孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナとロシア 東部での戦闘は最近収まっているものの、両国関係は悪化

2016-01-06 22:55:20 | 欧州情勢

(ロシアサイドのメディア【1月2日 SPUTNIK】によれば、“ドネツク人民共和国国防省は、大晦日から新年にかけて、ウクライナ軍側が11回に渡り停戦違反したと伝えた。ウクライナ軍が、迫撃砲、戦車、歩兵戦闘車などを使ってドネツク空港地区、コミンテルノヴォ地区、クイブィシェフスキイ地区を攻撃した結果、人民共和国群の義勇兵ひとりが死亡、家屋2軒が損傷を受けた。”とのことです。)

輸入禁止で措置の応酬
軍事的衝突は小康状態にあるものの、債務返済問題や自由貿易協定を巡ってウクライナとロシアの対立が依然として続いていることは、12月19日ブログ「ウクライナ政府・欧米とロシアの対立の構図は継続の様相 ウクライナ政治の混乱も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151219でも取り上げました。

年が明けても事態は改善していません。
そんな両国関係を反映した話題も。

****コカ・コーラの新年あいさつ、露とウクライナで猛抗議受け削除****
米飲料大手コカ・コーラが消費者向けに投稿した新年のあいさつが、ロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島をめぐる怒りを両国で買ってしまった。

ロシアは2014年3月、黒海に突き出したクリミア半島を併合。この問題は両国間の危機の引き金となる要因として依然残っている。

事の発端は、ロシアで最も人気の高いソーシャルネットワーク「VK」にコカ・コーラが投稿した新年のメッセージに、クリミア半島を含まないロシアの地図が添えられていたことだった。

これに対しVKのロシア人ユーザーらが猛反発。これを受けて同社は5日、今度はクリミアも含めたロシアの地図を投稿し、謝罪した。

ついでに新しい地図には、日本が北方領土として領有権を主張する島々を含むクリール諸島(千島列島)も描かれていた。

しかしこの「修正」によりコカ・コーラは、今度はウクライナ側から集中砲火を浴び、同国内では不買運動の呼び掛けも始まった。

とうとうさじを投げた同社のウクライナ子会社は、問題の新年メッセージを削除した。また米国のコカ・コーラ本社も5日に声明を出し、今回の問題について謝罪。

その一方で「地図はコカ・コーラ・ロシアがクリスマスキャンペーンの一環として外部の業者に作成を委託したもので、この業者がその後、当社の関知しないところで許可なく改変した」として、責任はこの業者にあると主張した。【1月6日 AFP】
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前回ブログでも触れたように、ウクライナは対ロシア債務の返済を一時的に停止しました。

****ウクライナ情勢】対露債務返済を停止****
ウクライナのヤツェニュク首相は18日、ロシアに対する30億ドル(約3600億円)の債務返済を一時的に停止する考えを明らかにした。ロシアが債務再編に応じないためとしている。ロシアはウクライナに対し、法的措置を取る方針。

国際通貨基金(IMF)はウクライナの債務返済が滞っても支援を継続する方針を決定しているほか、米ファンドなど他の主要債権者は再編に同意しており、国際金融市場に大きな影響はないとみられる。

ロシア側は「返済停止はデフォルト(債務不履行)と同意だ」(ウリュカエフ経済発展相)と主張し、ウクライナへの批判を強めている。【12月19日 産経】
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EUは対ロシア経済制裁を半年延長することを正式決定。
また、ロシアが問題視しているウクライナとEUの自由貿易協定も、ロシアの反対を振り切って1月1日から発効しています。

****<EU>ウクライナ自由貿易協定で露との3者協議決裂****
欧州連合(EU)とウクライナの自由貿易協定を巡るEU、ウクライナ、ロシアの3者協議が21日、ブリュッセルで行われ、合意のないまま決裂した。
EUとウクライナはロシアに配慮し自由貿易協定の発効を延期していたが、来月1日に発効させる。ロシアは報復措置を取るとしており、EUとロシアの対立が再燃しそうだ。

