水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <27>

2024年07月15日 00時00分00秒 | #小説

 口橋と鴫田が麹町署へ戻ると、署内の空気は一変していた。
「偉いことだよ、口橋さん…」
 手羽崎管理官が口橋の姿を見るや、息を切らせて走り寄ってきた。
「どうされたんです、管理官?」
「署長が消えたんだよっ!」
「!? …消えたというと?」
「昼前は署長室におられる姿を見た者もいるんだが…」
「どこかへ急用で行かれたんじゃないですか?」
「それが…携帯でも連絡が取れないんだ」
「副署長は?」
「それが…庭取さんもご存じないんだ。弱ったよ…」
「はあ…」
 口橋は管理官のあんたが弱ってどうすんだよ…とは思ったが、そうとは言えず、取り敢えず短い相槌を打った。
「署長が行方不明というのも、いかがかと…」
 それまで二人の会話を聞く人になっていた鴫田が、重く口を開いた。
「鴫田が言うとおりですよ、管理官。現場の指揮にも関わりますし…」
 口橋が鴫田を援護した。
「ああ、そらそうなんだが…」
「副署長は何と言っておられます?」
「庭取さんは、もう少し様子を見ようかと…」
 手羽崎は小声で返した。


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