
【1月7日 AFP】
【ガンTV・・・「(銃は)夜中の3時にテレビを見ながら、ふと思い立って買うものではない」】
銃乱射事件がどれだけ起きても銃規制が進まないアメリカ。規制強化が進まないどころか、事件が起きるたびに人々は銃器を求めてガンショップに走り、銃器の売り上げが伸びるという、日本的な常識では理解しがたいアメリカ社会の現実です。
****テレビ通販で銃を売るってアメリカは正気?****
銃乱射事件が絶えず、銃規制についての議論が続くアメリカ。今月初旬にはカリフォルニア州サンバーナディーノで14人が死亡、少なくとも21人が負傷する事件が起きたばかりだ。悲劇が繰り返されながらも、なかなか規制が強化されないのは、銃の需要が高く、銃保有の権利を支持する声も根強いからだ。
それを象徴するかのように、カリフォルニア州では驚きの計画が進められている。全米初の銃器専門通販の放送局「ガン(銃)TV」の立ち上げだ。放映開始は来年1月20日。ちょうどラスベガスで世界最大級の銃器見本市「ショットショー」が開かれている期間だ。
24時間の銃販売番組
設立者は通販番組の仕事をしていたダグ・ボーンスティーンとバレリー・キャッスル。衛星放送とケーブルテレビで、当面は午前1時から毎日6時間の放送を行う。さらに、いずれは1日24時間、週7日間の放送を目指しているという(2人からはコメントを得られなかった)。
銃の安全性や訓練などに関する番組も放映するが、大半はショッピング番組で、銃や銃弾、付属品の販売を行う。「注文はフリーダイヤル電話やオンラインで。気楽に便利に銃器を購入できる」と宣伝ビデオはうたっている。
注文はガンTVから大手銃卸業者スポーツサウスへ送られ、そこから最寄りの銃販売店に品物が配送される。購入者は銃規制法に従って店で必要書類に記入し、身元審査を経て銃を受け取ることになる。(中略)
銃の通販番組なんてどう考えても正気ではない。何しろアメリカでは銃乱射による大量殺人が何度も繰り返されている。
ガンTVの宣伝ビデオによれば、アメリカでは人口100人当たり、平均89の銃器がある。
弁護士による銃暴力防止団体「銃による暴力防止法律センター」のローラ・クティレッタ上席弁護士は、24時間の銃販売は危険だと指摘する。「銃の犠牲になる人は年間3万人。その多くは自宅で銃を見つけた子供たちだ。それだけの人を殺している製品を自宅に持ち込むには、よくよく考えて決断すべきだ」と、彼女は言う。「夜中の3時にテレビを見ながら、ふと思い立って買うものではない」
しかし、こうした常識が通用しないのが現実だ。カリフォルニアには全米で最も厳しい銃規制法がある。ほとんどの対人殺傷用銃器を禁じ、大容量の弾倉の販売・譲渡も禁止。販売店、ネット販売、銃見本市を問わず、銃を購入する前には身元審査に通る必要がある。
それでもサンバーナディーノの大量殺人を防ぐことはできなかった。
「善人が銃を持つことを禁じても、犯罪者やテロリストが銃を手に入れるのを止めることはできない」と、プラット(米銃所有者協会(バージニア州)の広報責任者)は言う。
危険人物への販売をどう止めるのか
驚いたことに、銃の安全対策強化を求める人々の中には、ガンTVが身元審査の推進のきっかけになると考える人もいる。
銃犯罪撲滅を目指して活動する団体「責任ある解決策を求めるアメリカ人」の広報担当マーク・プレンティスは、「何より重要なのは、重罪犯罪者や家庭内暴力の加害者といった危険人物が、ガンTVで銃を買えないようにすることだ。彼らは身元審査に通るはずがないのだから」と言う。(中略)
恐ろしい事件が起きると銃を捨てるのでなく、銃を買いたくなる。そんなアメリカ人の心理が変わらなければ、乱射事件の悲劇はいつまでも続くだろう。【12月22日号 Newsweek】
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【涙の規制強化発表 ただ、“これだけしかできない”のが現実】
これまでも銃規制の必要性を訴えてきたオバマ大統領ですが、そうしたアメリカ社会の現実、それを反映した議会における共和党を中心にした規制反対論に押される形で成果を出すことができていません。
