孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  イスラム過激派の標的となる教育施設 武器携帯で自衛する教師

2016-01-27 22:51:44 | アフガン・パキスタン

(21日、パキスタン・チャルサダの大学襲撃を受け、ペシャワルの学校周辺で警戒に当たる警備員(AP=共同)【1月22日 東京】)

教育機関は「アラー(神)に挑戦する者を養成する場所だ」】
パキスタン・シャリフ首相は、就任当初はイスラム過激派「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」との交渉を掲げていましたが、2014年12月16日にTTPが起こした「ペシャワル学校襲撃事件」(TTP に所属する7人がパキスタンのペシャワルにある軍関連学校に侵入し、学校の生徒や職員を襲撃した事件。犠牲者は、8歳から18歳までの子供132人と職員9人の141人と報告されています)を機に、TTPとの対決姿勢を明確にし、軍の進める掃討作戦を支持する方向に転じています。

「テロ地獄」とも呼ばれるほどテロが横行するパキスタンですが、軍のTTP掃討作戦によって、一定にテロは減少してきたようですが、未だ根絶には程遠い状況です。

****掃討、逃れる過激派****
パキスタン政府は1年前の学校襲撃事件を米同時多発テロになぞらえて「パキスタンの9・11」と呼び、軍部は、TTPの本拠地でアフガン国境付近に広がる部族地域で掃討作戦を本格化させた。

難民化した住民は100万人以上。それに交じって、過激派の大半は都市部やアフガン側へ逃れたとみられている。

政府・軍部はアフガン政府にTTP幹部の拘束と引き渡しを求める一方、摘発の対象を都市部にも広げた。

報復される恐怖から有罪判決を出したがらない裁判官に代わって軍人がテロ犯を裁く軍事法廷を設置。08年の途中から凍結していた死刑執行を復活させ、300人以上の刑を執行し人権団体から非難を浴びた。

パキスタン治安当局によると、この1年間に国内で8万5千人が逮捕され、テロ事件の犠牲者数はほぼ半減した。

ただ、19日にもペシャワルの検問所を狙った自爆テロで11人が死亡するなど、完全になくなったわけではない。

バチャ・カーンの孫でANP党首のアスファンドヤル・ワリ・カーン氏は地元テレビに「テロリストは部族地域から追われただけで、根絶にはほど遠い」と語った。【1月21日 朝日】
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こうした状況で、ペシャワル近郊のチャルサダにある公立大学が襲撃を受け21人が死亡する事件が21日に起きました。TTPの一派が犯行声明を出しています。

****大学で乱射、20人死亡 TTP一派声明 パキスタン****
パキスタン北西部のチャルサダにある公立バチャ・カーン大学に20日午前(日本時間同日午後)、武装集団が押し入り、銃を乱射した。

軍の発表などによると、学生ら少なくとも20人が死亡、30人以上が負傷した。犯人は4人組で、軍部隊などに全員射殺された。イスラム過激派の反政府勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)の一派が犯行声明を出した。

チャルサダから約30キロ南西のペシャワルでは2014年12月、TTPが軍系列の学校に侵入して銃を乱射し、生徒ら約150人を殺害する事件が起きている。

犯行声明を出したのは、この事件で実行犯への指示役だった男で「ペシャワルでの作戦後、収監された多数の仲間が処刑されていることへの報復」と述べた。シャリフ首相は「罪のない学生を殺す者に信仰はない。必ずテロを根絶する」との声明を出した。

大学は12年開学。男女共学で、学生約3千人と教員ら約500人が在籍する。襲撃当時は定期試験などが行われており、大半が構内にいたとみられている。

大学の警備責任者によると、大学には50人以上の警備員が配置されていたが、武装集団は霧に紛れて大学の裏手の塀を越えて侵入した。複数の校舎に立てこもり、学生や教官に向けて無差別に銃を乱射。手投げ弾とみられる激しい爆発音も断続的に起きた。(中略)

