博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『水戸黄門「漫遊」考』

2013年12月30日 | 中国学書籍
今年の仕事は今年のうちに第二弾。え?明らかに今年どころか去年読んだ本だろうって?細かいことは気にしちゃいけません!

金文京『水戸黄門「漫遊」考』(講談社学術文庫、2012年)

実はハードカバー版は既読なのですが、「あれ、この本って文化人類学の本だっけ?」と思う程度には初読時の内容を忘れてます(^^;) しかし他の文化人類学っぽい本が広げた風呂敷を畳められずに終わるパターンが多い中、ちゃんと本題の水戸黄門に戻って締めているのはさすがだなと。また、水戸黄門漫遊記的な物語として中国の包公物はもちろん中華映画&ドラマネタ、アメンオサのような韓流ネタも盛り込まれているので、日本の時代劇のみならず多方面のファンに楽しめる内容になっています。

これも雑多なネタを扱った本なので、本書で面白かった話を拾い出していきます。

フビライの寵臣敢普は主君より死罪七つまでは赦免してもらえるお墨付きをもらっていましたが、姚天福は敢普の罪状を十七個数え上げ、死罪に追い込んだ。……取り敢えず七つ以上罪状を確保すりゃあいいんだろうという発想がもうですねw

そして前近代の中国の裁判は民衆が野次馬になって傍聴ができたとありますが、確かにドラマでもそういう描写になっていることが多いです。 このへんは当時の実情を取り入れて作られているのだなあと。

で、本題の水戸黄門に絡んだ話では、体制内から民衆に温情を施す水戸黄門的キャラクターと、体制の外から黄門的キャラを助ける弥七的キャラとの関係を重視し、この黄門側と弥七側のバランスが崩れ始めたのが中国の『三侠五義』で、そこから弥七的キャラが完全に主役になる武侠小説が生まれたと位置づけています。 確かにドラマの『包青天』を見ていても、在野の侠客から包拯の配下となった展昭が、自分の信念が容れられず、官を捨てて野に戻ろうかと悩むのがお馴染みの展開となってるわけですが。

なお、本書によると風車の弥七とうっかり八兵衛にはモデルがいないわけでもないようです。昔流行った謎本の一種で『水戸黄門の謎』的な本には、弥七や八兵衛のモデルは「さっぱりわからん」と投げてた記憶がありますが、そのへんはさすがに学者の仕事だなあと感心した次第ですw

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