トシの読書日記

読書備忘録

Say It Over And Over Again

2017-04-18 16:26:02 | あ行の作家



奥泉光「その言葉を/暴力の舟/三つ目の鯰」読了



本書は平成26年に講談社文芸文庫より発刊されたものです。奥泉光の初期の中編が三編収められています。やはり同じ作家ですから、先日読んだ「虫樹音楽集」とか「石の来歴/浪漫的な行軍の記録」等とテイストは似ていますが、初期というだけあって、なんというか、かなり理屈っぽい。でも面白い。


70年代の大学生を主人公に据え、著者自身の青春時代をそこに重ね合わせたような作品群で、なかなか読ませます。


「暴力の舟」が出色でした。すべてわかった風な口を聞いて、他人の怒りをかう、一風変わった大学の先輩をおとしいれようと、「ぼく」は、ある仕掛けを施すのですが、思惑とは全く違う展開になり、「ぼく」はがっくりきます。この場面、非常に劇的で、感動的ですらありました。「理想社会」の実現という、考えてみれば絵空事のようなことを、先輩がそれほど望んでいたということが、ちょっとおかしいような、胸を打たれるような複雑な気分を味わいましたね。


次にちょっと寄り道をしてから、本作家の中期の傑作と称される「バナールな現象」を読んでみようと思っております。

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