バチャ・カーンは、英植民地時代の独立運動指導者の名前。パキスタン北西部の世俗政党「アワミ民族党(ANP)」の前身組織の創始者でもある。

20日は同氏の没後28周年にあたり、詩の朗読会が予定されていた。ANPは13年まで地元州政府を率い、軍と協力してTTP鎮圧を進めた。このため、しばしばTTPの攻撃を受けている。【1月21日 朝日】
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犯行声明の中で、大学などの教育機関について、「アラー(神)に挑戦する者を養成する場所だ」と主張し、今後も標的にすると宣言しています。

****大学は「アラーの挑戦者」養成=武装勢力が声明―パキスタン****
AFP通信によると、21人が犠牲となったパキスタン北西部ペシャワル近郊の大学襲撃事件で犯行声明を出した武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)一派のウマル・マンスール司令官は22日、フェイスブックでビデオ声明を出し、大学などの教育機関について、「アラー(神)に挑戦する者を養成する場所だ」と主張し、今後も標的にすると宣言した。

ビデオ声明で、司令官は大学を「(アラーに挑戦する)弁護士や軍将校、国会議員をつくる場所」と位置付けた。その上で、「パキスタン全土にある背教者を生み出す学校や大学を破壊する」と述べた。【1月22日 時事】 
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欧米的な教育を「反イスラム」の根源と見なす考えは、ナイジェリアなどで襲撃・殺戮・拉致を繰り返すイスラム過激派「ボコ・ハラム」(“ボコ・ハラム”は「西洋の教育は罪」という意味)とも共通しています。

TTPに襲撃された後も若者や子どもたちの権利を守る活動を続けているパキスタンの少女、マララ・ユスフザイさんが教育をパキスタン再生の原点と考えるのとは対極にあります。

“4人の実行犯全員が20歳前後だったことも判明。軍によるテロ掃討作戦でパキスタンを追われた武装勢力が、大学生と同年代のテロリストを選び、報復テロを企てたとみられる。”【1月21日 時事】とも。

TTP内部分裂
なお、今回の大学襲撃についてはTTP報道官は声明で関与を否定しており、TTP内部でISに共感する勢力が独断で犯行に及んだと、TTPの内部分裂も指摘されています。

****<パキスタン>大学テロ、IS影響か…過激派、思想に共感****
パキスタン北西部チャルサダの大学が襲撃された事件で、犯行声明を出した国内最大の武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の分派を名乗るウマル・マンスール司令官は、かつて過激派組織「イスラム国」(IS)への参加を表明したことがあると言われる。

ISとどう関わっているのかは不明だが、少なくともISの思想に共感しているとみられる。ISの影響を受けたマンスール司令官が、独断で今回の事件を起こした可能性がある。

事件後にマンスール司令官が犯行声明を出す一方、TTP報道官は声明で関与を否定し「イスラム法に反する」と非難した。ロイター通信によると、TTPは先月、IS指導者のバグダディ容疑者を批判する声明を出している。ISへの対応を巡り、TTP内で分裂が進んでいる可能性がある。

パキスタンでは2014年12月、チャルサダから約25キロ離れた都市ペシャワルで軍が運営する学校が襲撃され、生徒ら140人以上が死亡した。マンスール司令官はこのときの事件で犯行声明を発表。その後、ISに参加を表明するビデオ声明を出したと言われる。

パキスタンでは14年10月、TTPの一部幹部がISに加わるため離脱を表明。ISは現在、アフガニスタン東部ナンガルハル州の一部地域を支配しているとされ、アフガンなどで散発的にテロ攻撃を実施している。【1月21日 毎日】
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教師が銃携帯「自分と生徒たちを守りたい」】
ペシャワルの軍関連学校に続いてチャルサダの大学が襲撃され、犯行グループが「パキスタン中の学校や大学への攻撃を続ける。背教者を生み出す基盤だからだ」としていますので、パキスタンの学校は警戒を強めることを余儀なくされています。

