水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第七十三回)

2010年09月07日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第七十三回
「結局、今のところ…満ちゃん、あなたも私も鳴かず飛ばず、ってとこかしらねえ」
「鳴かず飛ばずですか…。上手いこと云うよねえ、ママは」
「ほほほ…、おだてたって何も出ないわよ」
 そう云いながらも、ママはカウンターの下の小棚からツマミの小皿を出して置いた。
「おっ! こりゃ、俺の好物の烏賊(いか)さしの漬(づ)けだ…。有難い」
「田舎(いなか)から、生きのいいのを送ってくれたのよ…」
「で、作ってくれたんですか? 水割りよりチューハイのレモン割りが欲しい気分ですねえ」
 私は飽くまでも希望を云っただけだった。その時、一瞬だが、酒棚に置かれた玉が、この前と同じ異様な光を発して渦巻いた。
「そう思って…、はいっ!」
 ママは烏賊のツマミを隠していた小棚からチューハイのレモン割りのグラスをそっと出してカウンターへ置いた。見れば、今作ったように冷えている。おい、待てよ。マジックじゃあるまいし、いつ作ったんだ? と、私は奇妙さに幾らか引きながらママの顔を見た。
「フフッ、サービスよお~。早希ちゃんの変わりっ!」
 にっこり笑うママの顔が印象的だったが、サービスの嬉しさより、どうしても理解できないチューハイの出たプロセスの謎の方が勝(まさ)り、余り手放しで喜べない気分だった。

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