EUは21日にロシアに対する経済制裁を来年7月末まで半年間延長することを正式決定したばかりだった。

交渉は閣僚級で行われマルムストローム欧州委員(通商担当)、ウクライナのクリムキン外相、ロシアのウリュカエフ経済発展相が参加した。

マルムストローム委員は会見で「ロシアには柔軟性がなかった」と非難、自由貿易協定が来月1日に予定通り発効することを明らかにした。

これに対し、ウリュカエフ露経済発展相は「我々の経済的利益を守るため一方的な措置を取らざるをえなくなった」と報復する姿勢を明確にした。ロシアのプーチン大統領は16日、ロシアとウクライナの自由貿易協定を来月1日に一時停止する大統領令に署名しており、対抗策として実施する構えだ。

3者交渉の対象になっていたのはEUとウクライナの関係を深化させる「連合協定」のうち、自由貿易協定を含む通商関係条項。連合協定は14年の3月と6月にEUとウクライナが署名。

政治分野の条項は14年11月に発効した。ロシア側は自由貿易協定を含む通商条項が発効すれば、EU産品の流入でロシア経済に打撃があると主張。EUとウクライナはロシアに配慮し通商条項の発効を16年1月1日まで延期、3者協議を続けていた。

EU側の発表によると、ロシア側は事実上、EUとウクライナの協定再交渉を要求。EU側は段階的な実施などを提案したが双方が折り合わなかった。

EUとウクライナの連合協定は、ウクライナのヤヌコビッチ前政権が13年11月にロシアの圧力で署名を拒否。反発した市民がキエフなどで大規模デモを行った。危機感を強めたロシアはウクライナ・クリミア半島を併合、さらに東部に軍事介入した。【12月22日 毎日】
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上記記事にもあるように、ロシアはウクライナ・EUの自由貿易協定発効への対抗策として、ウクライナとの自由貿易を一方的に停止し、EUに対する農産物の禁輸措置をウクライナにも拡大しました。
これにウクライナ側が更に禁輸で応戦する・・・という形で禁輸措置の応酬が行われています。

****ウクライナとロシア 輸入禁止で応酬続く****
ロシアがウクライナからの農産物の禁輸措置を取ったことへの対抗措置として、ウクライナはロシア産のウオッカや肉などの輸入を禁止すると発表し、両国の応酬が続いています。

ウクライナとEU=ヨーロッパ連合の自由貿易協定が1日、発効したことを受けて、ロシアは、それまで旧ソビエト諸国の枠組みで続けてきたウクライナとの自由貿易を一方的に停止し、EUに科している農産物の禁輸措置をウクライナにも拡大しました。

これに対しウクライナ政府も2日、ロシアとの自由貿易を停止したことを明らかにするとともに、今月10日からロシア産の食料品などの輸入を禁止すると発表しました。具体的な品目はロシア産のウオッカや肉、それに乳製品などで、輸入の禁止は、ことし8月まで、もしくはロシアがウクライナの農産物の禁輸措置を取りやめるまで続けるとしています。

ロシアとウクライナの間では、ロシアが30億ドル相当の債務の返済を迫っているのに対し、ウクライナは「EUとの自由貿易協定の締結を阻止するためにロシアがウクライナの前大統領へ贈った賄賂だった」などとして応じる姿勢を見せておらず、両国の応酬が続いています。【1月3日 NHK】
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停戦の方は2016年に延長することで合意されていますが、上記のような対立が激化すると停戦合意の枠組みが危うくなる危険もあります。

****<ウクライナ東部停戦>2016年に延長で独仏露など合意****
独仏露ウクライナの4首脳は30日、電話協議し、2月に合意したウクライナ東部での停戦合意を2016年に延長することで正式合意した。重火器の撤去など停戦を維持し、東部での地方選実施を目指す。2016年1月か2月に4カ国の外相会談で詳細を詰める。

