水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百六十ニ回)

2010年12月05日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百六十ニ回
そういう時にかぎって事が運ばないのが世の常である。その日はベッドへ入ってもお告げは二度となく、私は待ちくたびれながら深い眠りへと引き込まれていった。
 次の日、大異変の第二弾に私は襲われた。襲われたというのは、鳥殻(とりがら)部長死去による部長就任という第一弾の大異変から、まだそう長く経っていなかったからで、ようやく落ちつけそうだったのだ。落ちつけそうで落ちつけないのだから、これはもう、襲われたと云う他はないだろう。この第二弾というのは、煮付魚也(につけうおや)代議士からの電話であった。煮付先輩とは学生時代から先輩後輩の間柄で、何かと昵懇(じっこん)にして戴いていたのだが、今や先輩は国会議員の急先鋒として飛ぶ鳥を落とす勢いで、政府の要職について活躍していた。
「久しいな、塩山。私だよ、分かるか? …そう云っても分からんだろうが…」
「? …先輩? 煮付先輩ですか! ワア~、お久しぶりです。ご無沙汰しております…。お元気そうで、なによりです!」
「君も元気そうじゃないか。…そういや随分、会ってないよなあ~」
「ええ…、そうですね、そうなります。いやあ、その節(せつ)は…どの節だったか? いや、とにかく、お世話になりましたあ~!」
「そんなことはいいんだよ、塩山」

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残月剣 -秘抄- 《惜別》第七回

2010年12月05日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第七回

 当然、息の乱れも微かで、誰が見たとしても、残月剣を、ほんの今、描いたとは思えない程、もの静かな左馬介であった。
 床へ上がった左馬介が部屋へ入ると、いつの間に現れたのか、獅子童子が幻妙斎の枕辺で眠っていた。暫く見ぬ間に随分、年老いた感が拭えぬ老猫である。そうは云っても、急を要する時は、瞬時に何処ぞへ消え去る謎めいたところがあり、幻妙斎と似通っていた。その獅子童子は、左馬介が枕辺へ近づくことなど意に介さぬ態で安眠しているのだった。
「左馬介…。残月剣はどうにか出来たようじゃのう。が、今後も技を究めること、怠るでないぞ。腰の村雨丸が泣かぬようにな…」
 そう静かに云うと、幻妙斎は高笑いした。それは、左馬介が久々に耳にした師の笑い声だった。
「ははっ! 肝に命じまして!」
 云うでなく、自然と左馬介の口から声が出た。それほど幻妙斎の姿には、云い尽せない神威性が漂っていた。
「そなたが名声を馳せる姿をひと目、見たいと思おておったがのう、この儂(わし)もそう長くはない」
 左馬介は伏せていた顔を上げ、師を見上げた。
「それは、如何なる故にござりましょうか?」


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