そんなオバマ大統領ですが、任期もあと1年ほどと残り少なくなり、議会反対をスルーする大統領令による銃規制強化策を発表しました。なんとか“レガシー”として銃規制に手をつけたい・・・という思いでしょう。
しかし、野党・共和党は「憲法違反だ」と反発しており、法廷闘争に発展する可能性もあります。
アメリカでは大統領には“強い指導者”のイメージが求められ、“弱さ”につながる涙を見せることはあまり好ましいとはされませんが、銃乱射事件によって失われた子供たちの命に触れるとき、涙ぐむオバマ大統領でした。
****オバマ大統領、涙を流し演説 銃規制強化策を正式発表****
オバマ米大統領は5日、ホワイトハウスで演説し、大統領令による新たな銃規制強化策を正式に発表した。演説では銃乱射事件で犠牲になった子どもたちに触れ、涙を流しながら「みんなで立ち上がり、国民を守らなければならない」などと訴えた。
強化策は、現状の法規制の枠組みの中で、大統領令を発令して、すべての販売業者に免許取得を義務付けたり、殺傷力の強い銃の購入者の犯罪歴の確認などを徹底させたりする。
オバマ氏は、過去の銃乱射事件の犠牲者の遺族たちに囲まれて演壇に立った。米国では、自殺や事故を含め毎年3万人以上が銃で命を失っていると指摘。「米国は地球上で唯一、この種の暴力が繰り返される先進国だ」と述べ、「どこか感覚がマヒしてしまって、これが普通だと思い始めている」と危機感を募らせた。
演説の後半、2012年にコネティカット州の小学校で児童ら26人が犠牲になった事件に触れた際、一瞬、話を止めて目に涙を浮かべた。手で涙をぬぐいながら続けた。「いつも子どもたちのことを考えると気が狂いそうになる」
また、規制強化に反対する野党共和党が多数を占める連邦議会を「専門家による銃暴力の実態調査をやりにくくする投票をした」などと批判。
共和党が反対するのは、業界団体の圧力が強く、選挙に勝つために必要だからだとして、「規制法案に反対したら当選できなくすれば、彼らも考え直すだろう」と呼びかけた。世論を結集すれば、現状では見通しが立たない新たな規制法の制定なども、不可能ではないとの見方を示した。【1月6日 朝日】
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「どこか感覚がマヒしてしまっている」というオバマ大統領の訴えには個人的には同感です。
ただ、今回の銃規制策は銃器見本市やインターネットを通じて販売する業者も免許を取得し、購入者の身元調査の義務も負うことにするもので、これまでの「抜け道」をふさぐ内容ではありますが、あまり現状を変革できるような規制策ではありません。
かねてより銃規制強化を訴え、レガシーとして残したいオバマ大統領をもってしても、これしかできない・・・というのがアメリカの政治的現実なのでしょう。
****内容は腰砕けだった、オバマの「銃規制案」 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代****
今週5日、新年早々にオバマ大統領はホワイトハウスに「乱射事件の被害者と遺族」を招いて、彼らに語りかける形を取りながら全国へ向けてテレビ会見を行いました。その際に「涙を浮かべながら銃の悲劇を繰り返すな」と訴える大統領の姿は、大きく報道されています。
ですが、この「オバマ銃規制案」の内容は「全くの腰砕け」としか言いようのないものです。
まず今回の提案は3点あるというのですが、具体的には「銃見本市(ガンショー)やネット販売などでの銃購入者の身元確認の徹底を『業者』に義務付ける」、「違法な銃取引に対する取り締まりの徹底」、「保険適用の拡大など精神疾患に対する治療の充実」というのがその内容です。
要するに「銃規制」ということでは、1つ目の「購入時の身元チェックの強化」だけであり、2つ目はこれを徹底するための取り締まりをするということ、そして3つ目は「精神疾患の既往症のある人物には銃を売らない」のではなく、疾患に対する治療を強化するという「間接的な対策」であり、銃規制の施策として画期的でも何でもないものです。
では、オバマ政権は「何から逃げた」のでしょうか?
