孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  国内反対派・野党への強硬姿勢を強めるエルドアン政権

2016-01-25 22:22:38 | 中東情勢

(イスタンブールで10日、当局によるジャーナリストらの収監に抗議する人たち=AFP時事【1月25日 朝日】)

欧米が強力を必要としている国、トルコ
アメリカにとって中東の地域大国トルコは、シリア・イラクと国境を接する対IS戦略の要となる重要な国です。

****IS掃討で協力深化=米トルコ首脳****
オバマ米大統領は19日、トルコのエルドアン大統領と電話で会談し、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討に向けて協力を一段と深化させることを確認した。ホワイトハウスが発表した。

オバマ大統領はこの中で、イスタンブール市内で12日に起きた自爆テロの犠牲者に弔意を表明。また、トルコの反政府武装組織クルド労働者党(PKK)のトルコ治安部隊に対する最近の攻撃を非難するとともに、緊張緩和の必要性を強調した。【1月20日 時事】
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こうしたアメリカ等からの要請もあって、従来からISなどイスラム過激派に宥和的との批判もあるトルコですが、最近は国境管理など、従前に比べると厳しくなっているようです。 

****国境閉鎖、シリア入り困難に=ISの外国人拉致続発―邦人殺害事件から1年・トルコ****
過激派組織「イスラム国」(IS)による邦人殺害事件から1年。

殺害されたフリージャーナリストの後藤健二さんら2人がシリア入国の際に通過したトルコ南部キリスは、国境検問所が閉鎖され、警備の厳重化で密入国も難しくなった。

しかし、約900キロに及ぶシリア国境にはいまだ治安当局の目が届きにくい場所もあり、シリアで行方不明になる外国人も相次いでいる。(中略)

シリア内戦が始まった11年以降、トルコ政府はシリア難民への「門戸開放」政策を維持し、200万人以上を受け入れてきた。

しかし、ISの勢力拡大に伴い、トルコがシリアへの外国人戦闘員流入の経路になっていると欧米から批判が強まった。

難民受け入れが限界に達したこともあり、政府は15年3月、最後まで開いていたキリスと南部アンタキヤの2カ所の国境検問所を事実上閉鎖した。(後略)【1月23日 時事】
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また、中東からの難民らが押し寄せる欧州にとっては、トルコは難民流入を抑制するうえで最前線となる国で、その協力を必要としています。

****ビザ免除交渉、進展約束=難民対応でトルコに配慮―独****
ドイツのメルケル首相は22日、ベルリンで、トルコのダウトオール首相と会談し、独側は難民問題をめぐる昨年11月の欧州連合(EU)とトルコの合意に基づき、トルコに対するビザ(査証)免除に向けた交渉進展に努めることを約束した。難民流入抑制で協力が不可欠なトルコへの配慮をにじませた。

メルケル首相は会談後の共同記者会見で、11月の合意に盛り込まれたEUによる30億ユーロ(約3850億円)規模のトルコ支援についても「きょう改めて確約した」と述べた。

一方、会見後に発表された共同声明で、ダウトオール首相は欧州に向かう難民らの数を大幅に減らすため「あらゆる可能な取り組み」を行うと応じた。

中東などから欧州を目指す難民らの勢いは今年に入っても衰えていない。最大の受け入れ国ドイツは、難民の経由地トルコとの連携なしに問題の解決は困難とみており、協力の取り付けに躍起となっている。【1月23日 時事】 
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欧州からの要請を受けて、トルコは国内における難民対策を強化し、難民流失を防ぐ施策に着手しています。

****トルコ政府が難民に労働許可 国民に不安も****
シリア難民を装った男による自爆テロで10人が死亡したトルコで、EU=ヨーロッパ連合の要請を受けて難民に労働許可が与えられることになり、国民の不安が高まることも予想されます。

トルコでは今月12日、最大の都市イスタンブールで自爆テロ事件が起き、ドイツ人10人が死亡しました。治安当局は、自爆して死亡した男は過激派組織IS=イスラミックステートのメンバーで、シリア人のナビル・ファドリ容疑者だったとみて捜査していますが、地元メディアは、ファドリ容疑者が仲間4人とともにイスタンブールで難民の登録手続きを行い、シリア難民を装っていたと伝えています。

こうしたなか、トルコ政府は15日、難民に労働許可を与えると発表し、登録手続きを行ってから半年以上が過ぎた難民は労働許可を申請できるようになりました。

トルコにはシリアやイラクなどから250万人以上の難民が流入していますが、これまで、一部を除いて労働許可が与えられず、それが難民がヨーロッパへ移動する原因とみたEUは、トルコ政府に対策を講じるよう求めていました。

