主義の台頭を押さえ込む包括的な対策に乗り出した。【2012年9月13日 産経】
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感情的過剰反応はテロの思うつぼ
インドネシア社会における「不寛容」の拡大、「ジェマ・イスラミア」以来のテロ組織の存在、最近のISへの関与・接近・・・こうしたことを考慮すれば、今回のようなテロ事件が起きたのも、それほど意外でもありません。

ただ、テロの根底には現在の政治・経済・社会体制への不満があり、そうした不満は「格差」という言葉で象徴されるように世界共通の現象となっていますので、イスラム国であろうがなかろうが、あるいはイスラム過激派への軍事的攻撃を行っているかどうかにかかわらず、日本を含めてどこでも起こりうるものでしょう。

そして、自爆を前提とした事件は完全に防止することも困難です。

テロの犠牲者、その遺族・関係者には、非常に失礼な言い方にもなりますが、テロはどこでも、いつでも起こりうるものとして、過剰に反応しずぎないようにすることが必要かと思います。

交通事故で亡くなる方も多数います。運悪く自然災害で亡くなる方も。そして中にはテロに巻き込まれる方も。

もちろん、未然に防ぐための対応、事件後の捜査は冷静・厳正に進める必要があります。
ただ、憎しみの連鎖につながるような感情的対応は、結果としてテロを企てる者の狙いに沿うものともなります。

普段どおりの生活、これまでの生活を崩さないというのが、テロに対する最も強い意思表示でしょう。
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