孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア和平協議  25日開催予定も、調整がつかず「延期」への言及も 米ロの思惑は?

2016-01-22 23:17:13 | 中東情勢

(シリア・イドリブ 飢えに苦しむ人々への支援を呼びかけるデモ 【1月8日 J-News】)

餓死、拉致、虐殺、空爆被害・・・悲惨なシリア情勢
政府軍、IS、各種反政府勢力、クルド人勢力などが入り乱れての内戦が続くシリア情勢は悲惨な状況にあります。

****政府軍包囲の町、食糧難で23人餓死 シリア、400人飢餓****
国連人道問題調整事務所(OCHA)のオブライアン所長は11日、米ニューヨークの国連本部で記者団に対し、シリア政府軍に包囲された首都ダマスカス郊外の町マダヤで、市民約400人が栄養失調などで命の危機にあり、「ただちに退避させる必要がある」と訴えた。

首都から約30キロ北西のマダヤは昨年7月に政府側に包囲され、同10月以降、住民約4万人への食糧などの支援が滞っていた。国際医療NGO「国境なき医師団」によると、これまでに23人が餓死し、うち6人は1歳未満という。

国際的な非難が強まる中、支援物資を積んだトラック49台が11日、シリア政府の同意を受けて現地に入り、米や豆、毛布などを配った。【1月13日 朝日】
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包囲地域については、“マダヤを含め、紛争当事者に包囲されている地域はシリアに15カ所ある。(国連事務総長)潘氏は、シリアでは40万人が包囲下にあり、うち約20万人はIS、約18万人はシリア政府側、残りは反政府武装勢力の支配地域にいると状況を説明した”【1月16日 朝日】とも。

また、ISによる拉致・虐殺については、以下のようにも。

****IS、400人拉致=300人虐殺報道―シリア東部****
在英の反アサド派NGO「シリア人権監視団」は17日、過激派組織「イスラム国」(IS)について、シリア東部デリゾールで「少なくとも市民400人を拉致した」と発表した。AFP通信が伝えた。

「連れ去られたのは女性や子供、アサド派戦闘員の家族らで全員イスラム教スンニ派だ」と監視団は主張している。

監視団は16日、ISがデリゾールを襲撃し、シリア兵や市民少なくとも135人を殺害したと発表。一方、国営シリア・アラブ通信は「市民約300人が虐殺された」と報じた。

監視団によれば、ISはデリゾール北端に侵攻し、アルバガリヤ地区を制圧。市民らを「処刑」するように殺していった。その後、同地区などの住民を拉致したもようだ。

イラク国境に近いデリゾールは、シリア軍とISが攻防を繰り広げる要衝。ISはデリゾール県の大半を支配下に収めているが、シリア軍は軍用空港を含む県都デリゾールの一部を掌握。今回の攻撃で、市の6割をISが占領した。【1月17日 時事】 
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犠牲者はIS等に対する空爆でも出ています。

フランスのジャンイブ・ルドリアン国防相は21日、シリアとイラクでイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の掃討作戦を進める米軍主導の有志国連合が2014年半ば以降、約2万2000人の過激派を殺害したと明らかにしていますが、米軍主導の有志国連合以上に激しい空爆を行っているのがロシア。

米軍主導の有志国連合の空爆でも民間人被害が出ていますが、ロシアの空爆はあまり民間人への配慮がなされていないとの指摘もあります。

****ロシアのシリア空爆、民間人死者1000人超える NGO****
在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」は20日、ロシアが4か月前に開始したシリア空爆により、これまでに1000人を超える民間人が死亡したと発表した。

現地の情報源網に基づいた報告を続ける同監視団によると、ロシアが昨年9月30日から続ける空爆により、これまでに子ども200人以上を含む民間人1015人が死亡した。

このほか、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の893人と、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系のシリア武装組織「アルヌスラ戦線(Al-Nusra Front)」を含むシリア反体制派の1141人が死亡したという。ロシア空爆による死者数合計は3049人で、わずか3週間で700人近く増加したとされる。

