トシの読書日記

読書備忘録

新世紀の胎動を示す作家たち

2016-04-05 16:07:29 | な行の作家



日本文藝家協会編「現代小説クロニクル2000⇛2004」読了



以前読んだ「1990⇛1994」と同じシリーズです。講談社文芸文庫より平成27年に発刊されたものです。


保坂和志、堀江敏幸、河野多恵子ら、8人の作家の短編が収録されています。中でも出色なのは、やはり堀江敏幸ですね。「砂売りが通る」という作品なんですが、いいですねぇ。


学生時代に若くして亡くなった親友。その妹とその後何年もして再会し、彼女とその幼い娘と三人で海岸を歩く。男の胸に去来する様々な思い。それが散歩中の細かいエピソードを交えながら物語の広がりを作っていきます。


いいですねぇ。じんわりと心に効く感じで読後しばらく放心してしまいました。


他に町田康の「逆水戸」。水戸黄門のパロディみたいな短編なんですが、相変わらずふざけた内容で楽しませてもらいました。


また、綿矢りさのデビュー作(?)「インストール」。芥川賞受賞作の「蹴りたい背中」を読んだときは、ちょっとどうなんだろうと思ったんですが、本作はなかなか面白かった。


そんな中で河野多恵子の「半所有者」の恐さ。なんと言ったらいいのか、すごい小説です。亡くなった妻の遺体の所有権は夫にあるのかという問い。遺体を所有するという感覚がすでに一般常識から逸脱しているわけですが、逆にそこに河野多恵子のリアリズムのようなものを感じます。


この「現代小説クロニクル」シリーズは本書で終わっているようですが、それからもう14年も経っているんですから次の「2005⇛2009」の発刊を切望する次第です。



と、ここまで書いてネットで調べてみたら「2005⇛2009」どころか「2010⇛2014」まで出版されているようで、早速買って読んでみることにします。



という訳で以下の本をネットで購入

日本文藝家協会編「現代小説クロニクル1975⇛1979」
日本文藝家協会編「現代小説クロニクル1980⇛1984」
日本文藝家協会編「現代小説クロニクル1985⇛1989」
日本文藝家協会編「現代小説クロニクル2010⇛2014」いずれも講談社文芸文庫
尾崎翠「第七官界彷徨」河出文庫

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