水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百六十三回)

2010年12月06日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百六十三回
「こんな時間で申し訳なかった。今、話しても大丈夫か?」
「えっ? ええ…。そろそろ寝ようかと思っていたところですから…。で、ご用件は?」
「いや、実は俺もな、寝ようと思ってたんだ。どういう訳か急にお前に電話したくなってな。…そうそう、用件だったな。今度、政府主導で、正確には農水省中心なんだが、地方と
タイアップして第一次産業、特に農業の振興策を実施することが本決まりになったんだ」
「はあ…。それが私と、どういう関係を?」
「まあ、落ちついて聞いてくれ。…そこでだ、お前の会社は米粉の卸しだったよな?」
「ええ、そうですが…」
「実は、政府も減反政策で疲弊(ひへい)した田畑の再活性化を目論(もくろ)んでいるんだよ」

「偉く、どでかい話ですねえ」
「どでかい話だが、これは現実に進んでる話なんだよ、塩山」
「それで、この私にどうしろと?」
「どうしろ、などという筋の話じゃないんだが、このプロジェクトにお前さんの会社も一枚、乗ってくれないか、ってことだ」
「なるほど…。それで、具体的には?」
「政府がタイアップした別のグループ企業が幾つかあるんだが、それらの企業が地元農家とタイアップして米を作る」
「米は食われないから減反になったんでしょ?」

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残月剣 -秘抄- 《惜別》第八回

2010年12月06日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第八回

「ははは…、云わずとも孰(いず)れは知れよう。影番の樋口が、その折りは、そなたに伝えるであろう」
 幻妙斎の言葉を聞き、それ以上、左馬介は深く訊ねなかった。残月剣の形(かた)を描いていた間、疼くように冷えていた左馬介の
足先も、部屋へ入ったことで緩み、増しになりつつあった。だから余計、気持ちが幻妙斎の言葉に揺れた。そう長くはない、とは如何る意味を含むのか…。妙に気掛かりな左馬介であった。樋口とは幻妙斎に異変があった場合、至急に知らせを貰う口約束が出来ている。まさか、そのことを師が知る由もない…と、一応は左馬介にも思える。影番だから、樋口が大方のことを知っているのは当然なのだが、飽く迄もそれは幻妙斎の身の回りの諸事であり、何を目論んでいるのか…という心理面のことは分からぬのが道理であった。そうだとしても、兎も角、師が樋口に言付けるというのだから、待った上で樋口から聞くか、或いはこちらから樋口に訊ねるしかない…と、左馬介には思えた。幻妙斎は、ふたたび布団を被って横たわり、眠り猫の様相を呈している。傍らに侍って寝入る獅子童子と似たり寄ったりの感がしないでもないと、左馬介には思えた。ここに長居しても仕方なし…と、左馬介は庵(いおり)を退去した。
 左馬介は暫く無心で歩いていた。


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