当初の停戦合意では15年末を期限に、ウクライナ政府が東部の主権を回復する予定だったが、親露派武装勢力が実効支配し、ロシアが事実上、派兵する状況が続いている。

独政府の発表などによると、4首脳は停戦合意を16年に「完全に実施する」ことで合意。特に重火器撤去など停戦維持の重要性を強調した。

停戦合意は、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク州の「特別な地位」を認める法整備を行った上で地方選を実施することを定めている。

今回の4首脳協議では、地方選を16年前半に行うことを確認。作業グループが今月末までに選挙法案をまとめる。さらに4カ国外相が今月末か来月初めに会談し合意の実施状況を点検する。

欧州連合(EU)外交筋によると、停戦は大筋で実施されているものの、小競り合いはなお続いている。

またEUとウクライナは関係を深化させる「連合協定」のうち、自由貿易協定を含む通商関係条項を1日に発効させ、ロシアが対抗措置としてウクライナとの自由貿易協定を停止する。ロシア、EU、ウクライナの関係悪化で停戦維持への悪影響も予想される。【12月31日 毎日】
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クリミアへの電力供給停止 一方、都市ガスは・・・・
国家間の正式なやり取り以外にも、ロシアが一方的に編入したクリミアへの電力供給が「送電線の鉄塔故障」を理由に遮断されるといった不穏な動きもあります。

12月2日ブログ「“忘れられた”クリミア半島のタタール人の対ロシア抵抗運動」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151202で取り上げたように、昨年11月にもありましたが、年末にも起きたようです。

****<ウクライナ>クリミア停電、新たな火種 露は独自に対処****
ロシアが一昨年3月に一方的に編入したウクライナ南部クリミア半島で12月30日夜以降、広範な停電が起きた。ウクライナ側から電力を送る送電線の鉄塔故障が原因。

ウクライナ当局は「保安装置が作動した」と説明したが、ロシアでは、ウクライナが意図的に送電を停止したとの見方が支配的だ。ロシアは独自に送電強化策などを取り、対処している。

ロシアのプーチン大統領は、一昨年2月のウクライナ政変を「違法なクーデター」と位置付け、歴史的にロシア領だったクリミア半島で実施された住民投票を経てクリミアをロシア領に編入した。

ウクライナ政府や西側諸国は「国際法違反」だと非難し、対露制裁を科したが、ロシアは返還を拒否し、統合を図ってきた。

ウクライナ政府は今回、クリミアへの電力供給再開に当たり「クリミアはウクライナ領」と明記した新たな契約書の締結をクリミア当局とロシア側に要求した。

これに対し、ロシアは、そのような契約を結ぶべきかを問う世論調査をクリミアで実施。2日のロシアメディアの報道によると、回答者のうち「反対」が93%に上った。

「圧倒的多数が反対」との暫定集計を受け、ペスコフ露大統領報道官は1日、「プーチン大統領は、ウクライナ側の条件での契約署名は拒否するだろう」と述べた。一昨年の住民投票に続き「民意」を根拠にクリミア支配を継続する意思の表明だ。

クリミアへの送電停止は昨年11月に続き2度目。前回はウクライナ側で送電塔が何者かによって爆破されたのが原因だった。ロシア非常事態省がディーゼル発電機を大量に持ち込むなどして供給を回復するまで約2週間、クリミア全土で電力供給が止まった。

ロシア側によると、今回の停電による電力不足は全需要の約15%にとどまった。ロシアメディアによると1日にはロシア側の対処で供給はほぼ復旧した。

ウクライナと欧州連合(EU)は1日、双方の関係強化を図るための「連合協定」に含まれる自由貿易協定を発効させた。「連合協定」の締結は一連のウクライナ危機の大きな原因となっていた。自由貿易協定発効を受け、ロシアはウクライナからの食品禁輸措置を導入。ウクライナもロシア産品の禁輸措置を取った。

ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力とウクライナ政府軍の戦闘は、最近収まっているが、両国関係は悪化の一途をたどっている。【1月3日 毎日】
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一方、クリミアとウクライナ南部を巡る都市ガスの問題。

