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真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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平頂山事件は井上中尉の独断専行か?

2009年10月03日 | 国際・政治
 「追跡 平頂山事件ー満州撫順虐殺事件」田辺敏雄(図書出版社)を読んで、平頂山事件の概要は、本書によってほぼ明らかにされているのではないかと思ったが、「平頂山事件 消えた中国の村」石上正夫(青木書店)は、その村民皆殺しの命令や指示に関する結論部分に疑問を投げかけている。日本軍の体質的問題としてとらえる必要性があるかも知れないと考え、ここに抜粋することにした。
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                 第3章 平頂山事件

 兵士たちの証言

 ・・・

 小隊長の井上清一中尉が襲撃現場にあって、人より異常な積極性をもって虐殺命令をくだした事実は、井上小隊の複数の隊員の証言の一致するところである。井上中尉の現場責任は、田辺氏(「追跡 平頂山事件ー満州撫順虐殺事件」の著者)が指摘するように最も重い。この事実は動かしがたいものがある。が、現場にいなかった満鉄職員も、戦後調査した者も、一致して井上中尉の「独断専行」を強調するところに、一つひっかかるものが私にはある。井上中尉には自刃した烈婦夫人を背負った特異な人として噂され、噂に根拠をもつ「人物評価」の根深さが、いつもつきまとっている。
 
 関東大震災のさなか大杉栄ら3人を殺害した甘粕正彦憲兵大尉は、「独断専行」の罪をかぶったがために、逆に出獄後には軍から優遇され、満州において「闇の帝王」の地位についた。
 張作霖大元帥を爆殺した関東軍高級参謀・河本大作大佐も、同じく「独断専行」の罪をかぶりながら、恫喝によって軍事裁判を逃れ満鉄理事の地位を獲得した。
 井上清一中尉についても、「独断専行」の名のもとに同中尉一人を断罪することで、累が軍上層部に及ばぬよう画策されたのではないか、という疑念がつきまとうのである。

 国際連盟において中国代表が平頂山事件を指弾したさい、武藤信義満州国大使・関東軍司令官(兼務)は、内田康哉外務大臣にあてて次のように返電し、事情説明をしている。事件後76日たった11月28日の外務省電においてである。

  「……9月15日夜約約2千ノ兵匪及不良民ハ撫順市外ヲ襲撃シ、且各自ニ放
 火セルノミナラス、我独立守備隊ヲ襲エリ。之等兵匪及不良民ノ徒ハ、千金堡及
 栗家溝ヲ根拠トセルヲ以テ、井上中尉ノ率ユル1小隊ハ、16日午後1時、千金
 堡ニ至リノ捜索ニ着手セル処、却テ匪賊ノ発砲ヲ受ケ、我軍ハ自衛上迫撃
 砲ヲ以テ之ニ応戦セリ。交戦30分後村落ノ掃討ヲ終ヘタルカ、村落ハ交戦中発
 火シ大半焼失シ、又匪賊及不良民350名仆レタリ。右ハ支那側ガ大袈裟ニ宣伝
 スルカ如キ、多数無辜ノ民ニ対スル残虐行為ニ非ス。我軍ノ自衛処置ニ過キヌ
 ……」

 2千名のゲリラが撫順を襲撃したというところだけ正しく、その他はすべて虚偽の作文である。中国側の調査や生存者の証言、作戦に参加した兵士の証言に照らしても、その作為は歴然としている。その作為歴然の報告書に「井上中尉ノ率ユル1小隊ハ」が出てくる。武藤関東軍司令官は、とくにここを強調しても不自然ではなかろう。
 川上中隊長の在・不在にかかわらず、1小隊の「独断専行」で行えるような小さな作戦ではなかった。川上中隊長は直属上官としての責任はまぬかれないが、第二大隊長と関東軍司令官こそ現地駐留軍の最高責任者ではないか。中隊長の責任を問えば、さらに上層部への責任追及の危険を残す。井上中尉の「独断専行」でけりをつければ、問題はそこで終わる。国際問題に発展したさいを考慮しての深慮と思われるが、どうか。

 関東庁は天皇の命令、勅令によって設置され、満州国をつくりあげてからは、関東庁長官は関東軍司令官と満州国駐剳特命全権大使を兼ねていた。前掲の作為にみちた報告書は関東軍司令官の名で作成されたものである。司令官は天皇の直属であるから、満州侵略の一環のなかで発生した兵頂山事件は、国際問題になれば日本の国体自体が責任を問われかねない性格のものであった。武藤司令官の報告にはそうしたことへの配慮があったと思われる。
 絶対服従の軍隊のなかにあって、上層部に責任がおよばぬように、常時さまざまな作為が行われていた。日本軍の構造的特質である。



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コメント (2)
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