博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2024年6月に読んだ本

2024年07月01日 | 読書メーター
頼山陽──詩魂と史眼 (岩波新書 新赤版 2016)頼山陽──詩魂と史眼 (岩波新書 新赤版 2016)感想
頼山陽の生涯と漢詩、『日本外史』など、その作品について。弱年の頃の脱藩騒動によって廃嫡されたこと、廃嫡された後に神辺に移っても現地での生活に満足できずに京都に移ることになり、支援者と関係が悪化したこと、書籍を集めるよりは書画を収集するのに熱心で、そのために門人とトラブルを起こしたことなどを見ると、はたから見るとかなり困った人だったようである。作品論については『日本外史』の執筆の際に『史記』や『左伝』の筆法や描写を参照したことなどが触れられている。全般的に山陽の漢詩の紹介が多い。
読了日:06月01日 著者:揖斐 高

印綬が創った天下秩序: 漢王朝の統治と世界観印綬が創った天下秩序: 漢王朝の統治と世界観感想
印綬制度から見る漢代の官制と行政機構、そして国際秩序。正直なところ印綬でここまで話が広がるとき思わず、面白く読んだ。漢代において周制は単に儒学的観点からいたずらに理想化されていたのではなく、統治の安定のための権威づけとして「漢の伝統」とともにうまく活用されていたという話や、公印が周代の青銅器に相当する役割を担っていたという話が個人的にポイントだった。
読了日:06月03日 著者:阿部 幸信

戦国ブリテン アングロサクソン七王国の王たち (集英社新書)戦国ブリテン アングロサクソン七王国の王たち (集英社新書)感想
イングランド七王国時代の覇王たちの物語。覇王の事跡は晋の文公など中国の春秋時代の覇者たちを思わせるところがあり、またイングランドにも「春秋の筆法」めいたものがあったようである。タイトルは『戦国ブリテン』よりも『春秋ブリテン』の方がふさわしい気がする。内容自体は本書の著者による『イングランド王国前史』と重なる部分が多い
読了日:06月04日 著者:桜井 俊彰

日本の動物絵画史 (NHK出版新書 713)日本の動物絵画史 (NHK出版新書 713)感想
ユーモラスな、あるいはかわいい動物絵画の系譜。鳥獣戯画のルーツを発掘によって得られた「落書き」から見出したり、江戸時代の漫画的な虎の目付きのルーツを中世の禅画に見出すといった分析が面白い。こういった古代からのいとなみが「ちいかわ」などに繋がっているのかもしれない。しかし著者の言うように西洋流の芸術では動物を描くことが低く見られたとすると、中国で活躍した西洋人画家郎世寧が西洋の画風による動物絵画を多く残しているのはどういう位置づけになるのだろう?

読了日:06月06日 著者:金子 信久

最終講義 挑戦の果て (角川ソフィア文庫)最終講義 挑戦の果て (角川ソフィア文庫)感想
最終講義というのは何かひとつ専門に関係するテーマを定めて講演を行うというものだと思っていたが、本書を見ると案外これまでの半生であるとか研究者としての来し方であるとか「自分語り」に終始しているものが多い。その中にあって京大人文研の甲骨の来歴や中国の研究者の評価を行う貝塚茂樹、慶應SFCのあり方に苦言を呈する江藤淳、今日の米中関係を予見した中嶋嶺雄の章なとどを面白く読んだ。
読了日:06月09日 著者:桑原 武夫,貝塚 茂樹,清水 幾太郎,遠山 啓,芦原 義信,家永 三郎,猪木 正道,梅棹 忠夫,江藤 淳,木田 元,加藤 周一,中嶋 嶺雄,日野原 重明

闇の中国語入門 (ちくま新書 1798)闇の中国語入門 (ちくま新書 1798)感想
「闇」というよりはネガティブ中国語入門といった趣。本書で取り上げられている単語には「内卷」「躺平」など近年の流行語もあるが、実の所現地の大学で使われている留学生用の語学の教科書に普通に出てくるものもある。単語や例文そのものよりは著者によるその社会的背景の解説が読みどころ。流行歌の歌詞や中国版Yahoo!知恵袋の「知乎」からの引用が面白い。
読了日:06月11日 著者:楊 駿驍

馮道 (法蔵館文庫)馮道 (法蔵館文庫)感想
中公文庫版からの再読。「夷狄」の契丹を含む五朝八姓十一君に仕えたということで乱世にあって無節操、恥知らずの代表格と見なされてきた馮道再評価の書。乱世にあって人民をまもるという意志があったことや九経木版印刷の開始といった彼の功績とともに、六朝以来の貴族の没落・衰退を個別の人物のありさまによって示し、当時の節度使の幕僚がいわば影の内閣を構成していたといった指摘をするなど、中世の終わりという時代性を意識した記述となっているのが読みどころ。
読了日:06月13日 著者:礪波 護

