あんたはすごい! 水本爽涼
第百七十七回
その後の一ヶ月は、今から考えればわずか一日だったような気がする。それだけ多くの出来事があり、私は諸事に忙殺されるほどの状態であった。そして、お告げそのものも私の多忙さに遠慮してか、まったく影を潜(ひそ)め、当然、私も沼澤氏、みかん、禿山(はげやま)さんのことなどを一切思い描かず、というより思い描く暇(ひま)もなく、ただ慌(あわただ)しく米粉プロジェクトの総指揮を執(と)っていた…というような日々だった。
一件がようやく軌道に乗り、販売網に加わる新たな得意先企業も獲得でき、私としては、ほぼ満足のいく感触を掴(つか)むに至った。一ヶ月の間に東京への出張は数度に及び、煮付(につけ)先輩とは何回か話し合える機会を得た。
その日も私は煮付先輩に招待された赤坂の某高級料亭にいた。
「どうやら軌道に乗ったようだな、塩山。ごくろうさん…。まあ、一献(いっこん)」
「はい! 先輩のお蔭(かげ)で…」
先輩が注いでくれる銚子の酒を猪口(ちょこ)に受けながら、私はやや緊張ぎみにそう云った。
「これで道筋は、ついた訳だ。お前の会社も急成長することは疑いなしだな」
「はい…。というより、日本の食糧事情の明るい展望が開けたことが何よりです」
「おお…そういうことだ。まだ始まったばかりだな」
モグモグと豪快に料理を食べながら、先輩は猪口を干した。その豪快さは学生時代と少しも変わっていなかった。
第百七十七回
その後の一ヶ月は、今から考えればわずか一日だったような気がする。それだけ多くの出来事があり、私は諸事に忙殺されるほどの状態であった。そして、お告げそのものも私の多忙さに遠慮してか、まったく影を潜(ひそ)め、当然、私も沼澤氏、みかん、禿山(はげやま)さんのことなどを一切思い描かず、というより思い描く暇(ひま)もなく、ただ慌(あわただ)しく米粉プロジェクトの総指揮を執(と)っていた…というような日々だった。
一件がようやく軌道に乗り、販売網に加わる新たな得意先企業も獲得でき、私としては、ほぼ満足のいく感触を掴(つか)むに至った。一ヶ月の間に東京への出張は数度に及び、煮付(につけ)先輩とは何回か話し合える機会を得た。
その日も私は煮付先輩に招待された赤坂の某高級料亭にいた。
「どうやら軌道に乗ったようだな、塩山。ごくろうさん…。まあ、一献(いっこん)」
「はい! 先輩のお蔭(かげ)で…」
先輩が注いでくれる銚子の酒を猪口(ちょこ)に受けながら、私はやや緊張ぎみにそう云った。
「これで道筋は、ついた訳だ。お前の会社も急成長することは疑いなしだな」
「はい…。というより、日本の食糧事情の明るい展望が開けたことが何よりです」
「おお…そういうことだ。まだ始まったばかりだな」
モグモグと豪快に料理を食べながら、先輩は猪口を干した。その豪快さは学生時代と少しも変わっていなかった。