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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州難民問題  デンマークの「財産没収」法案とシャルリー・エブドの風刺画

2016-01-15 22:02:28 | 難民・移民

(昨年9月にトルコの海岸に遺体が打ち上げられた男児(左上の丸の中)と昨年大晦日にドイツ・ケルンで起きた難民・移民らによる集団暴行事件を結び付けた、「シャルリー・エブド」の風刺画 【1月15日 CNN】)

ドイツ:ケルン集団暴行事件で一層厳しさを増す難民への国民世論
“欧州で冬の寒さが厳しくなるにつれ、難民をめぐる政治の雰囲気も凍るような冷たさになっている。昨年中東やアフリカから欧州大陸に何十万人もの難民が押し寄せたとき、多くの国々の反応は寛大だった。今では到着する難民に反感を抱く有権者も出てくる中、各国政府が厳しい対応に転じている。”【2016年1月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙社説 1月15日日経より】

“凍るような冷たさ”を更に厳しいものにすると思われるのが、昨年大晦日にドイツ・ケルンで起きた難民・移民らによる集団暴行事件でした。(1月9日ブログ「ドイツ・ケルン 大晦日、難民らも加わった集団暴行事件 厳しさを増すと思われる難民らへの視線」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160109

ドイツ・メルケル政権は事件を受けて、罪を犯した難民申請者への対応を厳格化する方針を打ち出していますが、これで世論が収まるかどうかは不透明です。

****難民が犯罪」揺れる独 申請者、ケルンで集団暴行容疑****
難民受け入れに積極的なドイツのメルケル首相が新年早々、窮地に立たされている。

西部ケルンで昨年の大みそかに女性への強盗や暴行が多発し、容疑者の中にアフリカや中東からの難民申請者が多く含まれていたことが判明。難民に対する国民感情は悪化し、受け入れ反対派が勢いを増す。

 ■政権に批判、退去厳格化の動き
「ケルンで大みそかに起きた事件は、忌まわしい犯罪であり、断固とした対応が求められる」
メルケル氏は9日、独西部マインツで会見し、強い口調でこう語った。

事件は昨年12月31日の深夜から元日の未明にかけて、ゴシック建築が美しいケルン大聖堂が見下ろす中央駅周辺で起きた。年越しを祝う群衆にまぎれ、男らが集団で通行人の女性を取り囲み、痴漢行為や暴行に及んだり、財布やハンドバッグなどを奪ったりしたという。

地元警察は9日、女性からの被害届が379件に達しており、窃盗や傷害のほかに、女性への痴漢行為や暴行に関する届け出も約4割に上ると明らかにした。

内務省は8日、確認できた容疑者は32人で、うち22人が難民申請者だったと発表。容疑者には、少人数のドイツ人や米国人も含まれているが、大半はアルジェリアやモロッコ、イラン、シリアなど中東や北アフリカの出身者で、捜査対象の76件中12件が性的犯罪の容疑という。独有力誌シュピーゲルによると、難民保護施設などから盗品の携帯電話も見つかったという。

また、大みそかの夜にはケルンだけでなく、北部ハンブルクや南部シュツットガルトでも同様の事件が起きていた。一連の事件は突発的ではなく、年越しの集まりを狙った計画的な犯行との見方も出ているが、全容は解明されていない。

難民支援に積極的に取り組むドイツの人々に、事件は大きな衝撃を与えた。

事件への対応が不適切だったとして8日、ケルンの警察トップが更迭された。難民・移民に批判的な新興右派「ドイツのための選択肢」(AfD)は「難民流入時の管理不備が原因だ」と政権を批判した。

9日には、「反イスラム」デモを続けている団体「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人」(通称ペギーダ)らの呼びかけで、約1700人がケルン中心部でデモを行い、「性犯罪を起こす難民を追い出せ」などと訴えた。デモ隊の一部が暴徒化し、警官隊と衝突する騒ぎも起きた。

これに対し、難民排斥に反対するデモも行われ、1千人以上が「ナチスは出て行け」などと訴えた。

ケルンの事件を受け、メルケル氏の与党キリスト教民主同盟は9日、警察の取り締まり強化に加え、有罪判決を受けた難民申請者への対応などを協議。3年以上の実刑を受けた場合などに難民申請者を国外退去させる規定になっている現在の制度について、厳格化するよう政府に法改正を求めることで一致した。

メルケル氏も9日の会見で、罪を犯した難民申請者について「執行猶予付きか実刑かに関わらず、ドイツに居住する権利を失う」と明言。厳格化が「独国民だけでなく、ドイツで暮らす大半の難民にも利益になる」と理解を求めた。

