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無意識日記
宇多田光 word:i_
 



パットさんからの質問も締め切られそうだし、日記の訪問者数も落ち着いてきたことだし、そろそろ更新を再開しますかな。いや別にそれが理由で書いてなかったわけではないけれどね。

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ZABADAKの曲“遠い音楽”が好きだ。たくさん音楽をきいていると、そこに込められたいろんな感情と出くわす。激しさ落ち着き曲明るさ暗さ速さ遅さ長い曲短い曲低い音高い音実にさまざまだ。特に私個人は分け隔てなく偏りなく音楽をききたがるタイプで、いわば似非音楽グルメである。そして、グルメになればなるほど、好みの中心はシンプルさを極めたもの・ニュートラルネスを湛えたものに集約していく。たとえば私が好きな食べ物は何かと問われれば、結局白いご飯・おにぎり・おかゆ・お茶漬け雑炊、といった、毎日食べるさりげない主食を答えることになる。副食では豆腐なんかもたまらないね。お茶も好きだ。そう、私にとって、食における米や豆腐や茶にあたる存在が、ZABADAKの“遠い音楽”のスタイルになるのである。(他に似たスタイルの曲といえば“森とさかな”&“エピローグ”っていう大好きな2曲があるんだけど、それについてはまたの機会に)

この楽曲、とにかくありとあらゆることが淡々としている。無為に盛り上げるわけでもなく、妙に鬱々とするのでもなく、音がきて、次の音がきて、また次の音がきて、ある程度まとまったら終わる、といういわゆる「感動的」とか「刺激的」とかいう形容からは最も無縁なスタイル。テンポも中庸すぎるほど中庸、音も低くもなく高くもなく。アレンジもうるさすぎず静か過ぎず、メロディと、ちょっとの伴奏と、ひかえめなリズムで構成されている。しかし、私はこの曲を毎週のように聴く。

思うに、そういう「何の特徴もない」ものを魅力的にするのは、いちばんむずかしいのではないか。美味しいカレーを煮ようと思えば、たとえ安いお肉や見切り品の野菜であっても、とびっきりのスパイスやら調味料やらを取り揃え、手間をかけよりをかけ腕をふるい汗をぬぐい精魂込めて時間を費やせば結構美味しいものができあがる(と思う)。しかし、最高級のおかゆを炊こうと思ったなら、米・水・塩といった素材そのもので勝負するしかない(と思う)。刺激的に飾り立てることをすべてとっぱらって、特徴もなんにもなくなった真っ白なものを“美味しい”と思わせるためには、結局その一番難しいテーマを達成することが必要となろう。

“遠い音楽”は、そういう最高の素材なんだと思う。だから、音に静かな静かな自信が漲っていて、力む必要がどこにもない。ひたすら淡々としていて、盛り上がらず落ち込まず焦らず弛まず怠らず、音が音を呼び音と音とを紡ぎ合わせていくプロセスの中に時間の感覚と無時間の感覚の両方が生まれてゆく。音楽の音楽たる所以がここには表現されているのだ。原マスミ(ストレイシープでひつじのポーの声やってる人ねw)による歌詞もいい。そこで何が歌われているかというと、音楽について、である。なぜ歌を歌うのか。なぜ音を奏でるのか。そこに音楽があるからだ。なんだか登山家みたいなセリフだけどね。自然があっていきものがいて人がいてそこに人工がうまれて、その中に音楽が鳴っている。壮大なのに身近、身近なのに壮大なテーマを、やっぱりたいした抑揚もなく淡々と綴ってある。曲調にすんなりと合うテーマとことばの選り方だと思う。

なにより、そのバランス感覚が稀有に思える。さっきから私、この曲をどれだけ気に入っているかを書き綴りたいと思って筆を執っているわけだけど、いっこうに筆致が盛り上がらない。いつもの私の文章をご存知のかたなら、宇多田ヒカルの音楽を絶賛するときのあの熱情の渦の落し胤のような抑揚がすぐ思い浮かぶことかと思うけれど(たとえばこんな感じにね)、今回はそれができない。音を知っていれば知っているほど、自然とそうはならなくなってゆく。大袈裟につづろうと思えば思うほど、抑えようというきもちがはたらく。だからといって、つまらないと切り捨てるだなんてこともとてもできない。どちらにも傾けないのである。ただ、次の字を書きたい、この曲について語りたい、そう思うだけなのだ。こうして、見てのとおり文章の字数だけが増えていっている。妙に熱くなったり、斜に構えて冷めた目でみたり、ということが、この楽曲に対してはまるでできない。適度にユーモアの感覚も残し、けれどもどこかに真剣さもちゃんと備え、有機的になりすぎて流されることもなく、無機的になりすぎて硬直してしまうこともなく、音楽がそこにあって、それに耳を傾ける私がいて、こうやってそれについて語る私とそれを読んでくれるあなたがいて、そしてまた日が昇り日は沈み眠りについてまた朝を迎える。そんな「時の営み」がすんなりと封じ込められている。こういう感覚を、音楽に込めるのは、ひたすらにむつかしいと思うのだが、そんな力みはどこにもない。実に稀有な楽曲だ。今日こうやってこの日曜日にこの曲を聴いたのと同じように、また来週や再来週の日曜日には、この曲が聴きたくなって再生ボタンを私は押すのだろう。余計なことはそこにはない。音楽があって、聴く私、メロディを何気なく口ずさむ私がそこにいる。ただそれだけなのだ。そして、何よりそれが貴いことだと思う。また聴こう。常に私にそう思わせるたった4分42秒の奇跡的な音空間。それが、ZABADAKの“遠い音楽”という楽曲なのである。


