孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

LGBTを西側の価値観として否定する中ロ 米ではキリスト教福音派が否定の急先鋒 民間矯正施設も

2024-08-10 23:39:46 | ジェンダー

(映画「ある少年の告白」より 「神の教えに背く同性愛者」として矯正施設に送られた少年の実話に基づく映画)

【国連安保理でも取り上げられたパリ五輪ボクシング女子問題】
パリ・オリンピックでは熱戦が続いていますが、ジェンダーの観点で話題になったのがボクシング女子のイマネ・ケリフ選手(アルジェリア)。

彼女はよく女子スポーツで問題になるトランスジェンダーではなく、「長年、女子の試合で競技してきた。女性として生まれ、登録され、人生を生き、ボクシングをして、女性のパスポートを所持している」選手(IOC広報のマーク・アダムス氏)ですが、IBA(国際ボクシング協会)は2022年および2023年の世界選手権期間中に実施された2回の検査の結果、女子競技に参加するための条件を満たさなかったとしています。

相手選手が途中棄権したことで、ケリフ選手の「女性」としての資格が問題になりました。今回は同選手の資格問題自体を云々することが主旨ではありませんので、詳細は割愛します。

スポーツにおける「女性」としての資格に関連してひとつだけ感じることを言えば、そういう「資格」というのはそれほど自明のことではないようにも感じています。

例えば、染色体に男性的な特徴があるとか、男性ホルモンの値が高いので「女性」としての資格がない・・・といえば、「なるほど」と思いがちですが、「早く走れる」「早く泳げる」「体力がある」「高く跳べる」等々のスポーツ選手の「競技に向いた資質」というのは多分に遺伝子レベルの特徴にも関連していることが多いのでは。

かつてオリンピックで五つの金メダルを獲得したオーストラリアの水泳選手イアン・ソープ氏は絶対的な強さを誇っていましたが、同氏の足のサイズは35㎝もあるとか。多分に泳ぎにも影響するでしょう。

一般人より泳ぎに有利な体形を有していることは問題とされず、男性ホルモン値が高い「女性」は資格がないとされる・・・そこに、それほど自明の差があるのか・・・身体的な問題を「資格」としてつきつめていくと、そもそも「競技」が成り立つのか?・・・そういうことを最近よく思います。

なお、ケリフ選手は金メダルを獲得しましたが、「五輪の価値を守り、他者をいじめてはならない。これが私のメッセージだ。将来の五輪で二度とこうしたことが起きないことを願う」と試合後の記者会見で訴えたそうです。

話を戻します。イマネ・ケリフ選手の話を持ち出したのは、ジェンダー・LGBTの問題に象徴される価値観の違いが、従来の右・左といった古典的政治思想に代わって、国際政治あるいは国内政治における対立軸となりがちなためです。

ケリフ選手の問題は国連安保理の場にも持ち出されました。

****安保理、ボクシング女子騒動で対立 ロシアにアルジェリア反発****
国連安全保障理事会が女性と平和、安保にテーマに開いた7日の会合で、ロシアがパリ五輪ボクシング女子の性別適格性騒動に言及し、渦中の選手の出身国アルジェリアが強く反論する場面があった。

ロシアのドミトリー・ポリャンスキー国連次席大使は、西側諸国が五輪運営を独占していると主張。LGBT(性的少数者)を巡る政治的意図をその他諸国に無理矢理押し付け、女性の権利と尊厳を損なっていると非難した。

その上で、パリ五輪のボクシング女子に出場するイマネ・ヘリフ選手(アルジェリア)と林郁婷選手(台湾)の性別適格性を巡る問題を議論に持ち出し、「国際ボクシング協会(IBA)のホルモン検査で失格した選手ら、つまりIBAと常識によると男性だが、その選手によって女子選手が公然と暴力を受けている。全く忌まわしいことだ」と述べた。

これに対しアルジェリア上級外交官のトゥフィク・クードリ氏は強く反論し、「ヘリフさんは勇敢なボクサーで、女性として生まれ、女性として過ごしてきた」と指摘。「漠然とした政治的意図を持つ人たちは別にして、その点に一片の疑問もない」と強調した。

