「線状降水帯」という用語が、一般の天気予報・防災情報でも使われるようになった。
そこでテレビでも早速、この用語を使っているが、ある番組では「線状」にこだわって、どのくらいの長さが該当するのかを問題にしていたが、気象庁では長さについての定義はないことも紹介していた。
線状降水帯は、気象レーダーを使った「高解像度降水ナウキャスト」による、上空の降水帯(雨雲)の実況と予測情報(気象庁のサイトでは「ナウキャスト」)で表現されるもので、強い降水域が細長く線状に拡がったものである。
なぜ、線状になるかというと、おおもとである梅雨前線と同じ原理で、湿った空気(風)が収束(合流)している場所が線状に拡がっているためで、そこでは収束した空気が上昇して雲が鉛直方向に成長して積乱雲となり強い雨をもたらす(ただし積乱雲1個の寿命は短いので、積乱雲1個がもたらす強雨は短時間=夕立)。
降水帯が線状であることは、低気圧の中心部のような”面状”よりは狭いので、それ自体に災害危険性があるのではない。
ただし線状に延びていることで、川の流域全体が強雨域になり、洪水の危険性が高まることはありうる。
もちろんそれは降水帯の線と川の流路が一致している場合に限られるが、関東の鬼怒川に沿って線状降水帯ができて氾濫した事実(2015年9月)は記憶に新しい(→河川氾濫の恐怖)。
線状降水帯が、災害と結びつきやすいのは、その線状降水帯が停滞する場合である。
言い換えれば、収束域が停滞して水平方向に拡大して線状降水帯となった場合(地球規模の停滞前線である梅雨前線はその大規模なもの)、そこでは積乱雲が同じ場所で世代交代するため強雨が持続することになる。
すなわち、(本来なら短時間の)強雨が長雨化するという、最悪の状態になる。
これを確認するには、ナウキャスト画像を動画にして、線状降水帯が停滞して移動しない(あるいは次々にやってくる)場合だ。
ただし動画は”過去から現在”で確認する(”現在から未来”の動画は、”現在”の機械的な移動なので停滞は確認できない)。
停滞している場合は、短時間強雨※1と、総雨量が多い多雨による災害の両方(すべて)※2の発生を覚悟しなくてはならない。
※1:マスコミは好んで「ゲリラ豪雨」と言いたがるが、そんな下品な用語は気象学には存在しない。
最悪の気象災害なので、早急に安全な場所に避難する(自宅の方が安全ならばその限りでない)。
※2:気象災害の世界では、短時間強雨(時間雨量50ミリ以上)と連続的降雨の総雨量(200ミリ以上)とは別個の災害要因であることが判っている。前者は道路の冠水、中小河川の増水、がけ崩れなどで、後者は洪水、地滑り・土石流などである。だから気象庁の雨量情報もそれぞれが別個に伝えられている(天気予報では”地方”単位、しかも「多い所で」とあいまいな表現なので参考にならないが)。
だが、情報を受ける側にリテラシーが不足しているようだ。後者のみに該当した伊豆山の土石流災害は、この情報リテラシーの問題も関係している(市役所レベルで)。人々の防災情報リテラシーを少しでも高めるために、われわれ防災に携わる者はこうして情報発信を続けている。
実は、この種の気象災害は、必ずしも”線状”降水帯だけが原因ではない。
線状より狭い点状の収束域に次々と発生する積乱雲(短時間強雨の連続)による場合がある。
これはナウキャストではなく、気象衛星画像で雲が点状の降水域を頂点に三角状に拡がる「テーパリング雲」として確認される(右画像は、2017年7月の九州北部豪雨の時のテーパリング雲→九州北部に発生した恐ろしい雲)。
この雲が確認されたら、線状降水帯より範囲こそ狭いが、強雨と多雨による同じ内容の災害が”ほぼ確実”に発生する(なので私はこの雲を衛星画像で確認すると、その直下での惨状が想像されて顔面蒼白になる)。
すなわち、強雨域の停滞こそが恐ろしいのであり、その意味でも単に形の”線状”に意味があるのではない(移動する寒冷前線に沿った降水域も形は線状になる)。
気象庁があえて「線状降水帯」という場合は、単に形態が該当するものではなく、停滞性の危険な降水帯を意味しているはず。