トシの読書日記

読書備忘録

真の革命のための美しい滅亡

2009-07-15 19:06:24 | た行の作家
太宰治「斜陽」読了


「人間失格」と同じ著者で同じような雰囲気の小説ではありますが、中味は全く別物でありました。


時代はちょうど日本が戦争に敗けた昭和20年頃の話です。「最後の貴婦人」であるお母さま、その娘、かず子、その弟、直治の家族の物語です。それにかず子が流行作家である上原にからんで…ということなんですが、四人四様の人生、社会に対する価値というものを提示し、そこにどんな意味づけを行うのか、というのが本書のテーマであると思われます。


まぁおもしろいといえばおもしろいんですが、そんなに深く心には刺さってこなかったですねぇ。直治が苦しんで苦しんで苦しみ抜いて生きてきたことはわかるんですが、それが自殺にまで追いやったということが今ひとつ納得できないし、かず子が上原に惚れるのはいいんですが、子を宿して、そして子を宿すことこそが最終的な目的であるというのもピンときません。彼女の言う「道徳革命」を遂行するのなら、上原をその妻から奪い取って子供と一緒に暮らすのが本当なのではと思います。まして生まれてくる子を上原の妻に抱かせたいと言い、それが死んだ直治のためだと言うに至ってはもう支離滅裂の感を拭えません。


なんだかとっちらかっちゃった感満載で、これが太宰の最高傑作であるという人が少なくないというのがなんだかなぁですね。


太宰治を立て続けに2冊読んだんですが、なんだか納得できないんで、また本屋に走ってもっと太宰、読みます!

神の如き無智にひれ伏す

2009-07-15 18:24:03 | た行の作家
太宰治「人間失格」読了


今年は太宰治生誕百年なんだそうで、あちこちの書店でフェアをやっており、ちょっと久々に読み返してみるかと、まんまと書店の陰謀にはまって本書と「斜陽」を買って来ました。


太宰治というと、イメージとしてはずっと昔の作家みたいに感じていたんですが、今、生きていれば100歳ということで、少なからず同じ時代を生きた可能性もあったわけで、それを考えると不思議な気持ちになります。


本書は、中学生の頃に読んだような記憶があったんですが、どちらにしろ、もう内容はすっかり忘れていて、まぁ初読といっていいと思います。


読後、解説を読んで思ったんですが、太宰を何冊か読むなら、本書は最後にすべきだったんですね。順番としては「晩年」→「女生徒」→「富岳百景」→「走れメロス」→「駆込み訴え」→「新ハムレット」→「右大臣実朝」→「津軽」→「お伽草紙」→「トカトントン」→「ヴィヨンの妻」→「斜陽」→「人間失格」→「グッドバイ」とこんな感じになると思います。また、これだけ読めば充分「太宰通」を気取ってもよいのでは、とも思います(笑)


で、「人間失格」の感想ですが、とにかくすごい本です。読み終わってから「うーーーーーん」と30秒くらい唸ってました(笑)でも、すごいんですが、素晴らしいかと問われると、またまた「うーーん」と唸らざるを得ません。もしかしたらとんでもない駄作か?とも思ったりもします。

主人公が社会の既成の倫理や価値観と全く相容れないところから、それらに対して反逆し、自分の見る真実に従って生きようとするわけですが、それは自分が野放図に生きたいための体のいい方便ではないのかという思いがどうしても拭いきれないんですね。要するに、世間に対して逆らうという大義名分を振りかざして、女と遊び、酒を浴び、果ては麻薬(モルヒネ)を常用するという、全く真摯な気持ちが見えてこないんです。

逆にこの主人公、葉蔵に問いたい。人間や社会に絶望して酒やクスリに走るより、もっと建設的な道があるんじゃないかと。


こんな青臭い正論、鼻で笑われるかもしれませんが(笑)でも、自分はこの男に到底賛同する気にはなれません。


次、「斜陽」いってみます。

「もの」の物語り

2009-07-15 18:02:16 | は行の作家
堀江敏幸「もののはずみ」読了


著者がパリの裏路地の古道具屋で出会った様々な雑貨に寄せる思いを綴ったエッセイ。まぁ軽い読み物でした。

木製トランク、パタパタ時計、ベークライトの鉛筆削り、ヨーヨー、こういったいわゆる「がらくた」に著者は、ことのほか愛着があるようで、その「がらくた」に出会ったいきさつ、なぜそれを求めたかという著者の心情、そしてそれを譲り受けた売り手のその「がらくた」に対する思い入れの度合いといった話が綿々と書き連ねられていて、まぁさすがに文章の達者な方だけあって、楽しく読ませていただきました。


ちょっとした息抜きでした。