 ■流入110万人、歓迎薄れる 世論調査「不利益」41%「有益」38%
「我々は成し遂げられる」を合言葉に、メルケル氏は難民受け入れでの結束を国民に呼びかけてきた。

戦後ドイツの歴代政権は、難民や移民を積極的に受け入れてきた。多様性を重んじる独社会の人権意識に加え、ナチスによるユダヤ人らの大量虐殺(ホロコースト)や、その後、多くの難民を生み出した過去への反省が背景にある。

ドイツでは経済成長に伴い、現在50万人の労働力が不足しているとされ、特に看護や介護、建設分野で人材が求められている。一方で日本と同様に少子高齢化が進んでおり、経済界を中心に難民を新たな労働力として期待する側面もある。

独メディアによると、ナーレス労働相は昨年12月の議会で、「2016年中に数万人の難民がドイツの労働市場に参入できる」との見通しを示した。

戦後、トルコなどから多数の移民を受け入れた経験から、社会統合のシステムも確立している。認定審査を経てドイツに居住が認められた難民たちは、政府の「統合コース」に従い独語はもちろん、歴史や文化など独社会に溶け込むためのスキルをたたき込まれる。

だが、ドイツ市民の難民歓迎ムードはここにきて急速に下火になりつつある。

中東シリアなどからドイツに入った難民は昨年1年間で、当初の予想80万人を超える過去最多110万人に達した。地方政府ごとに受け入れを割り当てているが、保護施設が不足し、対応する職員も足りない。異なる文化や宗教の難民同士がいさかいを起こし、警察が出動する事態もたびたび起きている。

難民流入の玄関口となっている独バイエルン州のゼーホーファー首相は、受け入れ数は「年間20万人が社会の限界だ」と言い切る。

パリで昨年11月に起きた同時多発テロでは、実行犯が難民に紛れて欧州に渡っていた可能性が高まっている。

ドイツでもテロへの脅威が高まるなか、極右勢力による保護施設への襲撃や放火は昨年1千件を超え、前年の2倍以上に。反難民デモも収まる気配はない。

難民受け入れを進めるメルケル政権だが、難民支援策をめぐり、ドイツの世論は二つに割れつつある。
独公共放送が事件後に行った世論調査では、41%が難民流入はドイツに「不利益」と回答。「有益」の38%を上回った。また、68%が国内でテロが起きることが「不安」と答えた。

冬場に入って鈍化している難民の流入も春になれば、再び勢いを増す。難民に対する国民感情が悪化すれば、メルケル政権への反発が広がりかねない。政権は、「憎むべきは難民ではなく犯罪だ」(政府報道官)と国民に理解を求めている。【1月11日 朝日】
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デンマーク:ナチス・ドイツを思い起こさせる難民から財産没収
難民への風当たりが強まるなかで、難民申請者から一定額以上の財産を押収して滞在施設運営費にあてるというデンマークの法案が物議を醸しています。

****移民の現金没収」法案、デンマークで可決へ****
デンマークで、移民らが所持している一定額以上の現金や貴重品などを、難民申請者向けの一時滞在施設の利用料として没収することを定め、物議を醸している法案が、議会で可決される見通しとなった。

ラース・ロッケ・ラスムセン首相率いる少数与党政権は12日、法案の修正案について、協力関係にある右派3党から支持を取り付け、議会の過半数の賛成を確保した。法案は13日に審議入りし、26日に採決が行われる予定だ。

法案は、移民の所持金のうち1万デンマーク・クローネ(約17万円)を超える現金や、同額を超える価値がある所持品を、当局が没収することを認めるというもの。

腕時計や携帯電話、コンピューターなどは没収される可能性があるが、結婚指輪や婚約指輪、家族写真、勲章など思い出の品は対象外とされている。

移民らが金品を所持していないかどうか持ち物を調べるというこの計画をめぐり、インガ・ストイベア統合相は非難の嵐にさらされ、ナチス・ドイツをほうふつさせるという批判も浴びている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も6日、デンマーク政府の法案について、「恐怖や外国人嫌悪をあおる恐れや、世界各地で保護希望者の居場所を広げるのではなく、逆に狭める同様の制約につながる恐れのある」メッセージを他国に送るものとして、懸念を示していた。【1月13日 AFP】
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デンマークの人口は560万人で、昨年受け入れた難民申請希望者の数は2万1000人ということで、日本の人口規模であれば45万人に相当します。