恐竜大陸 中国 (角川新書)恐竜大陸 中国 (角川新書)感想
恐竜や化石そのものより化石をめぐる人間模様の方を面白く読んだ。(特に戦前・戦中の)研究者の武勇伝、近年の若手研究者とネットとの親縁性、化石の発見に農民が多く関わってきたこと、化石の盗掘、研究機関がブラックマーケットとの取り引きを厭わないこと、それに対する出土地などの情報が失われるなどの学術的批判、海外からのコンプライアンスをめぐる批判など、多くの事項が青銅器や竹簡など中国の出土文献をめぐる事項や問題と共通していることに驚かされる。その他、中国語ピンイン表記をめぐる不都合など恐竜の学名をめぐる問題も面白い 
読了日:06月14日 著者:安田 峰俊

アッシリア 人類最古の帝国 (ちくま新書 1800)アッシリア 人類最古の帝国 (ちくま新書 1800)感想
古代オリエントの専制君主による軍事大国という程度のイメージしかなかったアッシリア。本書は出土した粘土板による文書類、図像、遺跡などの史資料を駆使して国家の興りから帝国化、サルゴン2世、アッシュルバニパルなど最盛期の王の治世、そして滅亡後に残された記憶までを描き出す。思いのほか詳しいことまでわかるものだと驚かされる。卜占に関する文書が多い点は殷周王朝を連想させる。母后サムラマトがセミラミスとして欧米でも伝承されているというのは面白い。
読了日:06月17日 著者:山田 重郎

アーリヤ人の誕生 新インド学入門 (講談社学術文庫)アーリヤ人の誕生 新インド学入門 (講談社学術文庫)感想
西欧での言語学の成立、あるいはインド・ヨーロッパ語族、「アーリヤ人」概念、「アーリヤ人侵入」説の誕生の経緯について。ダーウィンが言語学から影響を受けていたということや、考古学の立場から「アーリヤ人侵入」説に疑問を死すのに「言語学の暴虐」が持ち出されたという点を面白く読んだ。第Ⅴ章で展開されるインド学がテキスト偏重という問題や、補章で言及される固有名詞のカタカナ表記の問題などは中国学でもかなりの程度あてはまるのではないか。
読了日:06月19日 著者:長田 俊樹

広東語の世界-香港、華南が育んだグローバル中国語 (中公新書, 2808)広東語の世界-香港、華南が育んだグローバル中国語 (中公新書, 2808)感想
街角の表記、香港映画やポップスの歌詞などを利用しつつ広東語の歴史と特徴を探る。実は広東語話者が世界に広がっていることはスペイン語やポルトガル語の広がりを連想させる。また広東語が抱える問題としてローマ字表記が一定していない点や言文一致ではない点を挙げる。ただ言文不一致であることにより、却って広東語が北京語と同様に「話す・聞く・読む・書く」のすべてを達成できているという。広東語に触れることで、北京語や中国語全体の評価が変わってきそうである。
読了日:06月21日 著者:飯田 真紀

文房具の考古学: 東アジアの文字文化史 (599) (歴史文化ライブラリー)文房具の考古学: 東アジアの文字文化史 (599) (歴史文化ライブラリー)感想
いわゆる文房四宝だけでなく、広く文字使用のはじまりや書写行為そのものを対象としており、「文房具の考古学」というより「書写の考古学」と題した方が良さそうな内容。地域も中国と日本だけでなく、著者の専門らしい朝鮮半島の状況も大きく取り上げている。また、実験考古学的な試みもある。本書で大きく問題としているのは、文字、あるいは文房具(らしきもの)の登場・導入と普及とは異なるということである。これは書写行為にまつわるものだけでなく、たとえば鉄製兵器などの登場と普及についても同じことが言えるだろう。
読了日:06月26日 著者:山本 孝文

百年の孤独 (新潮文庫 カ 24-2)百年の孤独 (新潮文庫 カ 24-2)感想
南米のマコンドという未開地に入植したブエンディア一族の六世代にわたる物語。壮大なサーガとか人間の業を描いた 物語のようなものを予想していたが、実際読んでみたらひたすら下世話で突拍子のない話ばかりが続く、一種のファンタジーだった。序盤はとっつきにくいが、世界観というかノリに慣れてきたらそれが快感になる。そんな物語。
読了日:06月30日 著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス
コメント
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