孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー 「スー・チー政権」に向けて

2016-01-12 23:17:39 | ミャンマー

(4日、ミャンマーの最大都市ヤンゴンで演説する最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首(AFP=時事)【1月4日 時事】)

【「国民の皆さんには国家に対しどのような新年の贈り物ができるかを考えてほしいのです。」】
今年3月末には、ミャンマーでいよいよ「スー・チー政権」が誕生する予定です。

****新国会、来月1日招集=NLD政権発足へ―ミャンマー****
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー党首率いる最大野党・国民民主連盟(NLD)が圧勝した昨年11月の総選挙結果に基づく新国会が、2月1日に招集されることになった。シュエ・マン下院議長が6日明らかにした。

2月中にも新大統領が全国会議員の投票による間接選挙で選出され、3月末のテイン・セイン大統領の任期切れを受けてNLD主導の新政権が発足する運び。

スー・チー氏は憲法の規定で大統領に就任できないが、「大統領より上の存在になる」として、自身が実質的に政権を運営する意向を明らかにしている。

総選挙ではNLDが上下両院(定数合計664)の改選議席491議席中390議席を獲得。テイン・セイン大統領の与党・連邦団結発展党(USDP)は41議席にとどまった。【1月6日 時事】
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「スー・チー政権」に対する期待、不安、その他もろもろの思いについては、12月8日ブログ“ミャンマー 「スー・チー政権」実現への動き 課題・不安はあるものの避けて通れぬ節目”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151208でも取り上げました。

スー・チー氏は年頭のあいさつで、“新年には人々は友人・知人に贈り物をプレゼントするものですが、国民の皆さんには国家に対しどのような新年の贈り物ができるかを考えてほしいのです。・・・・私は、みなさんが肉体的にも精神的にも幸福になることを、危険から解放されることを、夢を実現できることを願うものです。更に、皆さんが平和と繁栄、そして国家の発展のために適切な贈り物を持ってきてくれることを願っています。”といった内容を語っています。【1月2日 「ミャンマーよもやま情報局」http://www.myanmarinfo.jp/entry/2016/01/02/123833より】

上記サイトでも指摘しているように、まさにケネディの「国家が諸君のために何をなしうるかを問うのではなく、諸君が国家に何をなしうるかを考えよ」というスピーチそのものです。

もちろん、これはこれで真実を含んでいるものではありますが、どこまで一般国民に理解されるかは疑問でもあります。

前回ブログでも触れたように、「スー・チー政権」の最大の課題は、人々が抱く「過剰で性急な」結果と実際にできることのギャップにあります。

スー・チー氏もそこを懸念するがゆえに、国からの施し・利益供与を期待するのではなく、国の発展のために何ができるかを各自考えてほしい・・・といった上記のようなスピーチにもなるのでしょう。

****アウンサンスーチーの課題****
大きな問題点は、国民に幻想を抱かせてしまったことだ。
本人は皆さんに富は与えない。富みを生むための平等性を与えると語っているが、その言葉は理解されていない。


女史が政権を担えば、裕福になると単純に考えている人が多い。選挙での運動員もチェンジを声高々に唱え、女史が政権を取れば軍事政権から利権を奪い、人々に大盤振る舞いしてくれるようなイメージを植え付けてしまった。

露天商はジャンクションスクエアに出店することを夢見、ゴミの山の中に住んでいる人は鉄筋コンクリートのコンドミニアムに住むことを夢見てしまった。

しかし、そのお金はどこから湧いてくるのだろうか。政権が代わっても財布の大きさに変わりはないのだ。

いずれ、女史が訴えるチェンジは夢物語だったことを人々は知る。ここが怖い。アウンアンスーチー自身がバブルと化してしまった。あまりにも女史への期待が大きい。

今までは傍観者として政権を批判していればOKだったが、これからは逃げ場はない。鉄板勝負の世界へ突入する。血筋と名声だけでは勝負できない世界がすぐそこまで来ている。

もちろん、その程度のことは女史は百も承知だろう。人材の乏しい私党NLDを重視すれば人材不足で政権は空回り、人材の豊富な軍と近づけば国民は離反。痛し痒しの世界である。

当然、市中からの人材発掘に努めるだろうが、それにも限界がある。もともとミャンマーの優秀な人材は、軍に入るか、シンガポールなどの外国に活路を求めるかに二極化していた。

もちろん、国内に潜在的な能力が高い人材はいる。しかし政治、経済の仕組みが乏しかったことから経験不足、実体験不足である。場数を踏んで一流になるには何年もの年月が必要である。時は待ってくれない。3か月後にはアウンサンスーチー政権が誕生するのだ。

現在、女史は沈黙を保っている。誰を大統領に指名するのか?自らが策を弄してその立場に就くのか?その匂いさえも醸し出さない。勝利に酔いしれて放言するような軽はずみな言動はない。取り巻きからも情報は洩れてこない。この点は一流であると感心せざるを得ない。