しかし、自爆テロの実行犯らが難民を装って活動していたことが発覚するなか、トルコ政府が難民に労働許可を与えると発表したことで、国民の間ではテロが起きる危険性が高まったり、仕事が奪われたりするのではないかと不安が高まることも予想されます。【1月16日 NHK】
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強権姿勢を強めるエルドアン政権 テロはおさまらず
このように、欧米にとってその協力が不可欠なトルコですが、かねてより指摘されているエルドアン大統領の国内における強権姿勢は更に一層・・・・という感があります。

クルド系野党HDPの躍進を受けて与党AKPが過半数割れした昨年6月の前回総選挙でダメージを受けたエルドアン大統領でしたが、イスラム過激派ISとクルド人武装勢力PKKによるテロの脅威を前面に押し出し、両者、特にPKKに対する戦闘を再燃させ、治安維持への強い姿勢を国民にアピールすることで、11月に行われた再選挙では単独過半数を回復する形で成功を収めています。

選挙後も、反対勢力への圧力を強めています。

****イスラム指導者の裁判開始=政府転覆を謀った罪―トルコ****
トルコのエルドアン大統領の最大の政敵で、政府転覆を謀った罪などに問われた米国亡命中のイスラム指導者ギュレン師や元警察幹部に対する裁判が6日、最大都市イスタンブールの裁判所で始まった。

AFP通信などが伝えた。同師に関しては欠席裁判となった。検察は既にギュレン師ら69人に対し、それぞれ禁錮7〜330年を求刑している。

エルドアン氏が首相在任中の2013年末、ギュレン師率いるイスラム団体「ギュレン運動」が汚職疑惑をでっち上げて政府転覆を図ったなどとして、トルコ当局は14年から捜査を開始。トルコのメディアによれば、15年末までに警官や兵士を含む約1800人が拘束された。

ギュレン師は1999年に渡米。トルコ政府は米国に同師の引き渡しを求めている。【1月6日 時事】 
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****クルド系政党事務所を捜索=テロ事件関与の疑いで―トルコ****
トルコ警察は8日、テロ掃討作戦の一環として、最大都市イスタンブールにあるクルド系政党・国民民主主義党(HDP)の事務所などを家宅捜索し、事務所の共同代表ら6人を拘束した。アナトリア通信が伝えた。

警察はHDPの事務所が、昨年6月に起きた反政府武装組織クルド労働者党(PKK)によるとみられる殺人事件に関与しているとの情報を得たという。しかし、事務所側は「事件と何の関係もない」と主張、HDPも捜査は「違法だ」と非難している。

HDPをめぐっては、クルド人の自治権獲得を呼び掛けたとして、検察当局が同党共同党首のデミルタシュ、ユクセクダー両議員への捜査に着手。エルドアン大統領は2人の不逮捕特権を剥奪するよう国会に求めている。【1月9日 時事】 
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しかし欧米の要請に応じた対IS強硬策、PKKとの戦闘再開によって治安は安定せず、ISやPKKによる報復と見られる事件も相次いでいます。

1月12日には最大都市イスタンブール中心部で外国人観光客を狙ったISのテロにより10人の犠牲者を出し、エルドアン大統領の威信に傷がつくことにもなっています。

****テロで観光業に打撃=政府の威信に傷―トルコ****
トルコの最大都市イスタンブール中心部の観光地で自爆テロが起きたことで、主力産業である観光業への影響が懸念されている。

これまで国内で起きたテロ事件とは異なり、外国人観光客が狙われたとみられ、海外からの観光客の足が遠のくのは必至だ。国内外で「テロとの戦い」を続ける中、報復攻撃への警戒を強めていたトルコ当局の衝撃は大きい。(中略)

トルコ経済の「心臓部」であるイスタンブールが攻撃されたことで、政府の威信も傷つけられた。エルドアン大統領は12日、「地域で活動している全テロリストの最大のターゲットはトルコだ」と述べ、テロとの戦いを続ける姿勢を見せた。

トルコは15年7月に対IS強硬姿勢へと転換。イラクやシリアでの空爆を強化したが、首都アンカラで10月、ISによるとみられる自爆テロが起き、100人以上が犠牲になった。

治安当局はIS戦闘員の摘発を強化し、先月も、アンカラで年越しイベントを狙ったテロを計画していたとして戦闘員を拘束したばかりだった。【1月13日 時事】 
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また、対外的には、シリア国境でのロシア機撃墜事件をめぐるロシアとの確執もあります。

【「行き過ぎ」に欧米からも批判もあるものの、やや及び腰の感も
こうした国内外の動きに苛立ちを募らせてか、エルドアン大統領の対応もエスカレートしているようにも見えます。 

