水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分からないユーモア短編集 (14)落し物

2020年08月06日 00時00分00秒 | #小説

 他人(ひと)ごとではなく私もよく物を落とす。ごく短かな落し物だと鍵(かぎ)だ。^^; 落し物が出てくればそれでいいが、出てこず分からない場合はなんとかしなければならない。そうすると、生活のリズムが崩れ、心の負担となる。こんなときは自分自身が情(なさ)けないし、本当に嫌(いや)だ。皆さんも、きっとよく似た経験をされているに違いない。^^
 とある普通家庭の夜である。
「おいっ! ここに置いた俺のキーホルダー知らないかっ!」
 応接セットに陣どり、のんびりテレビを見ていた夫がガナった。
「知らないわよっ! どこか他に置いたんじゃないのっ?」
 料理中の妻にしてみれば、いい迷惑だから、捨て鉢に返した。
「馬鹿野郎っ! 分からないから訊(き)いてんじゃないかっ! つい今、テーブルに置いたんだぞっ!」
「だったら、あるんじゃない? 鍵が勝手に歩く訳ないでしょ!」
「そら、そうだな…」
「納得(なっとく)してどうすんのよっ! よく探しなさいよっ!」
「ああ…」
 その後、キーホルダーはとうとう出てこなかった。要は、ご臨終である。^^ そして、新たに買い求められ、ニューフェース[新顔]が誕生した。では、落し物は、どこに? という話に戻(もど)るが、私にはその存在がどこなのかは分からない。ただ、体外の所有物は必ず無くなることだけは分かる。人は裸(はだか)で生まれ来て、裸で去って逝(ゆ)くのだから、結局、自分の落し物などある訳がないのである。^^
 
                               完


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