今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

『謙信越山』を読む

2023年01月03日 | 作品・作家評

毎年正月三が日は、仕事は一切せずに、読む本は歴史、とりわけ関東戦国史の書を読むことにしている。

今年読んだのは、乃至政彦著『謙信越山』(JBPress)。
すなわち越後の上杉謙信による関東遠征(越山)に絞った本。

謙信は自らの意思で越山を繰り返したのではなく、北信濃(川中島)の関わりと同じく関東側の要請に応じたまでのこと。

なので、それを招いた側の関東の諸将(簗田晴助、里見義堯、小田氏治、太田資正)の記述から始まるのが、従来の謙信本にない特色。

実は、関東戦国史の主役たる彼らの情報の少なさが既刊書の不満点だった。
本書では、上記の諸将個人に焦点を当てた記述が、混沌とした関東戦国史の中で煌めく個性の紹介となっている。
実際、本書の帯には、「冲方丁氏絶賛!!『歴史の WHYに挑む波乱万丈の東国史に感服!このまま映画化されてほしい程とにかく面白い!』」とある。

本書のミソは、越山の動機を、従来的解釈である上杉憲政の依頼(管領職および上杉家の継承)に基づくよりも、京で出会った関白・近衛前久の誘いを重視している点。
それゆえ前久との離別が、謙信の関東への執着を解除し、小田原北条氏との和議(と北陸道への転進)を導いたことになる。
実際、謙信は幾度も越山してその都度関東を蹂躙したが、関東の経営(支配)には関与が低かった。
また、謙信本人についての、妻の有無・女人説・敵中突破・敵に塩を送る・越山の略奪目的説・死因なども史料に基づいて解明を試みている(謙信の特異なメンタルを理解するポイント”出奔”についても論じほしかった)。
歴史書が史料に基づくのは当然のはずだが、一部にそれを無視して個人の”常識”で論じる(「〜であるわけがない」などの言辞)著者もいることは確かで、本書は史料を駆使して脚注も膨大となっている。

本書は、謙信本人のみならず、上述した関東諸将などを個性的に捉えている点で、映画化可能というのも頷ける。
ただ、それにしても、結局謙信の越山は、謙信自身にとっても、関東諸将にとっても、そしてそれに対抗した小田原北条氏にとっても、結局は何も解決せず徒労でしかなかったということで、虚しさだけが残るのも確かだ。
映画化する場合、ラストの締め方が気になる。