真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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「もんじゅ」差止訴訟が問うたもの(後半)

2013年05月15日 | 国際・政治
  「もんじゅ」のような高速増殖炉は、軽水炉型の原発とは異なり、コントロールが極めて難しいという。そして、事故が発生した場合、福島第1原発のようなメルトダウン(炉心溶融)による放射能の放出・拡散にとどまらず、下記に記されているように、「核爆発」に至る可能性があるというのである。事故の可能性が大きく、「核爆発」に至るおそれのある「もんじゅ」を、今の状態で稼働させようとするのは、違法ではないか、と思う。

 旧ソ連のチェルノブイリ原発(黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉)の事故は、福島第1原発のようなメルトダウン(炉心溶融)にとどまらず、炉心が融解し、爆発したとされている。「原発事故を問うーチェルノブイリからもんじゅへー」(岩波新書)の著者(七沢潔)によると、旧ソ連の3ヶ国(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)で、事故後、汚染された土地の上に住む人々は、500万人。その汚染地帯の総面積は13万平方キロメートルで、日本の本州の57%に相当するとのことである。(汚染地帯:「チェルノブイリ事故被災者の社会保障に関する法律」<1991年採択>で、汚染地帯として認定され、保障措置の対象とする、1平方キロメートル当たり1キュリー以上のセシウム137に汚染された土地)
 そればかりでなく、爆発後の火災の鎮火やさらなる被害の拡大防止、放射線の遮断作業などに従事した原発運転員・消防士・軍人・予備兵・炭鉱労働者などが多数、急性放射線障害で亡くなっている。人海戦術で建設された「石棺」の作業者だけでも20万人にのぼるという。その後、どれほどの人が放射線障害で亡くなり、苦しんでいるのか。住民にも多くの被爆者が出たことが報告されているようであるが、正確な情報はない。
 「もんじゅ」で「核爆発」が起これば、被害はさらに深刻であろう。「核爆発」は、水素ガスの爆発による建屋の崩落とは、意味が異なるのである。

 その「もんじゅ」に関して、朝日新聞は、2013年5月13日付けで、”原子力規制委員会は近く、日本原子力研究開発機構に対し、原子炉等規制法に基づき、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の使用停止を命じる方針を固めた”とトップ記事で報じた。内規に違反し、1万個近い機器の点検を怠っていた問題を重くみたのだという。

 今回のような使用停止命令に踏み込むのは初めてであるというが、問題はそうした「怠慢」だけではない。もちろん、そうした怠慢やくり返された情報の隠蔽、改ざん、捏造なども問題ではあるが、さらに重要なのは、事故をくり返しているという現実であり、リスクの大きさである。今こそ30年近く前の”「もんじゅ」差止訴訟”が提起した問題をしっかり受け止め、根本的に考え直すべきだと思う。

 下記は『高速増殖炉の恐怖 「もんじゅ」差止訴訟』原子力発電に反対する福井県民会議(緑風出版)から「第三 なぜ「もんじゅ」訴訟を提起するか」の中の六~九を抜粋したものである。
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六 軽水炉にはない「もんじゅ」の危険性

1 
スケールアップの危険性
 「もんじゅ」は小型実験炉と大型実証炉の中間に位置する原型炉である。実用炉とされている軽水炉でも、いまだに予測もされなかった事故、故障が起こり続けている。ました原型炉では、何が起こるかわからないという問題がある。「もんじゅ」は、先行する実験炉「常陽」(5万KW)に比してスケールアップや性能など技術的にはるかに厳しい条件におかれているうえ、軽水炉にはない高速増殖炉固有の危険性を備えている。


2 
炉心崩壊の可能性
 まず、炉心の出力密度が軽水炉に比して大きく、熱のバランスがくずれると急速に温度が上昇し、燃料棒の破損、ナトリウムの沸騰をもたらしやすい。何らかの原因で炉心全体、あるいは一部の冷却効果が低下すると炉心の破壊、崩壊、溶融に至る危険性は、軽水炉より、はるかに大きいのである。


3 
核爆発は起こりうる
 軽水炉では、少なくとも核爆発は起こらないであろうとかんがえられているが、高速増殖炉は、炉心に異常が起こり、ナトリウムの気泡が発生し、原子炉の緊急停止に失敗するという事態が起これば大暴走→核爆発に至る可能性を秘めている。軽水炉では、炉心溶融という事態になっても、こうした核爆発はまったく考慮されていない点と比較すると、その危険性は重大である。