****トルコ大統領に「下品な手ぶり」、女性に禁錮1年****
トルコ西部イズミル(Izmir)の裁判所は20日、同国のレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)大統領に向かって「下品な手ぶり」をしたとして、経済学者の女性に1年近い禁錮刑を言い渡した。

2人の子どもを持つフィリズ・アキンジ(Filiz Akinci)被告は、2014年3月、イズミルの地元選挙の集会に訪れたエルドアン首相(当時)のバスに向かって、侮辱的な手ぶりをした罪に問われた。(中略)

トルコではここ数か月、エルドアン大統領を侮辱したとして裁判にかけられる人が急増している。表現の自由が脅かされているとの懸念が高まっており、野党は独裁体制の強化だと政権批判を強めている。

先週には、最大野党・共和人民党(CHP)のケマル・クルチダルオール党首がエルドアン大統領を「お粗末な独裁者」と呼んだことに対して、大統領への侮辱の疑いがあるとして検察当局が捜査を開始していた。【1月21日 AFP】
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****トルコ、政権批判を抑圧 学者ら相次ぎ拘束 「行き過ぎ」反発の声****
中東の民主主義国を自任するトルコで、与党・公正発展党(AKP)の実権を握るエルドアン大統領や政権を批判する、学者やジャーナリストの摘発が相次いでいる。野党や人権団体などは「表現の自由」の侵害だと反発するが、強権ぶりに歯止めがかからない。

「トルコ政府は南東部の住宅地を攻撃し、住民の生きる権利、自由と安全の権利を侵害している」
今月11日、トルコの89大学の大学教授ら計1128人が、トルコ軍が南東部で続けるクルド系非合法武装組織「クルディスタン労働者党」(PKK)に対する掃討作戦で、多くのクルド系住民が巻き添えになっていると訴え、作戦の即時停止を求める声明を出した。

トルコメディアによると、捜査当局は「学問の自由、表現の自由の域を超えており、テロを扇動している」として、声明に署名した学者らの研究施設を一斉捜索し、少なくとも約30人を一時的に拘束。エルドアン氏は20日、「学者らは反逆の穴に落ちた代償を払うことになる」と述べた。

これに対し、政権に批判的な報道機関や人権団体などは「捜査・拘束は行き過ぎ」と反発。さらに、最大野党・共和人民党のクルチダルオール党首がエルドアン氏を「粗悪な独裁者」と酷評したところ、「大統領の侮辱」の罪にあたる疑いがあるとして、検察当局が捜査を始めた。

また、昨年11月には、トルコの情報機関がシリア領内の反体制武装勢力に武器を密輸した疑惑を報じた大手紙編集長らをスパイ容疑で逮捕。1月上旬には大統領に批判的なコラムを書いたジャーナリストを大統領侮辱容疑で捜査した。

エルドアン氏が事実上の指導者を務めるAKPは2002年の政権発足以来、行政機関や検察、裁判所、軍、警察で対立する勢力を排除し、AKP寄りの人物を重用して政権基盤を築いてきたとされる。(後略) 【1月25日 朝日】
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こうしたエルドアン政権の強権姿勢に対し、欧米からの批判の声も上がってはいます。

****米副大統領、トルコに苦言=学者や報道関係者、相次ぎ拘束****
トルコを訪問したバイデン米副大統領は22日、最大都市イスタンブールで記者団に対し、トルコ政府がメディアへの締め付けやインターネット規制を強めていることについて「示すべき手本ではない」と苦言を呈した。トルコのメディアが伝えた。

副大統領はトルコ国会議員らとの会談後、「トルコが成功することで中東全体に強いメッセージが送られる」とトルコの役割の大きさを強調。政府に批判的な学者や報道関係者が最近、相次いで拘束されていることに懸念を示し、報道や表現の自由の重要性を訴えた。

米国はトルコがイスラム教と民主主義を両立する中東の「手本」となることを期待してきた。しかし、イスラム系与党・公正発展党(AKP)の実権を握るエルドアン大統領は強権的な姿勢を年々強めている。【1月23日 時事】
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ただ、先述のように欧米にとって、その協力が不可欠な国だけに、批判も「示すべき手本ではない」と、いささか及び腰の感もあります。

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米国のバイデン副大統領は22日、訪問先のイスタンブールで、政権を批判した学者をテロ扇動の疑いで拘束するのは「示すべき手本ではない」と述べ、トルコ政府の動きを牽制(けんせい)した。トルコが加盟を目指す欧州連合(EU)の国々からも懸念の声があがる。

だが、シリアなどの過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点への攻撃を強める米国にとって、空軍基地を提供するトルコは戦略上のパートナー。EU諸国にとっても、増え続ける難民の対策を進めるために不可欠な友好国だ。そのため欧米はトルコ政府の強権ぶりに対する厳しい批判は控えているのが実情だ。【1月25日 朝日】
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