トシの読書日記

読書備忘録

性的欲望へのアイロニー

2011-10-25 15:36:43 | た行の作家
谷崎潤一郎「鍵・瘋癲老人日記」読了



この2作品を「下世話」と前に書きましたが、撤回致します。まぁテーマは「性の欲望」ということで、下世話ではあるんですが、内容はどうかというと、まったくとんでもない話で、深くかんがえさせられることが多かったです。


まず「鍵」。56才の大学教授の夫と45才の妻。二人共それぞれ日記をつけているんですが、夫も妻も、自分の日記を相手に読ませたいと思っているわけです。でも、おおっぴらに読まれたんじゃぁ面白くない。隠し場所をしょっちゅう変えて、読ませたくないふりをしつつ読ませる。読んだ方も読んだことをそぶりにも見せない態度をとる。まぁややこしいことこの上ないです。


夫は血圧が高く、また肉体的にも衰えがきて、妻を充分に満足させられることができないでいるんですが、観念的な部分だけは異常に性的欲求が強く、妻に対していろんなことをするわけです。妻も実は淫蕩の血が流れていて、最初はそんな夫を嫌悪するんですが、徐々に淫らな女になっていくんですね。そこに木村という大学の助手が加わって、その二人のゲームは、さらに加速していきます。そしてものすごい結末が待っているという、この作家にしては。「痴人の愛」を思い出させるような、かなり劇的な話の運びです。

いや、堪能致しました。



そして「瘋癲老人日記」。これも日記の形式をとってはいるんですが、「鍵」と違い、日記そのものはさして重要なモチーフではありません。


この小説の主人公は77才。もちろん性的には機能致しません。また、神経痛による手足のしびれ、それに脳梗塞の発作もたびたびあり、看護婦付きの生活を送っているという、よぼよぼの老人なんですが、性への欲求に対しては、凄まじいものがあり、息子の嫁を溺愛し、嫁の足にものすごい執着をみせるわけです。しまいに、自分が死んだら、嫁の足を型にとって、それを石に彫って墓石とし、自分の骨ををその下に埋めてくれという、もう、足フェチの変態、ここに極まれりといった態であります。それで、土の中で嫁の足に踏みつけられて、痛い思いをし、それが快感になると妄想するわけです。


どちらの作品も、飽くなき性へのエネルギーに、もう脱帽です。



こうして、谷崎潤一郎の小説をずっと読んで来たわけですが、一応、今回の作品で自分なりのコンプリート、打ち止めということにしておきます。


いじめられ、痛めつけられることに歓びをおぼえるという、被虐趣味の「秘密」、「痴人の愛」から母への思慕へとテーマが移り、最後にまたマゾヒズムというか、歪んだ性への欲望に回帰した感じがします。生きていく上で「性」は切り離して考えることができないのはもちろんですが、これを谷崎は、あえてまともに向き合うことをせず、歪んだ形にして料理することで谷崎らしさを表現したのだと思います。


他にもまだ読んでない作品はいくつもあるんですが、またいずれ機会をみて、ということにします。でもまぁ12冊も読んだからいいかな。

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