里山が小鳩(おばと)婦人の入院を知ったのは、婦人が入院してから十日ほど経(た)ってからだった。小鳩婦人が入院したことを関係者にも漏(も)らさなかったことが遅れた原因だが、小鳩婦人の入院情報は、ひょんなところから齎(もたら)された。テレ京の駒井プロデューサーである。里山と小次郎の番組制作で名を上げて以降、彼は幾つもの冠(かんむり)番組をテレ京で制作して成功させていたから、里山に対しては里山様々だった。里山がいなければ、いや、つきつめると小次郎がいなければ、彼の今はなかったのである。
[えっ?! お知りかとおもってました。もう、10日ばかり前のことらしいですよ]
「そうでしたか…」
駒井からの携帯を手にし、里山は驚いた。里山が電話を切ったあと、病院へ急行したのはもちろんのことである。婦人のギックリ腰は、かなり快方へと向かい、車椅子で院内を移動していた矢先、里山がエントランスへ駆け込んできた。瞬間、二人はバッタリと遭遇した。もちろん、車椅子は侍女(じじょ)風の高貴な老女が押していた。
「あらっ! 里山さんじゃござぁ~ませんこと?」
シゲシゲと里山の顔を見ながら小鳩婦人は言った。
「ご婦人、大丈夫でございましたか…」
思ったより元気そうな車椅子姿の婦人に、里山は安堵(あんど)の声を漏(も)らした。
「明日にでも宅へ戻るつもりでござぁ~ますのよ。なにせ世間体(せけんてい)があるざぁ~ましょ」
「ええ、それはまあ…」
里山としてはエントランスの人の目もあり、頷(うなず)くしかなかった。
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