博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『溥儀』

2006年07月30日 | 中国学書籍
入江曜子『溥儀 -清朝最後の皇帝』(岩波新書、2006年7月)

タイトル通り溥儀の評伝です。数え年でたった三歳にして清朝皇帝として即位させられたものの、摂政となった実父・醇親王は子供の目から見ても頼りがいのない人物で、以後溥儀は強い力でもって自分を庇護してくれる父親がわりを求め続けることになります。紫禁城に在住していた頃は西洋人家庭教師のジョンストンがその役割を一部果たしていたのでしょう。満州国皇帝時代は昭和天皇をはじめ日本の皇室と接することで、自らを昭和天皇や秩父宮らの兄弟分で日本の皇室の一員と位置づけます。そして大戦が終わり新中国が成立すると、今度は毛沢東と周恩来を庇護者として慕うようになります。

自分を庇護してくれそう者に対して、彼らが自分に何を求めているのかを敏感に察知し、それに従って自分の行動や考え方を変えていくというのが習い性となり、また新中国となってから、兄弟姉妹から「大哥」と呼びかけられてはじめて肉親の情を感じることができたという溥儀が終生求めてやまなかったのは家族なんでしょうか。溥儀のアダルト・チルドレンぶりに泣けてきます……

あと、個人的に気になったのは溥傑・嵯峨浩夫妻に関する記述ですね。満州国時代、溥儀は溥傑と嵯峨浩に男子が産まれても跡取りにするつもりがなく、日本の皇室から跡取りを招くつもりでおり、その計画が頓挫した後は旧清朝皇室の毓字輩の子弟を第二代皇帝に据えるつもりでいたとか、実は溥儀と彼の姉妹たちは嵯峨浩との折り合いが悪く、新中国成立後に彼女が溥傑のもとにやって来たことが、溥儀と溥傑の兄弟仲ばかりか、溥儀と当時の夫人である李淑賢との夫婦仲をもこじれさせる原因となったといった記述があります。

著者の入江氏はこれまで婉容や李玉琴といった溥儀の夫人たちに関する本を著述されてきたということですが、機会があれば溥傑や嵯峨浩に関する本も書いて欲しいですね。

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