シリアの同盟国であるロシアは、シリア政府と連携して空爆を行っている。

標的はISや「テロリスト」グループを狙ったものだと主張しているが、人権活動家や反体制派らは、空爆の主な標的はISではなく、穏健な反体制派の戦闘員らだとして、ロシアを非難している。

しかしロシア側は、空爆で民間人が死亡しているとの情報を否定し、こうした活動家らの主張は「でたらめ」と反論している。【1月21日 AFP】
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“穏健な”反体制派なるものがどういうものか、ISやヌスラ戦線とどれほどの差異があるのか・・・については、ロシアの主張にも耳を傾ける必要があると思いますが、いずれにしても民間人犠牲もかまわず攻撃するのは許されません。

国連仲介の和平協議、延期も?】
こうした悲惨なシリア情勢を改善すべく、25日にスイス・ジュネーブでアサド政権、反体制派、関係国が出席しての和平協議が国連の仲介で予定されていますが、どのイスラム武装勢力を交渉に参加させるかを巡って、アサド政権の後ろ盾であるロシアと、反体制派を支援するサウジアラビアやカタールが対立するなど、先行き不透明になっていることは昨日ブログでも触れたところです。

先行き不透明どころか、“失敗確実”との見方も。その背景には、先述の戦術的には“効果的”なロシアによる空爆によってアサド政権側が息を吹き返して強気になっていることが挙げられています。

****シリア和平協議は“失敗確実”ロシアの空爆効果でアサド氏強気に****
シリアの内戦終結を目指した和平協議が25日からジュネーブで始まるが、早くも「失敗確実」(軍事専門家)との見方が強まっている。

その理由はアサド政権がロシアの軍事介入によって完全に息を吹き返し、退陣が取り沙汰されていたアサド大統領の自信と強気が復活したからだ。

プーチンの本気度の違い
米軍の制服組のトップであるジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長は20日、弱体化していたシリアのアサド政権がロシアの軍事介入によってその立場が改善され、反体制派から占領地の一部を奪回したと述べ、政権が立ち直ったとの認識を示した。

アサド政権はロシアが昨年の9月30日に介入する前は、北西部の大都市アレッポなどで反体制派に押し込まれ、崩壊も近いという憶測が出るほどだった。しかし、ロシア軍はイスラム過激派「イスラム国」(IS)を攻撃するといいながらも、実際にはアサド政権に敵対する反体制派を集中的に空爆、戦況を政権軍優位に一変させた。

「シリア人権監視団」によると、ロシアの空爆でこれまでに、子供や女性を含む民間人1000人以上、反体制派の戦闘員1141人が死亡、ISの戦闘員も893人が殺害された、という。空爆下からの住民の証言などによると、ロシアの攻撃は民間人の巻き添えを考慮していない。戦闘員を殺害する効果も大きいが、それだけ民間人が巻き込まれる被害が増えている。

米主導の有志連合は昨年8月以降、イラクとシリアのIS拠点に対する空爆を続け、これまでに9500回以上出撃し、3万発を超える爆弾を落としているが、民間人の巻き添えを恐れて、兵器や戦闘員だけを狙うようにしているために効果が小さい。軍事アナリストは戦争に対する「プーチン(ロシア大統領)の本気度がオバマ(米大統領)と違う」と指摘している。

反体制派はロシアの空爆を恐れて一部はトルコなどに逃れており、これに伴って政権軍が北部、南部など各地の前線で進撃、北部のラタキア県のトルコ国境地帯から反体制派を一掃、3年前から占領されていた町サルマを最近奪回。アレッポでも失地を回復しつつある。

反体制派にとって打撃なのは、ロシア軍機がトルコと反体制派の拠点を結ぶ補給ルートをつぶしたことだ。これによって反体制派への食料や補給物資、人員の補充が入らなくなった。特に政権軍の戦車攻撃に有効だった対戦車ミサイルの補充ができないことが反体制派にとっては痛い、という。

