友人からメールがきました。60歳は過ぎているでしょう。ある町で民生委員をしている女性です。
実は社会的な地位があるからといって、脳がイキイキしている証明にはなりません。
名刺だけ「会長さん」の小ボケの方は結構います。その時には実質切り盛りしてくれる「副会長さん」がいるものですが。
脳はあくまでも使われている実態に沿ってレベルが決まるのです。
現職で、民生委員をしているということは、「立派な人」と言いたいのではなく「脳機能は万全」ということが言いたかったのです。万全でなければ辞めさせられますから。
東御市池の平湿原の花々
さてメールの内容です。
「実は過日愕然としたことがありまして、口に出す勇気が持てずにまだ誰にも話していないのですが....
先日、○○市で民生委員の研修会がありました。
仲間数人と折角だから近隣の観光地にも足を伸ばそうということになり、その地区出身の一人がツアコンをしてくださり楽しんできたのですが。。。
事前に会計担当者に旅行代金47,000円プラス雑費として5万円渡すようにと別の仲間にいわれ、私としては「旅行前に雑費も?」といささか違和感を感じつつ5万円を封筒に入れ渡したという認識でした。(のつもりでした。)
でも実際はきっちり47,000円の旅行代金だけを支払っていたんです。(これは事実のようです。)
その時に5万円を入れたことは、わたしとしてはかなり確信に近い記憶となっていました。単なる勘違いなら、後日「なるほど」と説明がつくのですが、今回は「なぜ?」といまだ整理できません。
端的に言えば老化に依る妄想ということなんでしょうね。「自分がすごく怖い、どうしちゃったの!」と自信を無くしました。
でももともといいかげんと言うかアバウト人間の私の事、落ち込む暇もなくその後の毎日の仕事や課題を普通にこなすうち次第に今回の事も過去の事として心の片隅に移りつつあるのですが......。
以上真夏のこわ~いお話(いよいよ始まったか!の巻)でした。」
返信メールです。
「5万円事件にコメントを。
注意集中力と分配力は前頭葉の大切な働きですが、残念なことに年齢とともに低下していくという性質があります。
ボケは、そのような受け入れざるを得ない年齢相当の老化を、はるかに超えた老化が起きることと考えてください。
5万円事件はあなたの年齢相応に低下した注意分配力が為した事件です。
よく考えてみてください。
①金額を聞いた時(違和感があった→「普通なら47,000円よねぇ」と思った)
②お金を用意した時(5万円用意したと思いますが、①の「普通なら47,000円よねぇ」の気分は残っていた)
③封筒に入れた時(②と同様に普通なら47,000円よねぇ」の気分は残っていた)
お金を財布から用意したのか、銀行から引き出したのか、その時ちょうど5万円だったか等いろいろな状況が考えられますが、上記のような気分はあったと思います。
もうひとつ。実際に封筒にお金を入れるときに、まったく別のことに気をとられていたはずです。
注意分配力が年齢相応に低下している訳ですから、そのことによって、注意集中力(この場合だと47,000円じゃなくて5万円と集中しなくてはいけない)が、足りなくなったために、もともと「普通なら47,000円よねぇ」と最初に感じていたことに引きずられて、なんとなく47,000円入れてしまった、というのが私の推察です。きっとあってます!
記憶力に問題がないので、「ちょっと変だけど、5万円入れるように言われたから入れなくっちゃあ」と思ったことを鮮明に覚えているのでしょう。
何に注意がそれていたかというと、それは何でもいいのです。
結構深刻な問題なら当たり前ですが、単純なことでも起こりえます。
何を着ていこうかとか
バッグは何にしようとか
~は持って行こうかどうか???
集合場所までの交通手段など
旅に関することでも
今晩の夕食の献立や手順
明日の予定のこと等々
些細なことでも十分に、今回のようなことは起こりえます。
けっして、
>
端的に言えば老化に依る妄想ということなんでしょうね。
> 自分がすごく怖い、どうしちゃったの!と自信を無くしました。
というようなことではありませんので(笑)
お元気そうにやっていらっしゃるので言わずもがなと思いましたが、一筆啓上いたしました!
笑い飛ばしましょう!」
その直後に、久しぶりに、M田保健師さんと電話でおしゃベりをしました。
M田さんは左脳全開。回転の速さがすごい。そのうえパワフル。
実務研修会の時の質問の嵐は忘れられません。17年くらい前でしたよね・・・30歳くらいだったでしょうか。元気はつらつの保健師さんでした。
「M田さんでも年をとると、考えられないミスが起きてくるでしょう?」と私。
「そうなんです!どうしてわかりますか!ちょっと落ち込んでたんです。どうして、こんなことを私がやってしまうの!って」
「それをまた繰り返したりして」とまたまた私。
「まったくぅ。ボケてきたんじゃないかって心配になります」とこれはさすがに笑いながら、だって保健師さんですもの、そうでないことは承知しています。
前頭葉機能のうち、注意集中・分配力を測るかなひろいテストの成績は、18歳から20歳代に最高レベルになります。そして60歳代の後半にもなると、大体ピーク時の半分くらいになるのです。
歳をとると、だんだんに失敗が増えてくることは、仕方がないとあきらめましょう。
「歳をとると、皮膚にしわやしみが増えて若いころのように行かなくなるのと同じように、注意集中・分配力を要求されることに対しては若いころのようにはいかない!それは脳の宿命ね。
でも、獲得してきた能力もあるでしょう。洞察力とか分析力とか。人に上手にものを頼むとか」と私。
「今日はお話しできてよかったです。元気になりました!」
そうそう、M田さんは元気が似合う保健師さんですから・・・私もうれしかったです。
その時、その時は、笑っていられるんですけれど、まとめて思い出した時には、もしかして・・と思ってしまいます。
いずれ自分も、そうなってしまうかもしれない恐怖もありますが、まずは育ててもらった恩義として、親を大切に想ってあげたい今日この頃です。