孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  政権移譲のソフトランディングを進めるスー・チー氏

2016-01-31 21:57:45 | ミャンマー

(スー・チー氏も出席しての議会を去る軍政議員のお別れ会。こちらはいち早く、軍部、少数民族を含む国民和解が進んでいるようです。【1月29日 AFP】)

【「挙国一致」態勢を目指す
ミャンマーでが明日2月1日、新議会が招集されますが、アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)が与党となり初めて国政を担うこととなります。

良くも悪くもNLDはスー・チー氏がすべての決定権を有する「個人商店」であり、政策・人事についてもスー・チー氏が決定するという態勢です。

****発言権は「スー・チー氏のみ」=人事情報漏れに不快感か―NLD****
昨年11月の総選挙で勝利した国民民主連盟(NLD)は22日、NLDの政策や政権移行の問題に関して発言できるのは「アウン・サン・スー・チー党首以外いない」と強調する声明を発表した。今春のNLD政権発足を前に人事情報が漏れ始めたことに、スー・チー氏が不快感を示したようだ。

AFP通信は20日、NLDのニャン・ウィン報道官の話として、NLDは2月1日に招集される上下両院の議長と副議長の1人に少数民族の政治家を起用すると報道。しかし、NLDの別の報道担当者は21日、地元メディアに「まだ最終的なものではない」と打ち消したと伝えられていた。

今回の声明は、政権発足を前に党内の引き締めを図る意味合いがあるとみられるが、「情報統制」と反発を呼ぶ可能性もある。【1月22日 時事】
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厳しい「情報統制」は、スー・チー氏が政権移行を円滑に進めようと慎重になっていることのあらわれでもあります。

そうしたなかで、少しずつ人事情報も公表されてきていますが、少数民族や現政権与党・連邦団結発展党(USDP)などにも人材を求め、「挙国一致」態勢を目指しているようです。

****スー・チー氏、新議会の正副議長人事案を公表 軍系や少数民族も起用****
ミャンマーの次期政権を担う国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首は28日、2月1日に始まる新国会で選出する上下両院の正副議長候補の人事構想を明らかにした。首都ネピドーで当選議員らに公表した。

議長候補はいずれもNLDメンバーで、下院はスー・チー氏側近のウィン・ミン氏、上院はマン・ウィン・カイン・タン氏。

副議長候補には、下院が軍系の現与党、連邦団結発展党(USDP)から、上院は西部ラカイン州の少数民族政党アラカン民族党(ANP)から、それぞれ選ばれる。

ウィン・ミン氏以外の3人は少数民族の出身。主要民族のビルマ族以外と選挙で大敗したUSDPからの登用で、「国民融和」姿勢を打ち出す狙いとみられる。

NLDは昨年の総選挙で、上下両院の過半数の議席を獲得しており、人事案は賛成多数で承認される見通しだ。【1月28日 産経】
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****ミャンマー次期政権「閣僚の半数はスー・チー党以外」 NLD幹部、少数民族・軍系含め挙国一致の意向****
ミャンマーの次期政権を担う国民民主連盟(NLD)の幹部ウィン・テイン氏は30日、一部報道機関の取材に対し、新閣僚の半数程度をNLD以外から起用する方針を明らかにした。

少数民族政党や軍系の現与党、連邦団結発展党(USDP)などから幅広く人材を集め、挙国一致の態勢づくりを目指すとみられる。

アウン・サン・スー・チー氏率いるNLDは昨年11月の総選挙で圧勝。スー・チー氏は憲法の規定により大統領になれず、2月1日に招集される新議会では大統領や閣僚人事に注目が集まる。

ウィン・テイン氏は組閣について「半数程度がNLD党員ではない」と述べ、スー・チー氏の就任がうわさされた外相もNLD以外から起用すると説明した。

また、大統領にスー・チー氏以外の人物を暫定的に充て、憲法を改正してスー・チー大統領の実現を図る考えを示した。【1月30日 共同】
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「挙国一致」態勢は、よく批判されているようにスー・チー氏の「個人商店」NLDで人材が育っていないこともあるのでしょうが、方向としては好ましいことに思われます。