ヘリフ選手と林選手は昨年の世界選手権で性別適格性検査をクリアせず、IBAの規定違反で失格となった。ただ、IBAはガバナンス問題でボクシング統括団体としての地位を剥奪され、パリ五輪では国際オリンピック委員会(IOC)が競技を統括しているため、出場が認められていた。【8月8日 ロイター】
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【LGBT権利擁護を西側の価値観として排除するロシア・中国】
“LGBT(性的少数者)を巡る政治的意図をその他諸国に無理矢理押し付け、女性の権利と尊厳を損なっている・・・” ロシアがそういう主張をするのはある意味当然で、ロシアはロシア的価値観を重視し、欧米的価値観の象徴としてLGBTについて極めて厳しい対応をとっています。

****ロシア最高裁、LGBT活動を「過激派」認定 コミュニティーの不安募る****
ロシアの最高裁判所は11月30日、「国際的なLGBT(性的マイノリティー)市民運動」と呼ばれるものを過激派組織と断定し、全国での活動を禁止した。

このような組織は法人として存在しないにもかかわらず、判決は司法省からの申し立てによって下された。

ロシアではウラジーミル・プーチン大統領の下、保守的な考え方や「伝統的な家族観」が推進されている。こうしたなか、LGBTに関する活動は西側の価値観であり、ロシアに敵対するものとされている。LGBTコミュニティーへの抑圧も、ロシアの道徳を守る手段とみなされている。

3年前に改正された憲法では、婚姻が男女間のものを意味することが明確になった。同性婚は認められていない。

昨年には、同性愛に関する宣伝禁止法を強化する法律も強化された。書籍や映画、オンラインなどで同性愛を流布することが違法とされ、違反者には重い罰則が科せられる。(後略)【2023年12月1日 BBC】
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LGBTの権利擁護を西側の価値観として、これを排除するということでは中国も同様です。

****中国で性的少数者への暴力横行 施設に送り「転向療法」で虐待****
世界で性の多様性への理解が進む中、中国でLGBTQなど性的少数者を施設に送り込み「転向療法」と称して殴打するなどの虐待が横行していることが11日、分かった。被害者らが暴力の実態を証言した。

保守的な考えに基づく偏見に加え、性的少数者の権利擁護を「西側の価値観」と警戒する習近平指導部の姿勢が性差別に拍車をかけている。  

被害者や支援者らによると、転向療法を行う病院や民間施設は、上海市や河北、湖北、四川各省などに100カ所近く点在。入所者の多くが家族に半強制的に連行された10~20代の若者だという。  

「おまえなど気持ち悪くて役立たずだ」。性的指向や性自認の「矯正」を行う施設で、指導官が入所者を殴打したり人前で裸にさせたりした。性的虐待の被害もあった。  

施設では外部との連絡を制限するためスマートフォンやパソコンを没収される。髪は短く切られ、軍隊のような厳しい訓練のほか「男性は働き女性は子を産む」といった伝統的な性別役割の授業を受けさせられる。【2月11日 共同】
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【アメリカ国内でLGBTを否定するキリスト教福音派】
では“西側”の盟主たるアメリカにおいてはLGBTの権利が擁護されているのか・・・

確かにアメリカのTVドラマなど観ていると、びっくりするぐらい普通にLGBTで溢れており、LGBTでない者の肩身が狭いぐらい・・・

その一方で、中絶をめぐる女性の権利と並んで、LGBTに関する見方は国を二分する対立の最前線となっており、大統領選挙を左右する問題です。

LGBTに否定的な考えの急先鋒が「キリスト教福音派」と呼ばれる人たちで、トランプ前大統領を熱烈に支持しています。

****トランプ前大統領を支持するキリスト教「福音派」(前編)…アメリカ政治を動かす宗教パワーとは****
(中略)
「福音派」とは、キリスト教プロテスタントの一部の宗派を指す。聖書を歴史的な書物ではなく、「御言葉(みことば)=神の言葉」だとして信じて、聖書に忠実な信仰生活をおくる人々だ。