大変な負荷がかかっていることは間違いありません。増え続ける難民が公共サービスを圧迫するなどとして国民の反発が強まっています。
デンマークでは、2015年6月18日に実施された総選挙で、反移民などを標榜する「デンマーク国民党」(DPP)が得票率21.1%で37議席を獲得し、第2党に躍進したことに見られるように、反移民の世論が高まっています。

DPPなど反移民政党と連立を組む形で、中道右派政党が4年ぶりに政権復帰を果たしています。

今回法案について、インガ・ストイベア統合相は、同様の措置は福祉手当を申請するデンマーク人にも適用されていると説明しますが、“この案は多くの絶望している人々がまずデンマークに入るのを思いとどまらせるため、無慈悲さを示しているのとあまり変わらないようにみえる。”【前出 英フィナンシャル・タイムズ紙社説】

どうしても、第2次世界大戦中にナチス・ドイツがユダヤ人を虐殺した際の財産没収を思い起こさせるものがあります。

【前出 英フィナンシャル・タイムズ紙社説】は、欧州各国のとるべき難民対応について以下のように論じています。

****[FT]難民から財産没収、酷なデンマークの抑制策(社説****
■共通のアプローチ必要
こうした難民の流れは、ひとつの欧州連合(EU)加盟国から他の加盟国にその負担を移転するような「近隣窮乏化政策」では管理しきれないだろう。
それよりも、欧州で共通のアプローチを取ることが不可欠だ。

加盟28カ国は域外との境界に強力なEU国境警備隊を配置し、新たな入国希望者を到着地点で管理することに同意すべきだ。
現在イタリアとギリシャにいる何万人もの難民はEU内に再移住させる必要がある。

欧州委員会はEU首脳に対してこうした提案への署名をたびたび促してきたが、残念ながら支持はなかなか集まらない。

この難民危機は欧州の戦後史上で最大となるかもしれない。EU首脳がこの問題を乗り越えられるかどうかは予測できない。

確かなのは、デンマークが検討しているような狭量なポピュリスト政策は問題解決に何の役にも立たないということだ。

それらは欧州が70年間繁栄の基礎としてきた人道的な価値観を傷つけるだけだ。【2016年1月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙社説 1月15日日経より】
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フランス「シャルリー・エブド」:思いやりに欠ける風刺画
“人道的な価値観”ということで言えば、フランスの風刺週刊紙「シャルリー・エブド」が掲載した、ドイツ・ケルンで起きた難民・移民らによる集団暴行事件を受けた風刺画もザラつくものを感じます。

パリにある同紙のオフィスは昨年1月、イスラム教の預言者ムハンマドを描写したことに反発した武装グループによる襲撃を受け、編集者など12人が犠牲になり、表現の自由を象徴するものとして大きな反響を呼びました。

およそ風刺というものは、揶揄される側にとっては不快なものですが、溺死した男児を持ち出したところに“人道的な価値観”に反する醜悪な差別的なものを感じます。

****シャルリー紙、水死のシリア男児風刺で批判****
フランスの風刺週刊紙シャルリー・エブドが、昨年9月にトルコの海岸に遺体が打ち上げられた写真が世界中で話題となったシリア人男児、アイラン・クルディ君を題材にした風刺画を掲載し、ソーシャルメディア上で厳しい批判を集めている他、アイラン君のおばも怒りを表明している。

最新号に掲載された漫画は、同紙編集長の風刺画家リス氏によるもので、女性を追いかける変質者の絵に「幼いアイランが成長したなら、どんな大人になっていただろう?」「ドイツで尻を触る人さ」との文が添えられている。

これは、西部ケルンで昨年の大みそかに多数の女性が狙われ、移民の犯行が疑われている痴漢・暴行事件を示唆しているとみられる。

しかし、アイラン君のおばで、最近には自身の兄弟一家のカナダ移住を手助けしたティマ・クルディさんは「嫌悪感を覚える」と漫画を非難するコメントをツイッターに投稿。

さらに公営カナダ放送協会(CBC)に対し、「私たちは(アイラン君の悲劇を)少し忘れながら前向きに生きようとしている」と述べた上で、シャルリー・エブドの漫画のせいで辛さが全て戻ってしまったと訴えた。【1月15日 AFP】
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表現の自由と、ヘイトスピーチ的な人種差別の境界は難しいものがあります。
ただ、昨年9月にトルコの海岸に打ち上げられた遺体の写真を思うと、あまりに思いやりのない下劣な表現に思われます。
コメント (1)
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