口橋と鴫田が麹町署へ戻ると、署内の空気は一変していた。
「偉いことだよ、口橋さん…」
手羽崎管理官が口橋の姿を見るや、息を切らせて走り寄ってきた。
「どうされたんです、管理官?」
「署長が消えたんだよっ!」
「!? …消えたというと?」
「昼前は署長室におられる姿を見た者もいるんだが…」
「どこかへ急用で行かれたんじゃないですか?」
「それが…携帯でも連絡が取れないんだ」
「副署長は?」
「それが…庭取さんもご存じないんだ。弱ったよ…」
「はあ…」
口橋は管理官のあんたが弱ってどうすんだよ…とは思ったが、そうとは言えず、取り敢えず短い相槌を打った。
「署長が行方不明というのも、いかがかと…」
それまで二人の会話を聞く人になっていた鴫田が、重く口を開いた。
「鴫田が言うとおりですよ、管理官。現場の指揮にも関わりますし…」
口橋が鴫田を援護した。
「ああ、そらそうなんだが…」
「副署長は何と言っておられます?」
「庭取さんは、もう少し様子を見ようかと…」
手羽崎は小声で返した。