水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思いようユーモア短編集 (77)頑(かたく)なに

2021年01月17日 00時00分00秒 | #小説
 頑(かたく)なに・・という、私達が使っているいい言葉がある。何があろうと、ただ、ひたすらに・・という意味で、なぜかこの言葉を耳にすると、ぅぅぅ…と、思わず涙するのはなぜだろうか。TT それほどこの言葉には、その人物のひたすらやり続ける健気(けなげ)な姿が浮かんでくるのである。まあ、それも私の思いようであり、皆さんは、そうかい? などと何も思われないかも知れない。しかし、私はどういう訳か、人物の風貌(ふうぼう)がクローズアップされ、この言葉に弱いのだ。^^
 都心のとある中央官庁である。夜も更けているというのに、ビルの一角にポツン!  と輝く蛍光灯の灯りが見える。すでに誰もいなくなったビルの一室では、頑なに仕事を続ける一人の男の姿がある。警備で巡回するガードマンが、おやっ? と点いた灯りを不審に思い、ドアのノブを回した。
「なんだっ! やはり律儀(りちぎ)さんでしたか? ははは…たぶん、そうだとは思っておりましたが…」
「いや、どうも…。いつもご苦労さまです。もう30分ほどで終わりますんで…」
「いやいや、ご苦労さまです。お疲れが出ませんように…」
 ガードマンは長居(ながい)は無用…とばかり、ドアのノブを静かに閉めた。閉めた途端、警備員はどういう訳か、思わず涙に咽(むせ)んだ。
『定年前だっていうのに、あれだけ働いてヒラかよ…』
 これがガードマンの思いようだった。
 このように、頑なにやり続ける姿は、人をして思わず涙させるのである。^^
 
                      

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