水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百八十一回)

2010年12月24日 00時00分00秒 | #小説

  あんたはすごい!    水本爽涼

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百八十一

みかんの酒棚に置かれた玉から発せられていることは分かるが、ただその得体の知れない霊力によって私は動かされている…と考えるのは、やはり怖かった。だが私としては、この現実を直(ストレート)に受けるしかない…と諦(あきら)めにも似た気持だった。三時半過ぎをベッドの時計は指していたが、どういう訳か余り腹は空いていなかった。私は一応、会社へ連絡しておくか…と思った。
「おお、児島君か。私だ…。別に変ったことはなかったか」
「はい、これといって…」
「そうか…。なら、いいんだ。ご苦労さん」
 トイレへ行ったついでに玄関近くの電話を握った。そして、苦労性が会社へダイヤルさせていた。変わったことは恐らくないだろう…とは分かっていた。異変があれば、なんらかのお告げを玉が霊力で送ってくるはずだからだ。そうとは分かっていたが電話する自分がいた。私自身が、まだまだ小心者に思え、妙な嫌悪感が残った。
 次の日からまた慌(あわただ)しい日々が始まった。だが、すでに私は玉からフラッシュ映像を見せられているから、その場面へ向けて今の自分がどのように流れようとしているのか、が神秘的で興味深く、疲れなどは一切、感じなかった。その原動力となったフラッシュ映像の一枚は、私が世界の食糧事情を解決する一助をしたような映像だった。


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残月剣 -秘抄- 《惜別》第二十六回

2010年12月24日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第二十六回

「そうでございましたか。合点が参りました。それで権十さんが来られたのですか」
「ええ、まあそのようなところでしょう…」
「未だ陽が高うございますが、夕ともなれば、お見えになりましょう。私ごとで何なのでございますが、若い恋女房を貰ったのが運の尽き、夕には戻っておらぬと叱られましてな…」
「叱られるとは?」
「身が細ることを頑張らねばならぬのでございますよ。ははは…、これは若いお武家様の前で話すことではございませなんだ。…まあ、夕には樋口様が替わって下さるということで…」
「ご主人は、ご帰宅なさるということですね?」
「へえ、さようで…」
 罰が悪いのか、与五郎は後ろ手で首筋を撫でつけた。左馬介は、それ以上は訊かず、口を噤んだ。
「暫く待たせて貰いましょう。奥へ通って宜しいでしょうか?」
「へえ、それはもう…」
「では、遠慮のう…」
 左馬介が暖簾を潜って奥の土間へ進むと、後方から与五郎が付いてきた。左馬介は、振り向くと、「何でしょう?」と、訊ねた。
「いやあ、なに…。お茶でも差し上げねば…と、思いましたもので…」
「ははは…。どうぞ、お気遣いなく」
 そうとだけ遠慮を吐く左馬介へ、敷居を早足で上がった与五郎が座布団を勧めた。権十、の破けた座布団とは偉い違いだな…と左馬介は思いながら、腰の刀を手に持つと、座布団へ身を委ねた。


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