宇多田ヒカルが最新作「ULTRA BLUE」において、彼女自身が一番聴くのが好きだといっているのが“日曜の朝”だ。このアルバムのバラエティ溢れ返る作風の中でも、ひときわ異彩を放つ、しかしちょっと前の彼女の作風を懐かしませるような、独特の立ち位置の楽曲だ。このアルバムの百花繚乱とすらいえる幅広い風味たちのなかで、なぜ彼女はこれを聴くのが一番好きなのだろう? それは僕が思うに(そして多くの人も思うだろうに)、この楽曲がニュートラルでフラットだからなんだと思う。私がZABADAKの“遠い音楽”に常々(というかたぶん、ここ数ヶ月なんだけどね)感じてた感覚と同じなわけだ。そういうバランスを彼女が自分自身で生み出しそれを音楽に込められた満足感、なにより、誰よりもいろんな風味の楽曲を生み出してきたおかげで――“Be My Last”で暗くなってみたり“Keep Tryin’”でみんなを応援してみたり、“Making Love”で愛の告白を爽やかなメロディに載せてみたり、もうとにかくいろいろである――「じゃあ結局私って、シンプルにいえばどういう人?」とふと疑問に思ってしまったときに、この“日曜の朝”という楽曲を聴いたら、彼女はふぅっと安心できるのではないか。様々な角度からにいろんな自分の横顔をひとつひとつの曲で描いていってその肖像画群で自らの周りを取り囲んでみたとき、真ん中にぽっかりできた穴に、この曲がちょうどすっぽり入るんじゃないか。そんな風に思うのだ。

歌詞を見ていても、そういうニュアンスがよく込められているように感じられる。「お祝いだ、お葬式だ ゆっくり過ごす日曜の朝だ」という一節は、僕にも特に印象深い。まるで、“This Is Love”や“Keep Tryin’”のような華やかな楽曲もある一方、“海路”や“Be My Last”のような鬱々とした深みのある楽曲もあるこの「ULTRA BLUE」という作品について象徴的に語っているかのように思うのだ。そしてその中に、このゆっくり過ごせる“日曜の朝”という楽曲も鎮座している。「締め切りとか打ち合わせとか やることがある方が僕は好きだ」と積極的な姿勢をふと見せたかと思いきや、次の行では「愛情に疲れたなら ひっそり眠るのもいいもんだ」と力の抜けたところも見せる。相反しているようで整合性が取れている、自分自身を多角的に表現しようとしたこのアルバムの中で、すんなりとした本音が語られている、という点では、この“日曜の朝”が一番なのだろう。だから、彼女はこの名曲ぞろいのアルバムの中からこの曲を選んで「いちばん好き」というのではないか。その“いちばん好き”という感覚は、他の12曲との比較の中で“こっちよりこっち、あっちよりそっち”という過程を経て選ばれた“1番目に好きな曲、2番目に好きな曲、3番目に好きな曲、、、”の中の1番目の楽曲なのではなくって、「13曲の中からどれか1曲選んでみせて」と訊かれたときに、すんなりと抵抗なく挙げられる楽曲・・・それが“日曜の朝”なんだ、という意味かと思う。多角的な魅力を常に発しているお陰で常にアイデンティティ・クライシス(“結局私ってどういう人間なの?”)と相対している宇多田ヒカルという存在、宇多田ヒカルという音楽の中で、いちばんひとつの楽曲の中でバランスと均整を保ち、さりげなく力みなくほんわかぼんやりと“軸”として佇んでいる、、そんな雰囲気を醸す珠玉の4分42秒の楽曲がこの“日曜の朝”なのだ。


、、、そう、お気づきだろうかな、ZABADAKの“遠い音楽”、宇多田ヒカルの“日曜の朝”、両者ともランニング・タイムが同じ4分42秒なのである。初めて知ったときは、ちょっとのけぞったよ。これに気がついたのは、「私からみて、冷たさや熱さや激しさや落ち着きや、そういった総てから等距離にある、フラットでニュートラルな魅力をもった音楽の代表格としてこの2曲をピックアップして比較するエントリを書こう」と思い、メディアプレイヤーに両方のMP3ファイルを入れて聴いたときだった。流石に、びっくりした。「偶然とはいえ、これはよい縁(よすが)だ。」と思い、このリラートのアイディアをずっと暖めてきたわけだけど、今日ようやくカタチにして日の目を見させた次第である。素敵な偶然の一致は、ひとを元気にしてくれるね。