アウンサンスーチー政権の成否の鍵は人材の活用である。ティンセイン大統領は、国威高揚には高級官僚の育成が必要として、各省庁には次官職を設け、海外からスペシャリストを招いて徹底した教育を実施した。賄賂に頼りがちな下級官吏には福利厚生の充実と給料アップで答え、不正の根にメスを入れた。ミャンマーの発展に必要な政策を着実に打っている。外野席から見ていてもその布石は見事である。

しかしアウンサンスーチー女史には、縛りがある。国軍と対峙してきた女史が国軍人脈を使うことは国民への裏切りになる。そう考える層がある。

国軍との関係をいかにアピールするのかは難しい。しかし目的はひとつである。最貧国から脱却して国民が幸せを感じる平和な国を創ることである。(後略)【1月4日 「ミャンマービジネスニュース」】
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先ず、父親が手がけた少数民族との和解に
スー・チー氏は「変化はすべての人に利益をもたらすものだ」と述べて、新政権への協力を国民に呼びかけ、先ず最初に少数民族武装勢力との内戦の終結に取り組む考えを示しています。

****スー・チー氏が演説 「変化は利益もたらす****
ことし3月に予定されるミャンマーの新政権発足に向けて、民主化勢力の指導者、アウン・サン・スー・チー氏が演説し、「変化はすべての人に利益をもたらすものだ」と述べて、新政権への協力を国民に呼びかけました。

ミャンマーでは長年、軍の影響力の強い政権が続いてきましたが、去年11月の総選挙で、スー・チー氏率いる野党NLD=国民民主連盟が圧勝し、ことし3月に民主化勢力が主導する新政権が発足する予定です。

スー・チー氏は4日、イギリスからの独立記念日に合わせて、支持者や外交団を前に演説し、「変化を恐れている人もいるが、変化はすべての人に利益をもたらすもので恐れることはない」と述べ、軍の関係者を含むすべての国民に対し、新政権への協力を呼びかけました。

また新政権の課題についてスー・チー氏は、「最初に取り組まなければならないのは和平の実現だ」と述べ、今も散発的な戦闘が続く少数民族の武装勢力との内戦の終結に力を尽くす考えを示しました。

ミャンマーでは今月中に、総選挙で選ばれた議員による議会が招集され、その後、大統領を選出する手続きが始まりますが、外国籍の家族がいるスー・チー氏は今の憲法の規定では大統領になれません。

このため、スー・チー氏が憲法の改正を目指すのか、それとも別のポストに就くのかに注目が集まっています。【1月4日 NHK】
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その「少数民族の武装勢力との内戦の終結」については、12日、政府や少数民族武装勢力の代表らが参加して首都ネピドーで開かれた和平会議で演説し、「国民に与えられた信任に基づき、永続的な和平を構築する用意がある」と述べ、60年以上にわたって続く内戦の終結に意欲を示しています。

****スーチー氏、和平実現に意欲 政府や武装勢力との会議で****
ミャンマーの昨年11月の総選挙で大勝した国民民主連盟(NLD)のアウンサンスーチー党首は12日、政府や少数民族武装勢力などが参加する会議の開会式で、国内和平の実現に向けて、「責務を担う準備はできている」と述べ、NLDによる新政権も積極的に取り組む姿勢を示した。

首都ネピドーで始まった「連邦和平会議」は、昨年10月に政府と八つの少数民族武装組織の間で署名された停戦協定に基づく。

少数民族側が求める自治権の拡大や新たな連邦制度などを今後協議し、将来の憲法改正をめざす。3月末で任期を終えるテインセイン大統領は開会式で「今日は我が国の歴史上重要な一日となった」と成果を訴えた。

だが、全体の半数程度の少数民族武装組織は停戦協定に署名しておらず、今回の会議にも参加していない。戦闘が各地で続いており、国内の市民団体は現時点での会議の開催に反対する声明を出していた。

スーチー氏は開会式のスピーチで「すべての民族の参加が不可欠だ」と強調。「協議の枠組みは状況に応じて改革できるよう柔軟であるべきだ」と述べ、現政権下で決められた和平会議のやり方を今後、変えていく可能性を示唆した。【1月12日 朝日】
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かつて、イギリスの植民地支配からの独立運動を指導した故アウン・サン将軍と少数民族代表が1947年に、連邦国家の枠内で少数民族の自治を保障する内容の「パンロン合意」を交わしており、この合意内容をいかに現実のものとするかが少数民族問題の当面の課題となります。

スー・チー氏は、その故アウン・サン将軍の娘ということで、父親が手がけた「和平」を現実のものにしたい・・・という思いもあるのではないでしょうか。

故アウン・サン将軍の意思の実現を各方面にアピールするのに、「娘」という最もふさわしい立ち位置にあります。

また、この問題での成果をてこに、国軍との関係を含めた統治権の確立を進めていく狙いも。

少数民族問題以外にも課題が山積しています。
まずは、誰を大統領に「指名」するのかという話から始まって、スー・チー氏を軸とした新体制がどのように機能するのか・・・すべてはこれからです。

「建国の父」故アウン・サン将軍に続いて、ミャンマーの民主化と発展を導く「国母」となるのか、現実政治の泥沼に沈むのか・・・。
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