トシの読書日記

読書備忘録

漂う言葉たち

2008-11-17 15:20:51 | ま行の作家
村田喜代子「鍋の中」読了

で、読んでみました。「鯉浄土」を読んでからもう1度本書を読み返してみると、ずいぶん印象が変わりますねぇ。ただ、「鍋の中」は昭和62年の出版で21年前、「鯉浄土」はj平成18年なので2年前ということで、19年の隔たりがあります。やっぱり本書は初期の作品集ということで荒削りな部分も目立つんですが、まぁ、よくいえば瑞々しいってことですかね。なかなかよかったです。

ちなみに表題作「鍋の中」は第97回芥川賞を受賞してます。


破滅に突き進む愛

2008-11-17 10:21:10 | ら行の作家
レーモン・ラディゲ著 中条省平訳「肉体の悪魔」読了

カミュの「異邦人」の興奮がいまださめやらぬ今、なんとなくその勢いで読んでみました。

ちょっと拍子抜けですねぇ。これっていわゆる「古典の名作」として世に名高い作品ですよね。なんだかなぁ・・・。

簡単に言ってしまうと、15歳の男が19歳の人妻と出会い、愛し合い、彼女が妊娠し、出産したのち彼女が病気で死んでしまうというお話です。

訳者あとがきの一部を引用します。

「ラディゲの心理分析は、私たちの心を、その最高の喜びから最低の愚劣さまで、それはもう外科医のメスのように縦横に、残酷に切り刻んでいきます。しかし、その文章はけっして透明なものとはいえません。つまり、読者に明晰な意味を譲りわたしたあと、あっさりと消滅するような文章ではないのです。もっと言葉の物質的手ごたえとでもいいましょうか、ずっしりと重く、稠密な質量を感じさせる文章なのです。」

うーん・・・そうは思えないんですがねぇ。読み込み方が足りないんでしょうかね。とりあえず自分の心には響いてきませんでした。残念です。

現実と幻想のあわい

2008-11-17 10:04:24 | ま行の作家
村田喜代子「鯉浄土」読了

9編が収められた短編集です。姉が持ってきたので読んでみたんですが、この作家、以前に「鍋の中」というのを読んだことがあって、あんまり印象に残ってなくて、どうなんだろうなという気持ちで読み始めたんですが・・・。

なかなかどうして、いいじゃないですか(笑)「薔薇体操」というのがおもしろかったです。入院中の夫に代わって妻が仕事の書類を九州から大阪へ行って届けるんですが、その後、夫の同僚とホテルのレストランで食事をしたときに、そのホテルでここにいるはずのない夫の姿を認めるんですね。それが現実なのか、幻なのか、そこらへんの書き方が絶妙でちょっとうなりました。

あと、表題作の「鯉浄土」もなかなかでした。病気療養中の夫の滋養のために鯉を求めて鯉こくを作る話ですが、「命」というテーマを、夫と鯉のふたつの命を並べて料理する手さばきは見事でした。

また、継子殺しの民話をメタファーにした「庭の鷺」も幻想的な話で、なかなかよかった。

村田喜代子、あなどれません(笑)「鍋の中」、再読します。

男の哀愁

2008-11-17 09:18:12 | や行の作家
山口瞳「男性自身 おかしな話」読了


「山口瞳の会」会員としてはたまには読まないとねと思いまして。

やっぱりいいですねぇ。山口瞳はいいです。例えばこんなところ。

「私と関さんとがカラスミを中にして対座していた。こっちは宿酔である。一滴も飲めぬという心境である。それより、今日ここではじまったら、えらいことになるぞと思っていた。(中略)これは危険だ。関さんと目と目があう。笑ったら負けだ。しかし、遂に、私はこの重苦しいような空気に負けてしまった。私は駄目な男だ。『ウイスキイなんか・・・すこしぐらい、すこしずつ・・・ストレートで・・・飲むというのも・・・これは・・・どうだろうかな』」

この、やむにやまれぬという心持ちが、なんとも山口瞳的なんですねぇ(笑)

「もろともにあわれとおもえやまざくら」です(ってなんのこっちゃ)