この2曲、両者とも私はなぜか日曜日に聴きたくなる。“日曜の朝”なんかもうまさにタイトルからしてそのまんまなんだけど、それだけ曲調と歌詞のテーマが一致しているということなんだろうな。この、いろんなことが混ざり合った挙句にできるぽっかりとした静謐・・・ただ静かなのではない、いろんな動的なもの、さざめくものひしめくものせめぐものたちのどれからも等距離にあるような感覚・・・両方の歌詞において、これは共通しているな、と思わせるのがそれぞれ次の一節である。

----- 聞こえない ダイナモにかきけされ 人は何故 歌を手放したの (“遠い音楽”)
----- なぞなぞは解けないまま ずっとずっと魅力的だった (“日曜の朝”)

ここには、何か、失われて二度と戻らないものに対する郷愁とも諦念ともいわくいいがたい、達観めいた感覚が込められていると感じる。感情的にいきり立つこともなく、厭世的に眉をひそめるわけでもなく、ただ言葉が心に響き印象に残るこの感覚、私、たまらなくいとおしく感じます。そしてやっぱりまた、この2曲を聴きたくなって再生ボタンを押すのだった。まる。


*****


これを読んでくれているほぼ全員が、“日曜の朝”は知っているけれど、“遠い音楽”、及びZABADAKについてはよく知らない、というひとたちかと思う。彼らについては、Hironが専用エントリを作ってひかえめに(しかし熱くw)語ってくれているので、そちらを参照されたし。どうやら、20周年記念ベストに引き続いて、「Pieces Of The Moon」が廉価版再発になるようですね。同作の1曲目が“遠い音楽”なので、気になった方は(以下略(笑))。以上っ。


コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
ご飯~♪ ()
2006-07-30 13:25:32
この前はコメントありがとうございます!

実はちょくちょくこの日記をのぞきに来てました(>Д<)ゝ

ZABADAKは聴いた事ないんですけど

『好きな食べ物は何かと問われれば、結局白いご飯』

これは激しく同意です♪

やっぱり白いご飯は美味しい!

一日に一回は白い炊きたてのご飯が食べたいな!!!

美味しい米は食べたとき甘味がありますよね!!

他の物と一緒に食べたんじゃ分かりづらいご飯の甘味、ってなわけで始めの一口はご飯だけ食べちゃいます♪

白いご飯があるからこそ他の料理が活きてくる、焼肉もご飯がなかったらイマイチだもん↓

ってなんだかコメントする内容間違ってますね(´ヘ`;)

でもこれが自分らしくていいかなって思います(笑)

 
 
 
>i_ (Hiron)
2006-08-03 22:52:42
こちらもHikkiとZABAを混ぜ込んでエントリ書いてみたので、トラバ送ります♪
 
 
 
遅レスで失礼します・・・(==; (i_)
2006-08-10 23:11:52


> 光クン



コメントどうもありがとう! このブログには初登場っすねw

ZABADAKは、すばらしいよ~。「そりゃこれじゃ売れないわ」と

聴き手に思わせつつ(笑)確りと感動させてくれる、

80年代末期でも珍しかった、日本の本格派ですわ。

詳しいことは、Hironにきけば、おしえてくれるよ~♪



そうそう、やっぱり白いご飯があるっていう安定感、

安心感は、捨てがたいものがあるのよっ。@力説

ココの読者にも、「焼肉は肉オンリー」というツワモノが

いらっしゃるが(ニヤニヤ you know who you are !)、

ご飯とのコントラストを味わうのも、また乙なんだよね~。

味の決め手は、米のよしあしもあるけれど、やっぱ水かな~。

案外ミネラルウォーターを使っても美味しくはならないんだけど(^^;

一旦沸かしてから冷やしたり、とか、一工夫するとまた

違った感じになるみたい。

(夏だから飲む用の水が冷蔵庫に冷やしてあるってだけ(笑))

あと、ウチでは普段、一人用炊くときは、小さい土鍋で炊いてるよ~。

やっぱり、炊飯器で炊くよりずっと美味しい~よければお試しあれ☆





> Hiron



トラックバック、どうもありがとっ!!

いやはやなんともはや、なんつーの、もうね、

やっぱりHikkiとザバ語らせたら、Hironのほうが、

一日の長というか、一枚も二枚も上手です。(あたりまえじゃ)

そのまんまライナーノーツにしてしまいたいくらい、

ZABADAKの魅力を簡潔且つ的確に把握してるな~。

Hikkiについてはいうまでもなく。いやすばらしい。

こっちからも、また何かリレイトして書きたい気になるが、

うーむ、なかなか難しそうだぞこりゃ・・・(^。^;
 
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