4 
ナトリウムの危険性
 冷却剤に使用されるナトリウムは、水や空気にふれると激しく反応し、爆発的に燃える性質を持っている。ナトリウムと水、空気との接触を完全に断つことは困難であり、思わぬ事故や故障で、押さえ込まれていた危険性が表面におどり出し、事態を一層悪化させる可能性は否定できない。



プルトニウムの危険性
 軽水炉の数十倍のプルトニウムを炉心にかかえこむ高速増殖炉で炉心溶融事故が起こった場合、蒸発、飛散によって微粒子となった大量のプルトニウムが放出され、住民を襲うことになる。西独が計画している高速増殖炉原型炉SNR-300(30万KW)について米国の科学者リチャード・ウェッブが行った評価によれば、核爆発による大規模な放射能放出が生じれば、一定の気象条件の下では16万平方キロメートルの土地を放棄しなくてはならないとされている。



七 プルトニウムの管理は不可能
 プルトニウムは、この世で最も毒性の強い物質の一つである。プルトニウム239の半減期は24000年で半永久的に消滅せず、体内にとりこまれると長く留まり、まわりの組織を長期間被曝し続ける。「もんじゅ」はこの猛毒物質を最も大規模に生産し利用する。プルトニウムの管理は、安全面で極めて厳しい条件下に置かれざるをえない。同時に核兵器の材料であることから軍事転用の危険性に歯止めをかける厳重な管理体制が必要とされるとして国民に対するあらゆる面での管理を強化する危険性も増大している。このようなプルトニウム管理社会は基本的人権を侵害し、民主主義の原理と相容れない。

 
 プルトニウム燃料の取得、加工の計画も明らかにされず、使用済燃料の再処理のメドも不確かなまま「もんじゅ」が運転されることになれば、過剰なプルトニウム、使用済燃料が施設内にあふれることになろう。その存在は各種の危険につながっていく。プルトニウムを完全に隔離し、安全に管理する方法は、未だ見い出すことができないのであり、このようなプルトニウムの大量利用に道を開く「もんじゅ」建設は許されない。 
 
八 「もんじゅ」は壮大なムダ

 高速増殖炉の開発には各国とも膨大な費用が投じられてきた。「もんじゅ」は昭和54年当初の建設見積もりが4000億円とされたが、早くも5900億円に修正された。80年代に「もんじゅ」に投じられる開発費は1兆円をこすものと予想されている。
 高速増殖炉は、軽水炉に比べて破格の建設費を要し、使用済み燃料貯蔵施設、燃料生産、輸送、再処理、廃棄物処理、廃炉の各段階を含めると、必要な経費は見当もつかない巨費にのぼろう。しかも、高速増殖炉核燃料サイクルのほとんどが未だ研究段階にあり、開発のメドは全く立っていないのである。アメリカのクリンチリバー原子炉は、当初予算の10倍をこえる建設費の高騰で、建設を中止し、西独のSNR-300もまた、4倍も建設費がふえたために建設を差し止められている。

 安全上の問題を多くかかえ、巨額の投資をしてまでも「もんじゅ」建設が急がれているのは、増殖の効果への期待とされる。しかし、高速増殖炉自体の増殖が意味を持つのには何十年も原子炉の運転を続けた後であり、それまでに要する費用を考えると経済的には全く意味をもたない。「もんじゅ」建設は壮大なムダと評するほかないものである。


九 結論

 若狭湾岸の既設原発11基だけでも、住民にとってその十字架は重すぎる。行き場のない廃棄物、廃炉のお守り。既に郷土は死の灰にいたるところまみれている。そのうえ、さらに「もんじゅ」を建設することは、子々孫々の未来までをも奪うことであり、人間として許されるべき行為ではない。そして何より住民は”モルモットにはなりたくない”と叫ぶのである。「もんじゅ」建設差止めは、福井県民全体の悲願である。我々は、必ずやこの裁判で「もんじゅ」の危険性が裁判所に十分理解され、その建設運転の差止めを認める判決が下されるものと確信するものである。


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