トシの読書日記

読書備忘録

ゴブリンどもに子供を盗み取らせないために

2013-05-01 17:55:32 | あ行の作家
大江健三郎「取り替え子(チェンジリング)」読了


つい1年前に読んだものの再読です。これからの大江作品の数冊を再読するためにデビュー作からずっとたどって、やっとここにたどり着きました。


やっぱりもう一度読むと理解がさらに深まりますね。吾良(もちろんモデルは伊丹十三)が墜落死したことを長江古義人(もちろん大江自身)の妻、千樫が朝早く、眠っている古義人に伝えるところから物語は始まります。そして古義人と吾良との青年時代のエピソードが延々と続きます。その中で進駐軍の将校、ピーターとの出会い、そして大黄さんとその仲間がピーターを殺害したという事実。しかし、これは古義人はその現場を実際に見ていなくて、それが本当なのかどうなのか、あいまいなままになっている。その思いは吾良も持っていたと思うのだが、恐くてそれを質せないうちに吾良は死んでしまった…。


大江健三郎は「燃え上がる緑の木」三部作を執筆する前に、もう小説は書かないと宣言しています。しかし、親友の音楽家、武満徹の死によって、再度執筆活動にはいります。そして、この書き下ろし三部作で、自分が若かった頃、松山でのその出来事を作品に書く覚悟を決めたのではないかと思います。


それから、この小説は古義人の妻、千樫の存在も大きくクローズアップされています。千樫の兄である吾良が若い頃、松山でのピーターとの出来事以来、人が変わったようになってしまった。それをヨーロッパの古い伝説「チェンジリング」になぞらえて千樫の心情が綴ってあります。ここもなかなか読ませるところでした。


さて、次は第二部「憂い顔の童子」です。

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