上記のような電力遮断問題がありましたので、今度は都市ガスをウクライナ側が遮断したのか・・・と最初思いましたが、そうではなく、都市ガスが途絶している南部ウクライナにロシア・プーチン大統領の「配慮」でウクライナから供給開始するといった話のようですが、ウクライナ側は「ロシアによる宣伝工作だ」と反発しているとか。

****ロシア ウクライナの都市にガス供給と発表****
ロシアは、併合したクリミア半島に隣接するウクライナ南部の都市に対して、現地からの要請でガスの供給を始めたと発表し、対立するウクライナに揺さぶりをかけるねらいがあると受け止められています。

ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は4日夜、おととし3月に併合したクリミア半島に隣接するウクライナ南部の都市ゲニチェスクに対し、市長からの要請で、暖房用のガスの供給を始めるよう関係機関に指示したということです。

これを受けてクリミアの行政府は、パイプラインでつながるゲニチェスクに対してガスの供給を開始したと明らかにし、国営メディアも、ロシア政府がウクライナ南部の住民に迅速な支援を行うことになったと大きく伝えています。

これに対して、ウクライナ国営のガス会社は「ロシアによる宣伝工作だ」としてロシアによる支援を否定したほか、地元メディアも、ゲニチェスクの市長が支援は要請していないと述べたとしています。

ゲニチェスクは、ロシアとクリミア半島の間の戦略的に重要な地域に位置していることから、ロシア側には、この都市への支援を強調することで、対立するウクライナに揺さぶりをかけるねらいがあると受け止められています。【1月5日 NHK】
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どうしてウクライナ南部で都市ガスが止まっているのか、実際にクリミアから供給がなされたのか等、よくわからないところもある話ですが、なかなかロシア・プーチン大統領もしたたかです。

シリアに重心を移しているロシアとしては、ウクライナで再び戦火を交える意図は今のところないと思われますが、停戦合意が目指すウクライナ政府の東部での主権回復、東部への自治権付与、東部での地方選実施にまで漕ぎつけるどうかは、ウクライナ側の政治情勢の混迷もあって不透明です。

ロシア側にも禁輸の“痛み”が
なお、ロシアは欧米、ウクライナ、更にはシリア国境でのロシア軍機撃墜事件を巡ってトルコとも禁輸措置を発動しており、国内の市民生活への影響も大きくなってきています。

****<ロシア>貧富の格差拡大…原油安や経済制裁ズシリ****
原油安や米欧の経済制裁に苦しむロシアで、貧富の格差が深刻化している。昨年1〜9月期における貧困者数は前年同期より230万人増加した。

一方、クレディ・スイスの調査によると、ロシアでは現在、上位1割の富裕層が国内の家計資産の約9割を保有し、米国や中国以上の富の偏在が生じている。

露連邦統計庁の発表によると、2015年1〜9月期における貧困者数は2030万人で、国民の14.1%が貧困ラインとされる月9673ルーブル(約1万6000円)以下の収入で暮らす。

全ロシア世論調査センターが先月中旬に実施した全国世論調査では、「新しい衣類を買う余裕がない」と回答した世帯の割合は39%に上り、1年前の1.7倍となっていた。

昨年9月時点の別の世論調査では国民の7割が「過去15年で貧富の格差が拡大した」と答えた。

プーチン大統領は先月17日の年末記者会見で「ロシア経済の危機はピークを越えた」と豪語したが、首都モスクワでも街頭で物乞いする年金生活者らの姿が目立つ。年末会見では、政権上層部の子息ら「特権階級」の出現を危惧する質問もあった。

ウクライナ危機など外交面での対立を受け、ロシア政府が米欧やトルコなどの食料品を禁輸したことも影響し、15年の年間物価上昇率は暫定値で12.9%となり、13.3%を記録した08年以降で最高。特に貧困世帯の家計にとっては大きな痛手だ。【1月5日 毎日】
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