水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百七十四回)

2010年12月17日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百七十四回
「えっ? お店ですか? 鳴かず飛ばずってとこですけど、…お客様の入りがコンスタントに順調、ってとこですか。ねえ、早希ちゃん?」
「えっ? ああ、そうですよね。確かにお客様は来て下さいます」
 その時、ふと、私の頭にひとつの疑問が湧いた。その疑問は、一分後には急激に大きな炎となり、爆発した。
「…そういや、沼澤さんと私がこうして話す時は、他に客がいませんよね?」
「ああ、そのことですか。それは、玉が霊力でバリアを張っておるのです。他に私とあなた以外の者を寄せつけないように…」
「しかし、私が来ない日はどうなんです?」
「もちろん、玉が霊力バリアを張るのは、塩山さん、あなたと私がいる場合だけですよ」
「玉が、そう告げた、ということですか?」
「はい、そのとおりです。最高の霊力をお持ちのあなたと別の客では、まったく玉の霊力の出しようが異なります」
「そうなんですか…」
 どういう訳か、そのあとの会話は途絶え、二人の周りをお通夜な雰囲気が覆(おお)い始めた。

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残月剣 -秘抄- 《惜別》第十九回

2010年12月17日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第十九

 左馬介は過去、何度か権十に会っているから、よく見知っている。恐らく権十の方も、顔さえ見れば堀川の一門衆だと分かるに違いない…と、左馬介は考えていた。
 鴨居と敷居が歪み、入口の引き戸は、なかなか開きそうになかったが、それでも漸く開いたので左馬介は中へと入った。権十は左馬介の顔を見るなり、ペコリと一つお辞儀をして頭を下げた。権十の他には家族らしき者は誰もいず、どうも権十は一人者のようだ…と、左馬介は推し量った。
「お座布でも、お敷き下さいやし…」
 そう云われて奨められた座布団を見れば、外布が破れ、入れ込んだ綿の塊が半ば食み出している。云われるままに座ろう…とは、とても思えぬ代物(しろもの)であった。また、その食み出した綿の塊というのが何とも面妖で、黒みがかった薄墨色の暗雲を彷彿とさせ、云わば塵埃とも思わす外観を醸し出しているのであった。流石の左馬介も、奨められはしたものの、暫し戸惑った。だが、訪(おとな)っておきながら、そんな不作法に我を通すこともなかろう…と、素直に座ることにした。頼みごとを抱えている、ということもある。
 左馬介が腰を下ろすのと同時に、一端、奥へと消えた権十が、盆上に湯呑みを乗せて左馬介の前へ進み出た。


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