****際どい最終防衛線、武装許された教師たち パキスタン****
パキスタン北部ペシャワルにある小学校のナビード・グル校長は、武装した守衛が立つ校門を通って、校長室へ向かう。屋外で児童が午前の授業を受ける中、グル校長はセーターの中に手を入れ銃を取り出し「この拳銃は中国製で、全く問題なく作動する」と話した。

ペシャワルがあるカイバル・パクトゥンクワ州では20日、武装集団がバチャ・カーン大学を襲撃、21人が死亡する事件があった。

事件では、学生たちをかばいながら拳銃で反撃したサイード・ハミド・フセイン助教授(当時33)が死亡した。これを機にパキスタンでは教師の武器携帯をめぐる議論が再燃した。

同州では、バチャ・カーン大学の襲撃でも犯行声明を出した、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が2014年にペシャワルの学校を襲撃、生徒ら150人以上が死亡した事件を受けて、教師の武器携行が認められている。

グル校長は机の引き出しに銃を素早くしまいながら、学校に銃があることで安心できるとし、「銃を持っていれば戦える」と話した。

心理学者は米国の銃乱射事件と関連して、心的外傷後ストレスは、偏執症のような過度の警戒心につながる可能性があると指摘しているが、グル校長はむしろ冷静だ。「自分と生徒たちを守りたい」と校長は銃を携行する理由を説明した。

2012年にマララ・ユスフザイさんが襲撃された事件なども含め、パキスタンでは長らく教育が武装勢力の標的となっている。TTPも、学校はアラー(神)の教えに背く者の「養成所」だと主張し、今後も学校や生徒を標的にすると誓っている。

カイバル・パクトゥンクワ州政府の報道官は、州内には学校が6万8000校あるのに対して警察官は5万5000人という状況から、政府は十分な安全を確保できないと説明し、そのため、武器携行の許可を求める教師たちからの要請を認めざるを得なかったと述べた。実際に襲撃に遭った場合、教師が武器を使用しても問題はないという。

一方、ペシャワルを拠点とするアナリストで退役軍人のサード・カーン氏は、「教師は若い男たちだ。戦闘が起きて誰かが銃を持っていればエスカレートするだけだ」と述べ、教師の武装は「愚かだ」と批判している。【1月27日 AFP】
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学校での銃乱射事件を繰り返すアメリカでも教師等による武器携帯を主張する考えがあります。

アメリカの場合は、自衛のための銃所持を進めるよりは、乱射事件を生む背景となっている銃がほとんど野放しなっている現状を改善する方がまともな方策であるように思われます。

しかし、パキスタンの場合は相手が武装組織で、教育施設に狙いを定めて攻撃してくるという状況ですから、アメリカとは事情が異なります。

本来は治安部隊がそうした組織を封じ込めるのが本筋ですが、それがパキスタンではできていません。警備の人員も絶対的に不足しています。

パキスタンの詳しい状況がわかりませんので何とも言い難いところですが、教師の銃携帯を一概に否定できないことがパキスタンの苦しい現状です。

アフガニスタンと一体的に取り組む必要
いずれにしても、パキスタンのTTPは事あればアフガニスタンに逃げ込み、アフガニスタンのタリバンはパキスタン側に逃げ込み・・・ということで、両国が一体となって過激派対策にあたらない限り現状は改善されません。

そうした主旨を踏まえて、今月11日に、アフガニスタン政府と旧支配勢力タリバンとの和平について話し合うため、アフガンとパキスタン、米国、中国の代表による4カ国協議が行われましたが、現段階では目だった結果はまだ出ていないようです。

****タリバンとの対話目指す 中国、アフガン外相会談****
中国の王毅外相は26日、北京でアフガニスタンのラバニ外相と会談し、アフガン和平に向けた米国、パキスタンとの4カ国代表者協議を通じ、反政府武装勢力タリバンとの直接対話再開を目指す方針を確認した。テロ対策での連携強化でも合意した。

4カ国代表者協議は和平に向けた新たな枠組みで、今月2回開かれた。王氏は会談で、和平に向けロシアやインドなどの近隣国にも協力を呼び掛けるとした。(後略)【1月26日 産経フォト】
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