水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百七十八回)

2010年12月21日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百七十八回
その後、銀座で美酒に酔い、ホテルに一泊して始発で帰った。児島君は数日、泊ってこられればよろしいのに…と出がけに云ったが、部長という肩書の手前、そういう訳にもいかなかった。なぜかふと、禿山(はげやま)さんの丸禿頭を照からせた柔和な笑顔が浮かんだ。
━ クタクタにお疲れの割には、幸運ってのが、余りに小ぶりに思えるんですがなあ… ━
 浮かんだのは、確かこれが二度目だった。私は米粉プロジェクトの成功と業績の向上、いや、米翔(こめしょう)の発展のすべてを賭ける思いで頑張っていた。だから心身ともにクタクタでボロボロだった。玉の霊力によって実現した会社発展、それはある意味、私の仕事の成功なのだが、その幸運は禿山さんの言葉どおり余りに小ぶりに思えた。そう思えたのには、この時、限界に近い疲れを私が感じていたこともある。さすがに倒れそうな身の危険を察知した私は、東京から帰った次の日、休むと児島君に電話連絡だけしてベッドで爆睡した。気づけば、もう昼の三時過ぎだった。こんなに眠ったことは学生時代より久しくなかった。ベッドを抜け出たとき、あのお告げが久しぶりにあった。
『お久しぶりです。お仕事が順調なようで何よりです。どうです? 大舞台の第一歩を歩まれたご感想は?』
「えっ? …そうですねえ。疲れるだけで成果が、といいますか、幸運そのものが今一、小さく思えるんですがね…」
 私は初めて玉へ小さな愚痴を云った。

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残月剣 -秘抄- 《惜別》第二十三回

2010年12月21日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第二十三

 左馬介は、ただ感心するばかりである。
「なあに…。それで、その一軒の主(あるじ)が云うには、何でも骨董の蓑屋さんの店番をしておいでで…ってことでごぜえやしてな…」
「ほう…骨董の蓑屋さんですか?」
「へい、さようで。その蓑屋で訊きやすと、ほんの一時(いっとき)ばかりのことらしいんでごぜえやすが、頼まれなすったとみえやす」
「幾らか、稼ぐ為なのでしょうか?」
「まあ、小遣銭ぐらいのもんでやしょうが…」
「して、その刻限は?」
「それなんでやすがね。決まって、くれ前(めえ)の酉の刻なんでごぜえやすよ…」
「へい、余程の用向きがねえ以外(いげえ)は…」
「分かりました。いろいろ有難うございました。これは、ほんの些少ですが…」
 そう云って、左馬介は権十に二朱銀の小粒を一枚、そっと手渡した。

「こんなに貰っちゃ…。そうでごぜえやすか? すまねえこって。また、遣って下せえやし…」

初めから懐へ納める積もりだったのだろうが、形ばかり断った後、権十は直ぐ巾着を胸元から取り出すと、ぞんざいに放り込んだ。


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