軍部との関係は今のところ概ね良好に推移 ただし、今後は・・・・
懸念されていた政権交代にあたっての軍部との関係についても、下記の報道などを見ると、概ね良好に推移しているように思われます。

****ミャンマー軍政議員、カラオケでお別れ****
「夢はかなう」との英語の歌詞を歌い上げ、ミャンマーの軍政トップは29日、議員らに別れを告げた。──長らく続いたミャンマー軍政のエリートたちは、歌と踊りで自身たちの退陣をしるした。

議会では、アウン・サン・スー・チー氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)への政権交代を歓迎し、29日午後の閉会後にパーティーが開かれた。少数民族の議員らが踊りを披露し、他の議員たちは歌を歌うなどした。

NLDに議席を奪われ、議会を去ることになった軍政議員たちは、歴史的な政権交代に対し、カラオケを通じて温厚な対応を取った。

「あなたが健康でありますように、強くありますように、一生ずっと喜びにあふれていますように」と、軍政元ナンバー3のシュエ・マン下院議長は歌い上げた。

シュエ・マン氏は、NLDと対立する政権与党の指導者でありながら、議会でスー・チー氏を支援した。シュエ・マン氏は「夢はかなう」との英語の歌詞を歌い続け、新旧議員らに一緒に歌うよう呼びかけた。

元将軍らで構成される連邦団結発展党(USDP)は、昨年11月の総選挙でスー・チー氏が歴史的勝利を収めて以降、潔い対応を見せてきた。

会場の最前列に座ったスー・チー氏は冒頭のあいさつで、自身の政党が政権に就く道を開いたと、議会を去る議員たちをあたたかく祝福するスピーチを行った。【1月30日 AFP】
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今後スー・チー政権のもとで、軍部が有する既得権益に踏み込む施策がとられたときに、「元将軍らの潔い対応」が続くのかは保証がありませんが。

逆に言えば、スー・チー氏の目指す「変革」を実現するためには、いつまでも元将軍らと仲良し状態という訳にもいかないでしょう。軍部には、スー・チー氏を制御できるという余裕がまだあるとも言えます。

軍部の制御を振り切ろうとすれば、いずれギリギリした緊張場面を迎えることも・・・。

****勝者に立ちはだかる国軍の壁****
1988年の民主化運動で政治デビューして以来27年の長い時間を経て、アウンサンスーチーは国民の信託に基づきビルマの指導者として政治を司ることが可能となった。デビュー当時は43歳だった彼女も、いまや70歳である。

しかし、現実には厳しい局面が彼女とNLDを待ち受けている。まず憲法の資格条項による制約があり、アウンサンスーチーは大統領になれない。外国籍の家族がいる者を正副大統領の有資格者から除外することを定めたこの規定は、現憲法を制定した当時の軍事政権が、彼女を未来永劫、大統領にさせないためにつくったものである。このため、アウンサンスーチーは別の人物を大統領に据えコントロールする必要がある。

選挙運動の最後の段階で「私は大統領の上の存在になる」と明言した彼女だが、これは「たとえ大統領に就任できなくても、それは欠陥憲法のせいであり、自分は大統領を外からコントロールする存在となって国民のために闘う」ことを有権者に約束したものである。多くの有権者はこの発言で彼女の強い意思を確認し、NLDへの投票の気持ちを固めたと想像される。

ただ、彼女がだれを大統領に指名するにしても、組閣にあたっては国防、内務、国境担当の3つの大臣ポストは国軍最高司令官によって指名される決まりがあるため、軍と警察と国境管理に関する権限は合法的に軍に握られてしまうことになる。

憲法を改正するにしても、上下両院それぞれの75%+1名以上の議員の賛成がないと発議できないため、各院で25%の指定席を確保している軍人議員の一部がNLD側につかない限り、改憲は不可能となる。

国軍にとって現憲法は自分達が国政に深く関与するための命綱である。1988年から23年間にわたった軍政期において、15年もかけて慎重につくりあげられたこの憲法は、行政と立法の分野において様々な権限を国軍に与えている。その主なものを示すと次のようになる。

(1)上下両院、州・地域議会において、それぞれ25%の議席を軍人が確保する。

(2)憲法改正は上下両院それぞれの議員の75%+1名以上の賛成をもって発議され、そのうえで国民投票を実施し、有権者名簿登載者数の過半数の賛成を経て承認される。

(3)国防相、内務相、国境担当相については、国軍最高司令官が指名する。

(4)正副大統領計3名のうち、必ず1名は国軍関係者が就く。

(5)大統領が国家非常事態宣言を出せば、国軍最高司令官が期限付きで全権を掌握する。

これらに加え、既述したようにアウンサンスーチーを正副大統領に選出させないための「資格条項」もある。国軍はこうした憲法上の権限を基盤に新しく発足するNLD政権を合法的(・・・)に(・)制御できる立場にある。

総選挙でのNLD圧勝は国軍から見て「痛痒い」程度のショックだったのではないかと想像される。彼らは今、憲法上の規定を思う存分活かし、NLD政権を強く牽制することを考えているとみなして間違いない。

したがって、アウンサンスーチーが対話を通じて国軍に憲法改正に向けた説得をおこなおうとしても、それは無視される可能性が高い。

すでに総選挙前にNLDが中心となって憲法改正の発議を両院で一年間かけて試みたが、文言の一部修正を除いて、悉く軍人議員に反対され、与党の賛成も少数しか得られなかった。

今後、国民の圧倒的信託を力にアウンサンスーチーはあらためて国軍に改憲への協力を求めることになるが、その成果が短期間に出るとは考えにくい。

軍に好都合にできているこの憲法を民主的なものに変えることこそ、NLDの選挙公約であり、アウンサンスーチーの当面の最大目標であるが、その壁はこのようにきわめて厚く高い。そのため軍と協調関係を築き、対話を通じて同意をとりつけることが改憲への必要条件となる。

総選挙で圧勝した彼女の最初の仕事は、自らに代わる大統領選びよりも、来年3月の新政権発足までに軍の協力を得て、政権移譲のソフトランディングを図ることにあるといってよい。(後略)【2015年11月26日 根本敬氏 SYNODOS】
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「大統領の上の存在」であるスー・チー氏がいる以上、大統領は彼女がコントロールできる者ということになりますが、“大統領候補には、亡くなった義父が元軍人でNLD幹部も務めたことから党内人望も厚く、スー・チー氏を支持して逮捕された経験もある、ティン・チョウ氏の名前などが挙がっている。”【1月31日 時事】とも。

あるいは、“候補としてスー・チー氏の主治医を務めるティン・ミョー・ウィン氏や、NLDの重鎮ティン・ウ氏(上記のティン・チョウ氏と同一人物でしょうか?)らの名前がうわさされている。”【1月31日 共同】とも。

こうした人事等については、国軍総司令官ミン・アウン・フラインの了解を得ているとも見られています。

****スー・チー氏、国軍総司令官と会談=政権移行など協議―ミャンマー****
昨年11月の総選挙で圧勝した国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首は25日、首都ネピドーでミン・アウン・フライン国軍総司令官と会談した。国軍の声明によると、政権移行や少数民族武装勢力との和平プロセスなどについて協議した。

両者が会談するのは昨年12月以来。詳しい協議内容は明らかになっていないが、総選挙の結果に基づく新国会が2月1日に招集され、3月末にもNLD主導の新政権が発足するのを前に、意見交換したとみられる。【1月25日 時事】
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スー・チー政権の当面の課題等については、1月12日ブログ“ミャンマー 「スー・チー政権」に向けて”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160112でも触れたところですので、今回はパスします。
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