アメリカが銃社会という病理から本当に脱するためには、「警察官、保安官、狩猟ライセンス保持者」以外の銃所有を禁止し、その上で「既に社会に出回っている銃の回収」を行わなくてはなりません。
要するに国民の武装解除ということになりますが、これは合衆国憲法修正第2条の「市民の武装の権利」の改正が必要となります。その改正については、要するに独立戦争に由来する市民の「自衛権・革命権」を取り上げることになり、事実上不可能と言えます。
ですが、「銃禁止」は無理にしても、アメリカで有効な銃の規制として検討されている案はもっと他にあります。具体的には次の3つです。
1つ目は、多くの乱射事件で使われている「アサルト・ライフル」つまり、軽機関銃並の連射能力を持つ、本来は軍用である重火器の販売の禁止です。
2つ目は、こうした「アサルト・ライフル」に使われる「多弾マガジン」の販売を禁止するという措置です。「アサルト・ライフル」は全米で数多く出回っているわけですが、マガジンの販売を禁止すれば乱射事件を抑制できるからです。
3つ目は、販売時の身元チェックの徹底を『業者』だけでなく、『個人』が販売する際にも全面的に適用するということです。
実は、1と2は全米で規制ができていた時期があります。それは、ビル・クリントン政権の時代に、例えば日本人留学生の射殺事件などを重く見たクリントンが、様々な議会工作の上で実現した「ブレイディ法」というもので、一定以上の連射能力を持つ「アサルト・ライフル」と、専用の「多弾マガジン」を国のレベルで規制したのです。
残念ながら、この「ブレイディ法」は時限立法であり、ブッシュ政権が更新しなかったために失効しました。そして、その失効後に膨大な量の「アサルト・ライフル」が合法的に販売されているのです。そして、ここ数年発生している乱射事件では、この「アサルト・ライフル」が使われることで、多くの犠牲者を出しています。
ですから、この「アサルト・ライフル」と「多弾マガジン」の販売禁止は急務と言えるのですが、この点に関しては銃保有派の抵抗が激しいために、大統領も今回の案に含めることはできませんでした。
どうして世界的にも見ても異常な「軍用連射銃」が野放しになっているのかというと、それは単純な理由です。銃保有派には「連射能力の高い銃が出回っている」のなら「自分も持っていないと自分や家族が守れない」という感覚があるのです。つまり、相手を上回る火力がなくては不安だということです。(後略)【1月7日 Newsweek】
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【“西部劇”さながらの土地をめぐる事件 合衆国憲法修正第2条の「市民の武装の権利」?】
銃規制反対の拠り所である合衆国憲法修正第2条の「市民の武装の権利」・・・・独立戦争に由来する市民の「自衛権・革命権」については、邪悪な政府が個人の権利を侵害しようとするとき、民兵が武器を持ってこれに抵抗することを保証するものですが、すぐれてアメリカ的な国家観に思えます。
現在の草の根保守派ティーパーティのような、政府の役割を極力限定しようとする発想にも通じるものでしょう。
それにしても、いまどき民兵が武器を持って邪悪な政府に抵抗というのも、西部劇や南北戦争の時代じゃあるまし、いささか“時代が違う”という感がします。
しかし、そうした“西部劇”の世界を彷彿とさせるような事件が今もアメリカで進行中です。
****米の民間武装集団、自然保護区を占拠 農場主親子の収監に抗議****
米オレゴン州で、農場主親子が国有地に放火した罪で投獄されたことに抗議する約100人の反政府的な民間武装集団が、野生生物保護区を占拠し、2日目となる3日現在も立てこもりを続けている。
占拠されているのは、同州北東部にあるマルヒュア国定鳥獣保護区。占拠しているミリシアは、反政府主義の農民や農場主、サバイバリスト(大惨事に生き残るために食糧や武器を備蓄する「生き残り主義」の信奉者)たちの緩いつながりによる集団とみられ、地元保安官事務所は「郡・連邦政府の転覆を試み、運動を全米に広げることが動機だ」との見解を示している。
保護区から南東に約80キロ離れた町バーンズでは2日、300人程度が集まり、農場主親子のドワイト・ハモンド受刑者(73)と息子のスティーブン・ハモンド受刑者(46)の収監に抗議する穏やかな集会が行われていたが、一部の参加者らが保護区に向かい、本部を占拠した。地元保安官事務所によると、保護区本部は当時、無人だった。
ハモンド親子は放火の罪で有罪判決を受けたが、野焼きのために自分たちの所有地につけた火が、国有地に燃え広がったと主張している。
しかし司法省によれば、裁判では複数の証人が、狩猟グループを率いていたスティーブン受刑者が国有地内で鹿を不法に撃ち殺した後、メンバーにマッチを配って「国中を燃やす」よう指示したと証言したという。
