Con Gas, Sin Hielo

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「護られなかった者たちへ」

2021年10月03日 20時52分47秒 | 映画(2021)
ヤジロベエみたいな正しさの中で。


連続テレビ小説「おかえりモネ」の放映が残り1か月となり、舞台は気仙沼へと移った。

東日本大震災から10年という節目の年。本作もあの日を境に大きく人生が変わってしまった人たちを中心に描かれた物語である。

それにしても、重い。

主人公の利根は避難所で知り合った高齢女性の"けい"から笑顔を作るように勧められるが、彼だけではない。避難所の中だけでもない。殺人事件を調査する警察も、区役所で働く人も、本作の登場人物は誰一人として笑うことはない。

いかに被災地でもこれほど重く暗いわけないだろうと思うのだが、この空気は本作のもう一つのテーマから生じている。それは「生活保護」。

映画の中では最初で最後のセーフティネットと呼ばれ、病気などでどうしても働けなくなった人が最低限の社会的生活を送るために公的機関が現金を支給する仕組みは、一見するとよくできているが、その実情は不正受給で蓄財する人がいる一方で、杓子定規な審査基準で手当てが認められない人も多く存在している。

震災後の仙台には、生活困窮者が多数流入してきたと言う。資格審査を担うのは区役所の職員。彼らもまた被災者である。自分のこともままならない中で、処理容量を遥かに上回る事務作業に追われる日々。ひとりひとりの状況を細かく見ていく余裕はとてもなかった。

そこで生まれた悲劇。被害者側から見れば防げたものを職務怠慢で死に追いやったとしか見えない。しかし役所側の人たちは、彼らなりに最善を尽くす努力をしていた。

自分の力ではどうすることもできない困難にぶつかったとき、人はどう振る舞うのか。やり場のない憤りを安易に誰かのせいにしてしまっていないか。

刑事の笘篠から「どうしてそんなに強くいられるのか」と訊かれた区役所職員の円山は、「声を上げること。そうすれば誰かに届く」というようなことを応えていた。

震災は、そこに住む者の居場所を奪いコミュニティを破壊した。一方で、避難所の利根と"けい"たちのように新たな繋がりを得られた人もいるかもしれない。

誰にでも、その人を必要と思ってくれる人がいる。知らない人だって、目の前で困っている様子を見れば助けたいと思う。生きる価値のない人間なんていない。

毎日余裕のない中で生きていかなければいけない現代だからこそ、ことあるごとにそのことを思い返して噛みしめる必要があると切に感じる。

阿部寛佐藤健清原果耶ら俳優陣の演技は非常に重厚で、感情を強く揺さぶられるとともに非常に多くのメッセージを受け取ることができた。

・・・にしても重い。明らかな悪人がいないはずなのに、はっきりと灯る希望が見えないのは辛い。

(75点)
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