聖書を絶対的なものとみなすため、性的少数者や人工中絶の権利について否定的な考えを持つ。具体的に聖書にはこう書かれている。

レビ記18章22節:「あなたは女と寝るように男と寝てはならない。これは憎むべきことである。」→同性愛、同性婚に否定的な立場
エレミヤ書1章5節:「あなたがまだ生まれないさきに、あなたを聖別し〜」→神は胎児もひとりの人間とみなすため、人工中絶は殺人と同じだとして、否定的な立場

ピュー研究所によると、「福音派」はアメリカの成人人口の4分の1を占めている。うち81%がトランプ氏に投票すると答えていて、選挙には大きな影響力を持っているのだ。(後略)【8月7日 日テレNEWS】
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****トランプ前大統領を支持するキリスト教「福音派」(後編)…「性的倒錯がアメリカを覆っている」****
(中略)
「性的倒錯がアメリカを覆っている」…米国の現状を嘆く福音派牧師
(中略)トランプ氏を支持するロック牧師は、今のアメリカの政治状況について「サタン(悪魔)が文化に影響を与えて、世界中のあらゆるモノがLGBTQを推進している」と嘆いた上でこう述べた。

ロック牧師:「性的倒錯がこの国を覆ってる。絶対に同性婚を覆すべきで、中絶を覆して、連邦政府として禁止して犯罪にすべきです」「聖書には神を忘れた国は呪いを受けて地獄になると書かれています」

保守的な「福音派」の恐れとは…アメリカ建国とキリスト教
元々アメリカは、宗教的な迫害から逃れてきたキリスト教徒が建国した国とされ、プロテスタントの価値観が浸透した"キリスト教国家"的な側面を持っていた。歴代大統領は就任式の時に聖書の上に手を置いて宣誓を行うし、公立学校では聖書朗読も行われていた。

しかし、時代が進むと共に価値観が多様化し、リベラルの影響が強くなり状況が変わる。1962年には公立学校での礼拝が違憲とされ、73年には中絶の権利が認められ、2015年には同性婚が認められる最高裁判決が出た。

聖書の記述は神の言葉としてとらえキリスト教原理主義的な側面を持つ「福音派」。彼らはリベラル的な考えがアメリカに浸透して国の形を変えていくと感じ、自分たちが守ってきた伝統的な価値観が覆されつつある状況に危機感を強めたのだ。(中略)

キリスト教価値観に反すように見えるトランプ氏をナゼ福音派は支持?
(中略)
グレグ・ロック牧師 「トランプ師を支持する最大の理由は、私が言うべきことを言わせてくれる人だからです。彼は歴史上最もアメリカに親しみ、言論の自由に親しんでいる大統領(候補)です」「誰だって失敗する。私は彼を見て、不倫したとか離婚したとか言うつもりはない。私は牧師を選ぼうとしているのではない。大統領を選ぼうとしているのです」

ロック牧師はこう述べた上で、「メディアは嘘をつくので、トランプ氏が過去に何をやったかなんてどうでも良い」と付け加えた。

またワシントンの政治集会で出会った福音派の女性は、「聖書に出てくるダビデも姦淫の罪を犯しました。神様は不完全な人を用いられるのです。しかし、私たちには罪を許す神様がいます。トランプ氏は自分の罪を告白して、神様に導かれているのです。だから私たちは許しているので彼に投票できます」との答えが返ってきた。(後略)【8月7日 日テレNEWS】
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【性的問題に関する民間矯正施設に全米で12万~20万人の未成年者が送り込まれる】
こうした価値観が成人人口の4分の1を占める「キリスト教福音派」にあることもあって、アメリカでは性的指向を矯正する民間矯正施設が1万か所もあって、12万~20万人の未成年者が本人の意思ではなく送り込まれているとか。ロシアや中国ではなく、アメリカで・・・

****「僕は真夜中に拉致されゲイ矯正施設に送られた」...床を引きずられ監禁状態に、全米に1万か所を超える施設が*****
<「最悪だったのは、金を出したのが僕の父親だったこと」──10カ月に渡る民間矯正施設での監禁生活から抜け出して、声なき人々の代わりに声を上げる>