占拠集団はハモンド親子の釈放に加えて、マルヒュア国定鳥獣保護区の管轄権放棄を連邦政府に要求している。占拠メンバーの中には、2014年に公有地で放牧する権利をめぐり、反政府を掲げて当局と武力衝突した中心メンバーだったネバダ州の農場主、クライヴン・バンディ氏の息子も含まれている。
ミリシアによる保護区の占拠はインターネット上で賛否両論を巻き起こしており、中には「オレゴンのミリシアを『テロリスト』と呼ばないのは、彼らが白人でキリスト教徒だからだ」との意見もあった。【1月4日 AFP】
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放牧する権利をめぐり保安官に武器を持って抵抗する牧場主・・・西部劇です。
事件の発端となったハモンド親子は、バンディ氏らの民間武装集団とは距離を置いており、当局に出頭したうえで大統領恩赦を求めているようですが、バンディ氏らは占拠を続けています。
****米の武装市民立てこもり、数十年続く政府との地権闘争が背景に****
米西部オレゴン州で発生した、武装した市民らによる野生生物保護区の占拠は、5日目となった6日も続いている。
この事件は、地方部の市民らが国有地の奪還を目指す動きが高まっている米国で、数十年にわたり続いてきた土地所有権をめぐる議論を反映している。
オレゴン州での立てこもりは、国有地に放火した罪で農場主2人が投獄されたことがきっかけだったが、専門家らは、土地所有権をめぐる議論の核心はさらに根深く、西部の各州で政府の管轄下にある牧草地や森林をめぐる権利や、鉱山での採掘許可なども関係していると指摘する。
米コーネル大学のジェラルド・トレス教授(法律学)は、「われわれが直面している問題は、その土地を所有したことなど一度もないのに、それを自分のもののように扱う人々にどう対処するかということだ」と説明。
こうした人々は「所有権ではなく使用権を与えられているだけ。連邦政府の管理担当者らを、まるで大君主、または、土地を実際に耕さない人々であるかのようにとらえている」と指摘した。
政府の資料によれば、米国の国有地は西部に集中しており、西部13州の土地の半分余りが国の管理下にある。さらに連邦政府がここ数十年、環境規制を守るために鉱業や放牧、農場経営の権利の制限を強めてきたことも、地元民のさらなる反感を買っている。
■「無政府状態だ」
オレゴン州の町バーンズ)近郊で先週末、野生生物保護区の占拠を始めたのは、農家や農場主、サバイバリスト(大惨事に生き残るために食糧や武器を備蓄する「生き残り主義」の信奉者)たちの緩いつながりによる集団だ。
国有地に放火した罪で収監された農場主2人を支持することが目的とされているが、当の農場主2人は、多くの地元民と同様に、「憲法上の自由のための市民」と名乗るこの武装集団とは距離を置いている。
バーンズのレン・ボーズ元町長は米紙ワシントン・ポストに「無政府状態だ」「ここでは、『力は正義なり』という古臭い考え方がまかり通っている」と語った。
だが、ボーズ氏をはじめとする人々は、オレゴンの武装市民らが用いる戦略には賛同できないとしている一方で、彼らの行動は、国民の運命に対する政府の行き過ぎた管理との見方が多い問題への不満の高まりを反映していると認めている。
トレス教授は、1970~80年代に起きた「よもぎの反乱」と呼ばれる運動を例に挙げている。この運動は、連邦政府による土地の管理をめぐる大改革を要求したもので、故ロナルド・レーガン元大統領の支持も得ていた。
トレス教授は「農業と牧場経営業が圧迫されると、放牧料の値上げや、放牧料の徴収そのものも攻撃として受け止められる」「さらに、絶滅危惧種保護のための放牧の制限や、灌漑の制限が、これに重なる」と指摘している。【1月7日 AFP】
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土地をめぐる個人と政府の争い、公的規制に対する抵抗、銃を持って実力行使・・・・いかにもアメリカ的にも思えますが、成田空港建設にかかる三里塚闘争なども銃器こそ登場しませんが、似たような争いと言えなくもありません。
「オレゴンのミリシアを『テロリスト』と呼ばないのは、彼らが白人でキリスト教徒だからだ」・・・・賛成です。
アラブ系住民、イスラム教徒の起こす事件だけをテロ呼ばわりするのはメディアの二重基準です。
実際にも、ハモンド親子は連邦政府のテロリズム取締り法が拡大解釈された規定に基づいて放火罪で有罪判決を受けており、「彼らのような牧場主をテロリストとして審理にかけるような政府は、信用しがたい」と抵抗者側は考えているようです。
もし、今回のように「政府は私たちを痛めつけ虐げ、私たちからすべてを奪っています」と主張するイスラム教徒集団が武装して公的施設を占拠すれば、テロリストとして直ちに射殺されているでしょう。