戦況がこのように政権軍に大きく優位に傾いている中でシリア和平協議が始まろうとしているわけだが、このままでは「失敗が確定したのも同然」(ベイルート筋)という見方が強まっている。

第1に、協議直前になっても、反体制派の出席メンバーをめぐって、米国とロシア・シリアの調整が全くついていない。

12月に採択された国連安保理決議は、シリアの内戦当事者が1月から直接協議を開始、半年以内に移行政権を樹立し、1年半後に自由選挙実施・新政権発足というシナリオだ。

しかし反体制派やサウジアラビアが移行政権にはアサド氏が入らないとしているのに対し、シリア政府、ロシア、イランは同氏の役割を排除していない。

アサド氏やロシアは今や、「内戦に勝利しつつあるのに、なぜ退陣する必要があるのか」と主張し始めており、協議が始まってもアサド氏の退陣を巡って両派が罵り合いをするのは目に見えている。

アサド氏を強気にしているもう1つの理由は、米国が来年3月まで同氏の政権保持を容認していると伝えられていることだ。

モスルに紙幣舞う
こうした中で、有志国連合とロシアによるIS攻撃は続いているが、ISの劣勢がさらに明らかになりつつある。

中でも米国によるISの石油密輸タンカーへの攻撃が資金源を断つ上で有効になっており、米国防総省がこのほど映像を公表したところによると、米軍機が11日、ISに占領されているイラク北部モスルのISの倉庫を空爆し、貯蔵されていた現金の紙幣が宙に舞った。(中略)

ISが軍事的にも、資金的にも追い詰められる中、開催されるシリア和平協議。不調となれば、それだけIS壊滅は遅れる。ケリー米国務長官とラブロフ・ロシア外相は協議に参加する代表団をめぐり、20日に話し合いを持ったが、対立は解消されなかった。

和平協議が開催されるかどうかも含め、ここ数日がシリアの将来にとって大きな岐路になる。【1月22日 WEDGE】
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アサド大統領の処遇はともかく、反政府派として誰を出席させるかについてもこの段階でも調整がつかないということは、“失敗”以前の問題として、“開催できるのか?”という疑問がわきます。

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意見が割れるのは、主に北西部で活動する「アフラル・シャム」と首都ダマスカス郊外に拠点を置く「イスラム軍」の扱いだ。

どちらも、イスラム法(シャリア)による統治の実現を目指すが、対話による解決も志向している。軍事的にも反体制派の中核を占めており、停戦履行などでは両勢力の協力が不可欠だ。

だが、一部メンバーがアルカイダと関係を持っているとされる。このためロシアは「イスラム軍とアフラル・シャムはテロ組織であり、反体制派の交渉チームに加わるべきではない」(ガティロフ外務次官)という立場を明確にしている。

一方で両組織の後ろ盾となっているサウジは「交渉団の人選は反体制派自身が決めることで、他国が関与すべきではない」と主張する。【1月20日 毎日】
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「アフラル・シャム」や「イスラム軍」がISなどとどこが違うのか判然としませんが、テロリストでない穏健派反政府勢力は、政治的にも軍事的にも弱すぎて、まともな和解交渉にならないという側面もあります。

実際、数日延期という話が出ているようです。

****シリアの和平会議の延期****
シリアの政治解決に関するジュネーブ会議に関しては、この25日に予定されていましたが、どうやら少なくとも若干の期間は延期されることとなりそうです。

・ケリー長官は、ジュネーブ会議の開催は1または2日延期されるであろうが、大幅な延期はないであろうと語った。
他方、反政府派の副団長は、会議は29日まで延期されるだろうと語った
その副団長は、延期は数週間になるであろうと語った由。
国連の特別代表も、会議が予定通りに開催される可能性に対して疑問を呈した由。

