水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<47>

2015年05月30日 00時00分00秒 | #小説

「お抱えの医師団がおりますから、明日からは自宅静養させていただきますのよ」
 小鳩(おばと)婦人の説明によれば、急病で仕方なく・・といったことのようだった。小鳩邸が抱える医師団は実に数十人で、この医師団で一つの病院が経営できるのでは? という規模だった。
「そうでしたか…。その程度でようございました。いえ、私はてっきり、重病でご入院されたのかと…」
 いつの間にか里山の語り口調は敬語になっていた。そのことは里山自身にも感じられたが、以前にも感じた目に見えない小鳩婦人の高貴なオーラがそうさせたのだった。
「こんなところで立ち話も、なんざぁ~ますでしょ。私の病室へいらっしゃいましな」
「いえ、お気づかいなく…。もう、失礼いたしますので。これは、ほんの拙(つたな)いお見舞いの品でございますが…」
 里山は病院へ向かう途中、急いで買い求めた果物籠を車椅子を押す侍女(じじょ)風の高貴な老女に手渡した。
「あらっ! どうも、有難うござぁ~ますこと、オホホ…」
 小鳩婦人は愛用の宝石が煌(きら)めく扇(おうぎ)で、口元を隠して小さく高貴に笑った。辺(あた)りを歩く人の足がいっせいにピタッ! と止まり、小鳩婦人の煌めく扇に視線が集中した。それに気づいた婦人は、豪華な扇を閉じると胸元のきらびやかなドレス服へ挟(はさ)んだ。
「あらっ! いや、ざぁ~ますこと、私としたことが。ほほほ…」
 小鳩婦人は笑いで取り繕(つくろ)うと、侍女に車を動かすよう指示した。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コメディー連載小説 里山家... | トップ | コメディー連載小説 里山家... »
最新の画像もっと見る

#小説」カテゴリの最新記事