15歳だったある日の真夜中、僕は2人の見知らぬ男たちに誘拐された。

恐ろしくて抵抗などできなかった。僕は飛行機に乗せられアメリカ大陸の反対側に連れて行かれ、10カ月後に脱出するまで監禁状態に置かれた。

あの日のことは忘れられない。2人の男の車は真っ黒に舗装された道を走った。行き先など分からない。窓からは煙のようにたなびく雲がかかったユタ州の山々が見えた。

たどり着いた先には、並んで立つ細長い2つの建物があった。「エレベーションズRTC」という表札が出ていて、焼けつく日差しの下でも暗い影をまとっていた。

僕は灰色の廊下を文字どおり引きずっていかれた。洋服は脱げて床に落ち、ヒリヒリと痛む肌に冷たい水が染みた。僕は裸で床に崩れ落ちた。内側から煮えたぎる怒りが噴き出してきた。3日間、僕はひたすら泣き続けた。

最悪だったのは、金を出してこんなことをさせていたのが僕の父親だったことだ。両親が離婚した後、僕は父に引き取られていた。とてもつらい日々だった。

あの頃ちょうど僕は、本当の自分を理解し、受け入れられるようになっていた。そして今後はゲイであることを公表して自分らしく生きたい、母と一緒に暮らしたいと父に話した矢先の出来事だった。

エレベーションズは営利目的で運営されている民間の矯正施設だ。問題を抱えたティーンエージャーの社会復帰を支援するとうたっているが、実際には金を払う人間の言うがままらしい。

担当のセラピストによれば、僕がここに送り込まれたのは父の期待に背いたからだった。

何カ月もの間、僕は施設の廊下を当てもなく歩き回った。監禁されていることにも施設の雰囲気にも息が詰まりそうだった。日記帳に僕は、旅する探検家が主人公の物語を書いた。物語の世界に入りたいと心底思った。

10カ月後に僕はようやく、母とラビ(ユダヤ教の聖職者)と弁護士のおかげで施設を出ることができた。

被害者の声を届けたい
同様の施設で、同じような目に遭った(遭っている)人は僕以外にもたくさんいる。「ストップ制度的児童虐待」という団体によれば、こうした施設に入れられている未成年者は全米で12万~20万人もいるという。

今年に入り、僕はエレベーションズと担当セラピスト、そして父に対し、僕が受けた虐待と苦痛への損害賠償を求める訴訟を起こした。

裁判所や議員たち、そして一般の人々に問題を知ってもらうことも目的の1つだ。またこれは、今も施設にいる多くの未成年者や、施設によって生涯にわたる傷を負わされた人々に代わり、僕が起こさなければならない行動だった。

こうした施設に入所させられた人々の間では、鬱や薬物依存になったり、虐待したりされたりする人間関係に陥ったり、果ては自殺するといった事例が非常に多いといわれる。全米に1万カ所以上あるといわれるこうした施設への規制強化を求めて、僕たちは力を合わせなければならない。

僕は18歳になり、この秋からはカリフォルニア州の大学に通う。1年前には考えられなかったことだ。声なき人々の代わりに声を上げ、社会に貢献する力を付けたいと思っている。僕は未来に向けて前進していく。【8月9日 Newsweek】
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社会の一般的価値観、あるいは宗教的価値観にそぐわない者を「矯正」の名のもとに強制的に施設に隔離収容するということは、19世紀、戦前までは珍しいことではありませんでしたが、現代アメリカでも・・・・というのが驚きでもあります。

アメリカでは1973年まで、同性愛は精神障害とみなされていました。WHOが「国際疾病分類」から同性愛を削除したのが1990年。

性的指向の矯正治療への専門家の批判、2014年にトランスジェンダー(17歳)が自殺した事件などを受けて、オバマ大統領が矯正治療の中止を訴える声明を発表。十数州で矯正治療を禁止する法律が成立しています。

1万か所、12万~20万人という数字の確かさについては知りません。
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