・会議が延期される可能性が出てきた最大の理由は、反政府派の構成の問題のようで、特にjeish al islam のメンバーが重要ポストを占めていることについて、ロシア外相は、このグループはテログループであることを確認するとしてる。

また、ロシア外務省は、ロシアとしてはそのような反政府派代表団を正当な代表団として認めず、別の反政府派代表団を支持することもありうるとしている由。

・これに対して、米国務省はリヤド(サウディ)で発表された反政府派代表団は、正統なもので、各種グループを包含した適切なものだとして、これを維持する意向を表明し、ロシアに対しても再考を求めた由

また、反政府派は前から、会議に第3者(クルド勢力等のこと)が参加することには反対であるとしている。

・なお、この問題については先日スイスで、米ロ両外相が会談したが、どうやら合意には至っていない模様。
なお、シリア政府系の新聞は、この両外相会議の結果、反政府派の選出は、国連特別代表に任せることになったと報じている模様であるが、その真偽のほどは不明

・さらに、トルコはクルド勢力YPGの会議への参加に反対しているが、トルコ首相は21日、ロシアはYPG等の会議への参加支持を通じて、ジュネーブ会議を失敗させようとしていると非難した由。
首相はさらに、テロリストという意味ではISもYPGも変わりはないと語った由。

・そのほか会議開催を妨げている問題としては、停戦及び人道援助の供給問題があるが、この点について国連代表はロシアや米国に対して、政府及び反政府勢力に対して、影響力を行使すること(圧力を加えること)を要請した由。

http://www.alquds.co.uk/?p=469405
http://www.alarabiya.net/ar/arab-and-world/syria/2016/01/21/شكوك-في-إمكانية-انعقاد-مفاوضات-سوريا-بموعدها.html
http://www.aljazeera.net/news/arabic/2016/1/22/إرجاء-مفاوضات-سوريا-بجنيف-إلى-نهاية-يناير
http://www.alarabiya.net/ar/arab-and-world/syria/2016/01/21/تركيا-روسيا-تحاول-تقويض-مفاوضات-سوريا-بإشراك-الأكراد.html

取り敢えずのところは以上で、この種問題について一一の流れを紹介するのは煩雑すぎる感じもするが、事はかなり本質的な問題に関連していて、会議そのものの開催さえ疑問が出てきているように感じるので、取りあえず。【1月22日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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ロシア・アメリカの本音は・・・
和平協議が流れる、あるいは、開催されても形だけのものに終わる可能性が強いようにも思えますが、恐らくロシアはそうなっても、今まで以上にIS及びロシアがテロリストと見做す反政府勢力への攻撃を続けるのでしょう。

アメリカは、ロシアのそういう反政府勢力への攻撃を批判はするでしょうが、本音ではどうでしょうか?
ロシアが頑張って過激な反政府勢力を一掃してくれれば、アサド大統領を一定に容認した形でシリアを安定化させたいというのが本音ではないでしょうか。

現実問題として、アサド大統領を現段階で引き摺り下ろして、「アフラル・シャム」や「イスラム軍」などが跋扈する状況になっても、欧米やロシアが考えるようなシリア再生は実現できません。

なお、プーチン大統領がアサド大統領に退陣を勧めたとの話もありますが、ロシア側は否定しており、真偽は不明です。

****大統領府、ロシア政府がシリアのアサド大統領に退陣を持ちかけたという報道を否定****
ロシア大統領府ペスコフ報道官は、「プーチン大統領がシリアのアサド大統領に退陣を勧めた」とするメディア報道を否定した。

フィナンシャル・タイムズ紙は金曜、西側諜報機関高官2名の証言として、ロシア連邦軍参謀本部情報総局のイーゴリ・セルグン局長は今月3日に死亡する数週間前にプーチン大統領の書簡を携えてダマスカスに派遣された。その書簡は、アサド氏に大統領職を降りるよう勧めるものだったという。

ペスコフは「いや、そうではない」と述べた。リア・ノーヴォスチが伝えた。【1月22日 SPUTNIK】
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