水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百六十七回)

2010年12月10日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百六十七回
 中途半端に応じて私は電話を切った。それにしても、浴室でお告げを聞き、そのままとぎれてしまっていたものが、翌日の煮付(につけ)先輩、今日のママと、続いてモーションをかけられている。これらを冷静に考えれば、やはり玉の霊力が動いていると考えるのが妥当なようだ…と私は、このとき思った。だが、そうだとすれば、どうするというのだ? と訊(たず)ねられれば、返答のしようもない。お告げが途絶えたとき、ただ待つしか方法のない我が身だったのである。そんな愚かなことを考え倦(あぐ)ねながら、私の腕はみかんへハンドルを切っていた。
 みかんのドアを開けると、驚いたことに沼澤氏がすでにカウンター椅子(チェアー)へ座っていた。しかも、すでに氏の好きなマティーニのカクテルグラスがテーブル上にあり、チビリチビリと氏は、やっていた。妙だな? いつものように会社を出たのだから、みかんはまだ営業していないはずだが…と思えた。その証拠に、ドアの入口には準備中の札がかかっていたのだ。私は慌(あわ)てて腕を見た。すると、どういう訳か二時間が消えていた。つまり、六時頃だと思ってドアを入ったのだが、時計はすでに八時を指していたのだった。私は唖然(あぜん)として立ち止まっていた。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

残月剣 -秘抄- 《惜別》第十二回

2010年12月10日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第十二回

「なんだ…そうでしたか。では、場内におられたことは、おられたのですね?」
「ええ…まあ」
 幻妙斎に会った後、小部屋で眠っていたとも云えず、左馬介は曖昧に暈した。
「もうすぐ、焼けますから…」
「二人で賄いをやっていた頃には、考えもつかなかったことです」
「そうでした。あの頃は、今、客人身分の方々も大勢おられましたからねえ…」
 手を休めず、鴨下は箸で器用に金網の上に置かれた握り飯を、ひっくり返す。それを繰り返しつつ、時折り左馬介の顔を見遣って話をする。左馬介も手伝おうと、水屋から大皿を取り出して置いた。どこに何が入っているかは、賄い番をやっていたから先刻、承知なのだ。
「どうも、すいません。御造作をかけ…」
「ははは…。一年前は、共にやっておったではありませんか」
 左馬介は小笑いして返した。
「それより、この正月で四年目の長谷川さんですが、客人身分には、いつなられるんでしょう。長谷川さんが抜ければ、私と鴨下さんの二人ですよ」


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする